『必読』ダイジェスト 5月24日の公式情報によると、中国政府は再び史上最大規模で金額が3000億元を超える基金を設立して半導体産業を支援しようとしている。中国のこの措置は「半導体製造能力をできる限り向上させ、米国との日増しに激しくなる技術競争に対応しようとするものだ」と米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は報道する。
これより前の5月14日、バイデン政府は電気自動車、リチウム電池、半導体などの中国から輸入する180億ドルの製品に追加関税を課すことを発表した。中でも半導体の関税レベルは現在の25%から2025年には50%に引き上げられる。これが少し意外に思われるのは、中国の半導体製造技術は米国にはるかに後れをとっていて、中国の半導体製造が米国によって窮地に追いやられているのは周知のことであり、そのために中国はこの産業に巨額の投資をする必要に迫られている。なぜ米国が中国の半導体のダンピングを防がなければならなくなったのか。
中国の成熟製造プロセス半導体の製造能力は強大
事実として、半導体分野においでは28nm(ナノメートル)は成熟と先進の分水嶺で、28nm未満が先端半導体で、28nm以上がレガシー半導体である。中国が窮地に追いやられているのは先端半導体においてであり、レガシー半導体ではすでに技術的関門は突破している。またレガシー半導体の市場規模は先端半導体よりもはるかに大きく、世界の半導体分野における成熟製造プロセスと先端製造プロセスの割合はほぼ7対3で、レガシーが7割を占め、先端が3割となっている。あらゆる製造業と同じように、大規模効果が半導体分野にも存在し、中国本土の成熟製造プロセスの半導体のコスト低減速度はその他の地域をはるかに上回っており、中国は強大な製造業の基礎をもつがゆえに、今後世界の半導体分野においても家電などの分野と同様に、徐々に圧倒的な優位性をつくりあげていくだろう。
成熟製造プロセス半導体の中国における製造発展の勢いがどれだけ猛烈であるかを見てみよう。
香港の英字新聞『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)』の報道によると、2024年第1四半期の中国の半導体総生産量は同期比で40%急増して981億枚に達し、2019年同期のほぼ三倍となっている。
中国の税関総署のデータでは、2024年1~4月、中国の半導体輸出額は3552億4000万元に達し、同期比23.5%増で、史上最高値を記録した。
量の増加以外にも、質のうえでも顕著な向上がみられた。2018年1~4月、輸出半導体1枚の平均価格は約1.7元であったが、2024年1~4月では、1枚あたりの価格は4元となり、6年の間に集積回路の輸出量は2.23倍に、金額は5.25倍に増えている。
一部の細分化された分野において、中国は世界最先端の業界や企業を擁している。たとえばNE時代の統計によると、パワー半導体業界では中国産モジュールが世界の新エネルギー自動車市場に占める割合は37%に達している。世界の自動車CIS市場のなかで2024年の韋爾半導体(ウィル・セミコンダクター)のシェアは43%に達していて、米国のオン・セミコンダクター(ON Semiconductor)を抜いて世界一となっている。メモリー・インターフェース半導体分野では、瀾起科技(モンタージュ・テクノロジー)のシェアは常に40%以上を維持しており、世界の独占企業となっている。中国NOAスマートドライブ半導体分野では、地平線機器人(ホライゾン・ロボティクス)のシェアが49.05%で、著名なエヌビディア(NVIDIA)よりも高い。
さらに、中国の半導体製造の生産能力は急激に拡大中で、半導体研究機関のノメタリサーチ(Knometa Research)の予測によると、2026年には中国大陸のICウェーハ工場の生産能力が激増し、世界一になるだろうとのことだ。CSISの予測によると、現在の生産拡大の状況からみると、2030年には中国の成熟製造プロセスの生産能力が世界の50%を占めるようになるとのことである。
半導体の自給率はどうして低いのか
中国はレガシー半導体分野において猛烈な成長をみせているものの、自給率という指標からみると、半導体は依然として中国の製造業の弱点となっている。
