『必読』ダイジェスト  突然、世界のEVに対する姿勢に劇的な逆転現象が起きている。従来、一貫してEVに懐疑的だった日本を除いて、一時は熱狂的だった欧米も突然、方向転換し、欧州連合(EU)は2035年までに全EUでガソリン車の販売を禁止するという政策の延期を考慮し始め、米国では自動車に対する排気ガス制限条項の緩和を検討している。各大手メーカーの方針転換の動きは素早く、ドイツのベンツは2030年にEV100%販売計画の放棄を、アウディは昨年末にEV推進速度の緩和を発表、米国のフォードは今年年初、全てのEV生産ライン停止を突然発表し、GMも新工場開設計画を先送りにした。また、最近、アップルも10年続けてきた自動車開発プロジェクトの放棄を明らかにしている。

上述のような局面を招いた原因は多方面にわたる。例えば、商品競争力の不足、消費者の育成の不足、インフラ保障の不足、優遇政策の減退などさまざまな要素が数えられ、大部分の国際自動車メーカーのEV販売量と利潤は想定をはるかに下回るものとなった。

そうした現状から見て、EV産業において世界最大規模の中国だけがいまだに逆流にあり、発展を加速しているために、市場には次のような疑問の声が現れている。「中国は世界の‟EV孤島”になりはしまいか。こうした世界的な最新潮流は中国のEVの発展にいかなる影響をもたらすのか」

われわれはまず、中国は「EV孤島」にはなり得ないと思っている。実際、欧米の政府、メーカーは新エネルギー車に向けた発展の目標全体は変更しておらず、EVを主要な発展方向とする方針にも変化はなく、ただ一時的にペースを落とすだけである。欧米のメーカーの研究開発(R&D)投資は依然としてEVの方向に傾斜している。業界内では次のように分析している。欧米メーカーが減速する根本的な理由はEVの電池技術路線がいまだに未成熟で、中国との競争で優勢を得るすべがないからであり、欧州について言えば、全固体電池等の一連の新技術が着地してはじめて、EV産業全体にエンジンがかかる時となる。

また一方で、欧米日EV分野で保護貿易主義に転換していることも、中国のEV生産に大きな影響を与えていることは間違いない。

第一に、深刻な過剰生産力をもたらすかも知れないことである。中国のEV生産は国内市場を満足させるだけにとどまらず、世界消費市場をターゲットに生産能力を整備している。2023年、中国は日本を追い抜き、世界最大の自動車輸出国となった。中でも最も伸び率が速いのは新エネ車で、輸出の伸び率は前年同期比73.8%だった。中国EVの猛烈な発展は欧米各国の憂慮を招き、昨年から、EUは中国EVに対する「反補助金」調査を開始、今年に入ると、米国も中国EV向けの電池購入に制限を加えるなど、この欧米EV車の後戻りが、中国EV車輸出にとって弱り目にたたり目となっている。

また、中国政府について言えば、EV車の力を借りて、自動車産業を追い越し車線で追い越すための画期的な重大な戦略であり、現状から見ると、欧米の「情熱低下」に対して、中国政府は断固として発展を奨励し続けており、中長期的に見ると、過剰生産力を招く一つの要素になっている。中国の太陽光発電が良い教訓である。2010年、中国は太陽光発電産業の最大の製造国となり、生産量は世界の50%を占めたが、その全部が輸出用だった。しかし、欧米が強力なアンチダンピング制裁を行って輸出が阻止されたことで、中国政府は太陽光発電産業を支援するため、国内市場を太陽光発電生産能力の受け皿にする支援政策を打ち出した。これが太陽光生産能力をさらに拡大し、2022年には太陽光発電生産能力は世界の80%を占め、生産能力の深刻な過剰が太陽光発電産業の急速な利潤率暴落を招くこととなった。

第二に、新エネ車の国内ガソリン車市場に対する衝撃が強まっていることである。新エネ車市場の情勢変化に対する期待に基づき、2024年から中国新エネ車の値下げ合戦が始まると、BYDが率先して価格戦を引き起こしたことをきっかけに、テスラ、吉利(ジーリー)、五菱汽車、蔚来汽車(NIO)、理想汽車(リ・オート)等24ブランド63車種が参戦している。多数のブランドが「EV車をガソリン車より安く」のスローガンを打ち出し、新エネ車最低価格の10万元(約200万円)以内を探っている。10万元~15万元(約300万円)は元来、ガソリン車の「主戦場」であったため、新エネ車はガソリン車市場に未曽有の打撃を与え、中国自動車市場の競争構造を一変することになるだろう。

以上の理由があるいは、欧米EV車の構造変化に呼応し、中国新エネ車も全面的なEV化のタイムスケジュールを減速し、新エネ車に「純EV化後退、ハイブリッド(HV/HEV)化推進」の兆しが現れたことで、純EV化が減速しているからかも知れない。データから以下のことが明らかである。2023年、中国市場における純EV車販売台数は507万台で、前年同期比28.2%増、またHVの販売台数は178万台で、前年同期比69%増、また増程式EV(レンジエクステンダー)は同じく64万2000台で、同181%増であった。業界関係者は今後数年の間に、HVの市場シェアが上昇し続ける、と予測している。

同時に中国新エネ車の海外進出にも新たなやり方が現れ始めている。輸送コスト、欧米市場の貿易障壁を下げるために、中国メーカーはグローバリゼーションの足取りを速め、海外工場建設によりローカル化化生産の推進を模索している。2023年12月下旬、BYDは数十億ユーロを投じてハンガリーのセゲド市に新エネ完成車生産基地を建設する、と発表した。

(『日系企業リーダー必読』2024年3月20日の記事からダイジェスト)

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