研究院オリジナル 2024年8月前半、中国メディアの報道や評論は主に以下の中日経済関係の内容および日系企業について多く取り上げた。
日本製鉄と入れ替わるようにやって来た神戸製鋼
7月、日本製鉄株式会社は中国の宝山鋼鉄股份有限公司との合弁事業の解消を発表したが、それから間もない8月8日、神戸製鋼と宝山鋼鉄股份有限公司、宝武鋁(アルミ)業科技有限公司の三社が神戸製鋼の東京本社で合弁契約を結んだ。宝山鋼鉄と宝武鋁業はいずれも中国最大の鉄鋼メーカーである中国宝武鋼鉄集団有限公司の子会社だ。
今回設立される合弁企業は、神鋼(天津)汽車鋁(アルミ)材有限公司と宝武鋁業の自動車用アルミパネル事業を統合し、中国の自動車市場向けに自動車用アルミパネルを提供する。日本製鉄と宝山鋼鉄の合弁会社が主に生産していたのは、従来型ガソリン自動車用の鋼板だったが、神戸製鋼と宝山鋼鉄の合弁会社が生産するのは主に新エネルギー自動車用のアルミパネルだ。対象顧客の成長見通しの違いが、両社のうち一方は撤退し、他方は進出するという対照的な結果をもたらす内在的原因となった可能性がある。
資生堂が中国市場で失速
8月7日、資生堂は2024年上半期の業績を発表したが、純利益は前年比99.9%減で、それに伴って同社の株価は2日間で25.72%と大幅に下落した。
財務諸表によると、今年以降、資生堂にとって最大の収入源の一つである中国市場での業績が下降傾向にある。2024年第1および第2四半期、中国市場での純利益は前年比でそれぞれ3%、9%下落し、2024年上半期では7%下がった。実のところ、これより前の2022年と2023年、同社の中国市場における純利益は前年比でそれぞれ10%、5%減少していた。
資生堂グループによると、核処理水の海洋放出の影響を受けたことが純利益減少の主な原因の一つとのことだが、実のところ、資生堂だけでなく、花王も近日発表した2024年上半期の業績報告で、アジア地区の市場において唯一、純利益が減少し、売上高は前年比2%減で、その中でも化粧品事業は9.2%も下落したことを公にした。同社も核処理水の事件が中国市場での成長減速に影響を及ぼしたという。
他にも、中国経済の成長鈍化、中国消費者の消費低迷および貯蓄増加も大きな要因であり、それらが市場における両極化を加速させており、ハイエンド市場は軟調な動きを見せているが、ローエンド市場は成長を続けている。実店舗の価格競争力も下がっており、来店者数も減少し続けている。
近年、資生堂は中国市場で、店舗販売における商品ブランドの配置を継続的に調整および最適化しており、赤字店舗の閉鎖を断行している。例えば、昨年以降IPSAブランドが続々と店舗の商品棚から姿を消しており、2023年12月に上海の陸家嘴中心に開店したばかりの中国初となるカスタムコンセプトショップでも販売中止になった。これと並行して、同社は新ブランドへの取り組みを強化している。今年初め、資生堂の「プレステージ」スキンケアブランドのザ・ギンザ(The Ginza)天猫(Tモール)旗艦店が開業し、中国市場に進出した。4月末、同社ブランドのドランク エレファントが正式に中国国内市場に登場することが公式に発表され、2024年下半期には300店舗で販売される予定だという。
いずれにせよ、業界は資生堂が短期間で状況を転換させるのは難しいと予想しており、資生堂もそれを認めているが、今後企業が中国市場で経験する成長のペースは、急速なものから穏やかなものに変化することだろう。
村田製作所が特許侵害で中国企業を提訴
8月3日、村田製作所は中国インダクタ大手の順絡電子を特許侵害で上海知識産権法院に提訴した。村田製作所は順絡電子が自社の5つの発明特許を侵害したと指摘し、同社に対して特許侵害をした商品の製造、販売、宣伝の即時停止、また同商品の全ての完成品および半製品の処分を求めた。各訴訟で村田製作所が求めた賠償額は50万元で、総額250万元に上る。順絡電子は村田製作所の指摘に対して反発を示しており、裁判で争う姿勢を表明している。
村田製作所と順絡電子は世界のインダクタ市場で重要な地位を占めている。業界は、今回の特許をめぐる争いは世界のインダクタ業界における構図の変化を映す縮図と見ている。地方保護主義のため、日系企業は中国の裁判所で起訴しても勝ち目はないと考える者もいるが、事実は決してそうではない。例えば、パナソニックが中国で地元のスマホメーカーのOPPOを特許侵害で提訴したところ、7月31日、国家知識産権局は、パナソニックの発明特許を依然として有効と宣告した。OPPOは同特許の無効宣告を請求していた。
協和キリンはなぜ世界第2位の中国市場から撤退したのか?
8月1日、協和キリンは中国事業の再編を発表し、この世界上位50社に入るグローバル製薬メーカーは、中国市場関連の権益を香港の維健医薬集団に売却するした。
中国は約14億人の人口を擁し、また国内では急速な高齢化が進んでおり、一つの国としては世界で2番目に大きな医薬品市場だ。では、なぜ協和キリンは中国市場から撤退することにしたのか?その理由は意外なものだ。同社の主力事業はイノベーション薬の製造だが、中国のイノベーション薬市場の規模はかなり小さく、市場全体の規模はわずか約1500~2000億元で、世界のイノベーション薬市場全体に占める比率は約3%ほどだ。中国のイノベーション薬の総量は米国の15分の1にも満たず、日本の半分未満だ。中国地区での協和キリンの収入はわずか数億元で、世界の販売収入に占める比率はたったの3%だ。
そして、中国のイノベーション薬の定価は非常に低い。イノベーション薬は医療保険の対象であり、中国の医療保険部門の担当者と「価格談判」を行う必要がある。その談判
の結果、世界で最も低い価格をつけられてしまうこともありうる。中国のイノベーション薬の価格は世界の中でも底値であり、中国は価格が世界で最も安いとされる全体の約2割の国々の中に名を連ねている。例えば、中国の百済神州のイノベーション薬であるザヌブルチニブの米国での販売価格は中国の10倍以上であり、和黄医薬が自社開発したフルキンチニブの同じく米国での販売価格は中国の24倍だ。
この他に、中国の医薬品市場の腐敗は根強く、協和キリンほどのグローバルな製薬大手でも中国のような暗黙のルールが横行している医療市場に適応するのは容易ではない。
ある分析によると、協和キリン以外にも、中国を中型市場と見るグローバル製薬企業は今後も増えると見られ、これら企業の中国での目標は安全に利益を得ることであり、中国を戦略的な新興市場ともはや見ていない。それゆえ、業界では、協和キリンの直営からの撤退やディーラー制の選択は、深い思考を経て慎重に決定された戦略だと受け止められている。