『必読』ダイジェスト 長江商学院経済学教授で副院長の李偉氏は、7月16日に『財新網』に発表されたエッセイを一部省略して以下転載する。7月8日、中国乗用車市場情報連席会(略称乗連会)が発表したデータによると、今年上半期、国内の合弁・単独投資企業で生産・輸入された外国自動車ブランドの中国乗用車市場のシェアは43%まで下がっている。実のところ外国自動車ブランドのシェアの減少は今に始まったことではない。2023年の一年間には、外国ブランドは中国乗用車市場の48.2%を占めていたものの、この年、初めてローカルブランド自動車のシェアが外国ブランドを上回った。2020年には、外国ブランドの中国乗用車シェアは依然として64.3%にのぼっていた。
外国ブランドの自動車、特にドイツ・日本・米国などの世界の大手自動車企業がもつ強力なブランドは、かつては技術においても営業力においても、中国の自動車よりはるかに優れたものだった。しかし、わずか20年間で、中国の自動車企業、とくに民間の自動車企業が飛躍的な発展を遂げ、中国ブランドの自動車は中国の道路を走るだけでなく、自動車誕生の地である欧州にまで大規模に輸出されはじめている。このような中国自動車業界の非凡な台頭を支えたのはどんな力なのか。これは中国経済が必要としている答えであるだけでなく、中国が世界に対し貢献してきた貴重な経験でもある。
「草の根」の力
改革開放後、中国の自動車業界は国有企業に主導された「市場を以て技術と交換する」という路線を選択し、数十年を経ても、強大な自主イノベーション技術による活力や自主ブランドの製品力を生み出すことはできなかった。
この過程の中で、中国の民間企業家は自動車業界の巨大な潜在チャンスを見い出し、腕試しをしたいと考えた。現在の中国で最も名の知れた二つの民営自動車企業である比亜迪(BYD)と吉利(ジーリー)は、当初は自動車製造の企業ではなかった。この二社の創始者である王伝福と李書福は中国自動車業界の巨大なチャンスと未来を早くから見定めていて、考えるだけでなく実行に移したのだ。
しかし、民間自動車企業が自動車を造るときに直面する一番目の大問題は、世界の大手自動車企業との競争ではなく、営業許可証であった。長い間、自動車製造は資本や技術があればできるといったものではなく、政府の発行する営業許可証を得て初めて行えるもので、それはほとんどが国有企業に与えられていた。とはいえ、国有企業の成績が振るわないことで、民間自動車企業にもチャンスが与えられた。2003年、比亜迪は経営不振の国有企業である秦川自動車を買収し、自動車製造の営業許可を獲得した。当時の市場には比亜迪の将来性を見込む者はなく、「比亜迪が自動車製造をする」という情報が発表されると、株価はたちまち大幅に下落した。もう一つの民間自動車企業の吉利も営業許可問題であらゆる手を尽くし、ようやくその難関を突破した。
営業許可の問題を突破した後、民間自動車製造企業はすぐさま市場競争に加わった。当時、比亜迪であろうと吉利であろうと、自動車製造には困難が山積みで、経験もなければ技術もなく、第一線の部品工場に長期的に頼れるサプライヤーになってもらうことはとても難しかったが、彼らの一番の売りはコストパフォーマンスにあった。この一点だけで、これらの自動車企業は当時合弁自動車や輸入車が支配していた自動車業界に討ち入った。それからわずか20年余り後に、われわれは彼らの壮大な志と力を知ることになった。
近年、中国の民間自動車企業は雨の後のタケノコのように生まれていて、特に新エネルギー分野では、精鋭企業が続々と生まれている。実際、中国の新エネルギー自動車分野における発展は、もはや世界の他地域のはるか先を行っている。
実際、筆者は新エネルギー自動車というチャンスがなかったとしても、中国の民間自動車企業はこの局面を打開することができ、世界規模で国際大手自動車企業と正面をきって戦うことができたと考える。このことについては、吉利の例をみるとよく分かる。吉利は有機的成長(オーガニック・グロース)とボルボ自動車の買収により、30年もかからずに名実ともにグローバル自動車企業となった。今日でも、吉利の製品のほとんどがいまだガソリン車であることは、知っておくべきだ。
市場経済の勝利
最近、米国政府は中国の新エネルギー自動車に対し、さらに100%の追加関税を徴収すると発表し、欧州でも中国の新エネルギー自動車に最高で38%の追加関税を導入すると発表した。彼らの共通の理由とは、「中国の新エネルギー自動車の強い競争力は政府の補助金によるもので、こうした不公平な競争が本国の類似企業の合法的・合理的な権益に損害を与える」というものだ。
事実として、中国の新エネルギー自動車市場の激しい競争は衆目の認めるところで、激しい価格競争と「内巻き競争(過当競争)」により、企業の利潤は大きく下がり、一連の問題を引き起こしてはいるものの、企業や産業の競争力からみると、これは企業の淘汰を促進し、コスト優位、技術優位、ブランド優位をもつ企業のみを生き残らせたのみならず、スケールメリットによってより大きく、より強くなっていき、世界の自動車業界の競争において高い名声を得ることにもなった。国際自動車業界で現在広く認められている見方として、「中国新エネルギー車市場の中で勝ち残ることができれば、世界市場でも大きな勝利をおさめることができる」というものがある。これが市場経済の勝利であり、政府補助金の結果ではないことは明らかだ。
ここまで書いたところで、筆者は感嘆せずにはいられなかった。中国人は企業家精神の欠如どころか、批判的なイノベーション意識も欠いてはおらず、以前自動車業界がよくなかったのは、ほとんどがやはり計画経済のもとでの産業に対する監督・管理のせいだったのだ。二十数年前、政府が民間企業の自動車製造のために小さな隙間をあけ、その後しだいに民間企業が自動車産業に参入する障壁を低くした結果、新エネルギー自動車はまるで一夜にして爆発的に誕生したかのような状態になった。今、欧米が関税や非関税貿易障壁を用いたとしても、短期的に国産自動車の輸出を制限する効果はあるだろうが、貿易保護によって中国車の輸出を阻止するのは、痴人の夢の如き非現実的でばかげたものである。
政府がイノベーションの公平な競争環境をつくりあげて維持し、民間企業が十分に競争し、市場活力を刺激したことで、はじめて既存企業の技術独占とブランドの先発優位を打破することができ、スマイルカーブの両端(製品の付加価値がより高い部分、たとえば技術やブランドなどを指す)という正しい道筋に向かっている。もしかしたらこれは、われわれが中国自動車業界の非凡な台頭の中から学ぶことのできる最も重要な教訓かもしれず、またわれわれが世界に提供してきた最も貴重な経験かもしれない。
(『日系企業リーダー必読』2024年7月20日の記事からダイジェスト)
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