「世界の工場」中国は世界でも主要な半導体消費国の一つで、科学技術コンサルティング会社オムディアのデータによると、中国で世界の50%近くの半導体を消費し、世界で最大の電子設備消費組み立て市場である。2020年には中国のすべてのウェーハ工場(外資が中国に設立した工場を含む)では中国本土の37%の需要しか満足させることはできず、そのために半導体はずっと中国の輸入商品類別の中で一位を占めていて、2023年の中国の輸入半導体の総価値は25兆元に達している。
これに鑑み、半導体輸入代替が中国政府の重点戦略目標の一つとなり、政府の第十四次五か年計画の中で、2025年に国産半導体自給率が70%に達するという目標が設定されたが、現在の状況からみる限りこの目標を実現するのは容易ではない。
中信証券が2024年5月16日に出した報告書によると、現在中国本土の半導体生産額は312億ドルで、自給率は16.7%だが、中国本土に工場を設立した外国企業を除くと、純粋な半導体自給率は2023年でも12%に過ぎない。研究機関のテックインサイツ(TechInsights)によると、2027年になっても中国の半導体自給率は30%を超えることはないという見込みで、高く見積もっても26.6%程度とのことである。
これには二つの主な理由がある。
一つは成熟プロセス半導体分野では依然として国産品で代用させることができないものが多くあるためだ。たとえば自動車半導体では、NXPセミコンダクターズ、ルネサスエレクトロニクス、ADI、ボッシュなどの外国企業が90%のシェアをもっていて、一部の基幹部分、たとえばデータ伝送SerDes分野、自動車エアバッグなどの分野ではほぼ外国企業の独占状態にある。自動車半導体はレガシー半導体に属するとはいえ、スマホのような一般消費電子製品とは異なり、自動車半導体は安全性や信頼性への要求が極めて高く、これには長期的な技術的蓄積が必要とされ、中国本土の半導体企業が短期間に代替品を制作するのは不可能だ。
もう一つは、半導体製造設備と材料の国産化率が低いことで、特に米国をはじめとする欧米諸国が中国の半導体に技術封鎖を行い、ハイエンド半導体製造設備や材料の輸出を禁止しているためだ。芯謀研究(ICwise)の最新の統計によると、2023年の中国の半導体製造設備の国産化率はわずか11.7%にすぎない。
中国の目標
成熟製造プロセス半導体の製造能力が強大である一方で、自給率が高くないということは、矛盾することではない。高度にグローバル化された産業のなかで、国と国との分業協力がこのような二つの現象の併存を完全に可能としている。中国は産業チェーンの中で最も優位性をもつ部分で入念な仕事を行い、十分かつ合理的な利益を得ているが、これが未来の産業アップグレードと技術進歩、その先進半導体の製造能力の発展を妨げるようなこともない。
しかし、これは純粋に経済や市場からの印象に過ぎず、地政学的衝突や中国の国家安全という角度からみると、半導体自給率の低さは中国の指導者にとって悩みの種で、タイムテーブルをつくってなるべく早く変えるべき状況である。そのため、中国政府は半導体の発展に大金を投入している。2014年9月には早くも国家集積回路産業投資基金が設立され、第一期の投資規模は1387億元、第二期には2041億5000万元にもおよび、2024年5月の第三期基金はそれらを上回る3440億元を投入している。
市場と政府という二重の推進のもとで、近年の半導体産業は中国の注目業界となっている。しかし半導体産業の技術的難度は中国の見込みを上回り、先端半導体分野では、華為(ファーウェイ)などの個々の大企業で進展があったほかは、大部分の企業で成果は見られず、偽造による政府の資金を騙し取る非合法の企業もあったほどだ。摩爾(ムーア)半導体の報道によると、2023年に中国では1万900社の半導体関連企業が工商管理部門の登録抹消・取り消しを受け、前年比で69.8%増となっている。
中国半導体の国産品への切り替え戦略の道のりは依然として遠い。世界的に見ても、半導体設計と製造の全過程を有する国はほかになく、この目標自体に合理性が存在するのか。これこそが考慮に値する問題である。
(『日系企業リーダー必読』2024年6月5日の記事からダイジェスト)
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