『必読』ダイジェスト 人類に影響を与える人工知能(AI)分野では、人材、とくにトップクラスAI人材がこの勝負を勝ち抜くためのカギの一つとなる。
最近、米国のポールソン研究所傘下のシンクタンク、マルコポーロが「世界AI人材追跡調査研究」を発表し、トップクラスのAI人材の流れの軌跡を描き出し、トップクラスAI人材がどこから来て、どこに行くのかを解説した。
この研究は2022年神経情報処理システム大会で論文を発表した研究者の背景調査をベースにしたものだ。神経情報処理システムは神経ネットワークの進歩に注目したもので、これは最近生成AI技術の発展の基礎となっている。マルコポーロはこれらの論文を発表した執筆者をAI研究分野のトップクラス人材とみなしているが、彼らはほぼ全AI研究者の上位20%を占める。
2020年にマルコポーロは「世界AI人材追跡調査データ」を発表しているが、今回のものはこのデータベースの改定版だ。二回のデータを比べてみると、人材の移動トレンドの変化を見て取ることができる。
トップエリートAI人材の選択はまず米国での就職、中国はその次
中国と米国のトップクラスAI人材の主な出身地と希望勤務地について、データによると、トップクラスAI人材の70%が中国あるいは米国の機関で仕事をしており、トップクラスAI人材の65%が中国あるいは米国出身であった。その他の国にはそれぞれの特徴はあるものの、中国と米国の両国がAI人材面ではいまだ確固たる主導的地位を占めている。
中米両国の競争においては、米国がトップクラスAI人材面においても顕著なリードをみせている。米国は世界のトップクラスAI研究機関の60%を擁し、世界のトップエリート(上位2%)AI人材が真っ先に選ぶ勤務地となっている。57%のトップエリートAI人材が米国での就職を選んでいる。中国は米国に次ぎ、米国の最大のライバルであるが、中国での就職を選んだトップエリートAI人材は12%にとどまり、その差は顕著である。
中国は世界最大のトップクラスAI人材の輸出国
中国は世界最大のトップクラスAI人材輸出国で、人材の数と質のうえでも米国の最大のライバルとなっている。中国で学部教育を受けたトップクラス(上位20%)のAI人材は世界の47%を占め、米国で学部教育を受けた人は18%に過ぎない。
しかし院生の段階になると、大量の中国AI人材が米国へと流れ、4割近い中国AI人材が米国でより高度な教育を受けることを選択している。米国で博士号を取得した後、米国出身でない学生のうち77%が米国に残り仕事をすることを選ぶ。
現在、米国のトップクラスのAI研究機関において、中国出身のAI人材は米国出身者の割合よりも多いほどだ。これらの機関の四分の三のトップクラスAI人材が米国と中国の出身であるが、米国出身者は37%、中国出身者は38%で、中国の人材のほうがわずかに多い。
逆にみると、中国で仕事をするトップクラスAI人材の出身地は単一であるとはいえ、75%が国内の大学と大学院で教育を受けた人材で、国外の人材が少ないのみならず、院生の段階で米国留学をした経歴を持つのはわずか10%程度である。
中国のAI人材は米国で活躍している。例えば、GPT-4チームのコア技術貢献者リストのうち約20%の研究者が中国出身だ。専門分野別にみると、GPT-4チームのコア技術貢献者リストのうち中国人材の割合が最も高いのがコンピューター視覚分野で、30%が中国出身者であった。GPT-4グループの全貢献者リストのうち、32人が中国出身者であるが、この統計の中国AI人材に外国生まれの華僑の科学者は含まれていない。
この32人のGPT-4に貢献した中国AI人材のうち、大学の学部を卒業したのは11人が中国で、21人が米国だ。大学院の段階では、これらの人材のうち8割近くが米国で学び、かつそのまま米国に留まっている。中国で大学の学部を卒業し、米国で大学院に進んで博士号を取得して働き、トップクラスのAI研究を発表するというのが、今どきの中国AI人材の典型的なイメージであるといえる。
GPT-4チームもこの面において特例とはいえない。具体的にコンピューター分野を見てみると、中国人大学院生は米国のコンピューター科学を学ぶ院生の総数の14%を占め、米国で学ぶ外国人学生の総数の四分の一以上を占めている。なかでも90%の中国人大学院生が米国に留まって自分のキャリアを積むという選択をしている。
米国にとって、中国のAI人材の流入は、米国のAI分野における急速な発展とイノベーションを成功させる要素となっている。中国にとって、米国のトップクラスの大学院卒という学歴をもち、世界のトップクラスの科学技術企業での仕事の経験を積むこれらの人材は、政府やトップクラスの科学技術企業が何としてでも手に入れたい人材である。彼らの帰国は、中国AI分野の教育と産業支援に大きく寄与するだろう。
中国と米国との距離は縮まりつつある
ここ数年、中国のAI人材の育成と吸収という面での進歩は極めて速い。マルコポーロの統計によると、2022年には中国が育成した世界トップクラスのAI研究者の割合は47%と、2019年の29%という数字に比べ大きく上昇している。中国出身のAI人材は質の上でも進歩していて、トップエリート(上位2%)のAI人材は今では26%が中国出身だが、米国は28%であり、両者にそれほどの差はない。前回の調査では、これらのトップエリートAI人材のうち中国出身はわずか10%にすぎなかった。
仕事の選択という点からみると、前回の調査でトップクラスAI人材(上位20%)のうち中国で仕事をすることを選択した人はわずか11%にすぎなかったが、米国は世界の6割近いトップクラスのAI人材を雇用していた。しかし今回の調査では、今や28%のトップクラスのAI人材が中国で働くことを選び、42%が米国で働くことを選んでいるという結果だ。ここ数年のうちに中米の差は顕著に縮小し、AI人材の勤務地の選択は米国一強から、中国と米国が競いあうという状況に変化しているとみることができる。
(『日系企業リーダー必読』2024年4月5日の記事からダイジェスト)