『必読』ダイジェスト 平安証券の鐘正生チーフエコノミストとそのチームは6月28日『財新網』に論文を発表、中国外国企業直接投資(FDI)の新しい特徴と新たな傾向について分析している。論文は成長傾向、資金ソース、標的市場、業界分布などの観点から、過去数年間(特にコロナ禍後)の中国における外国企業直接投資(FDI)の変遷を整理した。概要は以下の通り。
1年にわたるFDIの下落傾向
商務省のデータによれば、2024年1〜5月期における中国FDIは累計4125.1億元で前年同期比28.2%減少し、12カ月連続で下落している。特に5月の中国FDIは523.1億元となり、同30.6%減少し、2018年7月以来の最低値を記録した。
コロナ禍の後、中国FDIは一時的に大幅に増加した。商務省データを見ると、2020〜2022年の3年間における中国FDIはそれぞれ前年同期比4.5%、20.2%、9.0%増え、3年連続で過去最高を更新した。主因は2020年に新型コロナウイルス・パンデミックが発生して外国企業の投資活動が大幅に制約され、世界のFDIフローが大幅に縮小したことにある。中国は世界に先駆けて感染症を抑え込み、産業チェーンの完備が段階的に外資を引き付けることになった。
2021〜2022年にはコロナ禍で疲弊した経済の復興が国際レベルで進み、外国企業投資の回復が見られた。2023年には世界のFDIの常態化が中国国内と海外環境に急激な変化をもたらして中国FDIが減少し、前年同期比の減少幅は発展途上国よりも高くなった。
資金源はオフショア金融センターが主体で、実際の価値は高くない
中国のFDI資金ソースはオフショア金融センターが8割を超え、なかでも香港発の比率が7割を超えている。商務省のデータによると、2022年末までの中国FDI資金ソースは主に香港(73%)、シンガポール(6%)、バージン諸島(4%)、韓国(3%)、日本(2%)からだった。
2020〜2022年の3年間、中国FDI資金は香港、シンガポール、バージン諸島、ケイマン諸島、マカオ、バミューダの6つのオフショア金融センターからの割合がそれぞれ86%、88%、84%に達し、コロナ禍前の水準を上回っている。なかでも香港は資金の主要供給源で、それぞれ73%、76%、73%だった。
オフショア金融センターからの中国FDIには中国本土からの「リターン投資」が含まれることに注意すべきだ。一部の中国本土企業が税金回避や資本増値を図る目的で、オフショア金融センターを利用して中国FDIの形で資金を再流入させている可能性がある。推定によると、2020〜2022年の中国FDIリターン投資割合は約40%と推定される。これにより中国FDIの実際の価値は大幅に低下した。
外循環から内循環への転換
中国の外国企業投資は海外への「外循環」から中国国内の「内循環」に転換しており、これは注目に値する変化である。多くの在中国外資企業の投資戦略が「in China for world」(国内→海外)から「in China for China」(国内→国内)へと移行し、内国投資を主軸としている。
外資企業の輸出商品販売額は、2006年に中国国内販売額の7倍だった。10年後の2016年には、外資企業の内販額が初めて輸出額を超えた。そして2020年には、外資企業の内販額が輸出の1.5倍に達した。中国の対外輸出における外資企業のシェアも減少している。2008年、中国の全輸出に占める外資企業の割合60%近くに達していたが、2022年末には32%まで低下した。
製造業と不動産は不振、サービス業とハイテク産業が加熱
商務省のデータによると、2023年、中国製造業FDIは3179.2億元で前年同期比1.8%減少し、中国FDI全体に占める割合は28.0%だった。そのなかでハイテク製造業は6.5%、医療機器・計測機器製造・電子通信機器製造はそれぞれ32.1%、12.2%に増加した。
2023年には、中国のサービス業FDIが7760.8億元で、前年同期比13.4%減少し、中国FDI全体に占める割合は68.4%だった。2023年の中国ハイテク産業(製造とサービス)FDIの合計は4233.4億元で、中国FDI全体に占める割合は37.3%で同1.2ポイント上昇し、過去最高を記録している。
近年の傾向を見ると、中国の外国企業投資の重点が製造業と不動産からサービス業およびハイテク産業に移行している。商務省データでは、製造業と不動産の中国FDI比率は、2010年以前には70%以上あったが、2020〜2022年には33~36%に減少した。これに対してサービス業とハイテク産業の中国FDI割合は着実に上昇し、交通運輸、金融、卸売・小売、TMT、研究開発、ビジネスサービスなど6業界のFDI合計比率は2010年以前の20%未満から2020〜2022年には58~60%に上昇している。
中国FDIの中心軸の変遷は中国国内の産業構造の変化に対応していよう。2011〜2021年、中国製造業の付加価値がGDPに占める割合は4.5ポイント減って27.5%に下落した。これに対応する形で製造業のFDI割合は、25.5ポイント減少して19.4%まで落ちている。これは国際環境の変化とも密接に関連しており、例えばグローバルな産業チェーンの再構築、先進経済体の製造業への回帰、中米貿易摩擦などは、2019年以降の中国の製造業FDI投資の明らかな減少を引き起こした要因であった。
(『日系企業リーダー必読』2024年7月5日の記事からダイジェスト)
当研究院のメールマガジンをご購読いただくと、当方の週報を無料配信いたします。ほかにも次のような特典がございます。
·当サイト掲載の記事の配信
·研究院の各種研究レポート(コンパクト版)の配信
·研究院主催の各種イベントのお知らせ及び招待状
週報の配信を希望されない場合、その旨をお知らせください。