『必読』ダイジェスト 1月30日付の「フィナンシャル・タイムズ」中国語サイトに以下の記事が掲載された。筆者は上海市自動車販売業界協会専門家グループの専門家、自動車専門のニューメディア「車瞳」と「ディーラー大観」の創始者である肖波氏。同記事を翻訳・転載する際に一部割愛している。
『孫子の兵法』を実践することで知られる日系自動車企業の管理者らは、2023年に中国市場で前例のない全面的な敗退を喫した。
中国乗用車市場信息聯席会(信息聯席=情報連席、乗連会、CPCA)が公表したデータによると、2023年の中国の乗用車小売販売台数は2169万台に達し、うち新エネルギー車(NEV)が773万台で全体の30%以上を占め、いずれも前年同期比で増加した。市場の熱気とは対照的に、日系自動車企業には暗雲が立ち込め、トヨタ、日産、ホンダなど日系3大ブランドの販売台数は軒並み減少した。
関連自動車企業が発表したデータによると、ホンダの年間販売台数は123.4万台で、合弁自動車メーカーの東風本田は前年同期比5%近く減少し、広汽本田汽車は販売台数が14%近く減少した。日産自動車の中国エリアでの販売台数は80万台に満たず、9年ぶりに年間販売が100万台に届かなかった。日系のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車は世界の販売量トップの地位にあるが、南北のトヨタ合弁2社が保っていたリードは急速に中国ブランドの追い上げによって縮小しつつあてる。
さらに追い打ちをかけるように、日系3大自動車企業の高級車ブランドは中国市場でのパフォーマンスがさらに厳しくなっている。アキュラ(Acura)やインフィニティはもはや誰も話題にしなくなり、唯一残っているレクサスは、多くの自動車製造新勢力の新鋭電気自動車(EV)ショックに単独で立ち向かう必要がある。
これほどの落ち込みには、日系車の堅実な経営原則を長年信奉してきた一部のベテランパートナーや投資家でさえ、身にしみる寒さを感じている。これを変えるには、三つの問題を考える必要がある。それは、「日系自動車の失敗の原因はいかにしてもたらされたのか」、「中国市場から撤退する必要はあるのか」、「撤退しない場合、どう改善すれば中国市場の変化に適応できるのか」という問題だ。
保守的な戦略を早急に変更すべき
すでに2022年から、日系3大自動車企業の中国市場での発展には陰りが見えており、多くの業界関係者は主な原因を中国ブランドの台頭とEVショックに求めている。とくに、内装の仕様とアフターサポートで知られるレクサスは、EVという競合品の前で優位性が大きく弱まっている。
ある日系自動車ディーラーは、その販売台数が減少した主な理由は三つあると述べた。一つ目は中国市場のペースに合わせてガソリン車製品の更新・世代交代のペースを加速させていないこと、二つ目はEV製品が不足していること、三つ目は日系自動車企業の「持病」―――管理体制が硬直化し、安定を求める価格維持戦略を習慣的に採用していることから、対応力が不足している―――で、これが決定的な原因である。
日系自動車企業の管理体制の硬直化問題について、主流の日系企業文化は普遍的に「慎重さ、最適化、策を決めてから動く、動けば全力を尽くす」などの特徴があり、多くの日系企業の管理者は通常認めることはない。だが、、成功経験は往々にしてモデルチェンジの時期において束縛となり、日系自動車企業のNEV時代における境遇も例外ではないと筆者は見ている。
2020年から2023年までを振り返ると、日系自動車の一般ブランドも高級ブランドも、戦略が保守的であることと対応の遅さが根本的な敗因となっていた。
例えば、2020年、中国の高級車は新たな販売台数を記録した。ポルシェ、ジャガー、ランドローバー、そしてドイツ系高級車ブランドの3強、さらにはボルボ、キャデラックなどの高級車ブランドが世界に展開するリソースを集中して市場を開拓した。それに対して、日系高級車ブランドではレクサスが担っているがが、依然として販売見込みに基づく生産量の決定という保守的な考え方だったことで、最適な拡大のタイミングを逃している。
2021下半期に入り、高級車市場が下落によって弱含みを見せ、ポルシェを含む高級ブランドが補助金を強化し続け、価格競争による販売促進を推進している時、レクサスは販売台数を安定させ価格を維持することを堅持した。むやみな値下げをせずに旧来のユーザーの利益を守るためだと言われているが、2022年と2023年に価格が一斉に下落する受動的な状況から分析すると、実際の効果は非常に芳しくない。
なお、価格を安定させるのはレクサスだけの戦略ではない。東風本田の販売店からは、ホンダの販売台数が減少した後、「生産台数を減らし、販売見込みに基づく生産量の決定で価格を安定させる考えが日本側の経営陣にもある」との声が出ていた。
実を言えば、5年前であれば、販売見込みに基づく生産量の決定による価格維持戦略は大いに提唱する価値があったが、ガソリン車からスマートEVへの移行段階では、この戦略は明らかに時代遅れで、時代の発展についていけなくなっていた。
販売見込みに基づく生産量決定が機能しない理由
中国の自動車市場に詳しい者ならよく知っているが、2015年から2018年にかけての中国高級車市場の高度成長期には、ドイツ系高級車メーカーが販売台数目標に非常に注目していたことで、市場の価格競争が頻発し、多くの車種の割引がともすれば30%を超え、高級車の価値維持率が急落し、ユーザー及びディーラーたちの反感を招いた。
それと対照的なのが、同時期に堅実さにこだわった日系自動車メーカーだ。トヨタ、ホンダ、日産の販売台数の利益はいずれも増加し、レクサスは高級ブランドの販売台数1位となり、自動車の平均小売価格と価値維持率は今も高級車市場で3位に入っている。
ドイツ系、米国系が中国の自動車市場を製品ダンピングの「陣地」とするなか、日系自動車企業は持続可能な発展と長期的なウィンウィンの戦略により、ユーザーやパートナーから高い評価を得ていると言える。
だが現在、中国の自動車市場の環境には非常に大きな変化が起きており、日系自動車ブランドの相手は伝統的なドイツ系や米国系から、テスラ、蔚来汽車(NIO)、理想汽車などのEVメーカーや、比亜迪汽車(BYD)、吉利汽車、長城汽車に代表される中国ブランドに変わっている。
何よりも肝心なことは、5年前の自動車市場はガソリン車が主導だったということだ。中国の自動車市場は販売台数で世界一だったが、技術面では依然として追随する立場にあり、日系のハイブリッド車とドイツ系の高性能車はともに絶対的な技術的障壁の優位性を持っていた。
今やスマートEV技術の飛躍的発展により、中国の自動車ブランドは動力、内装、スペックなどの面で世界トップ水準に達している。しかも、中国人消費者の新車買い替えサイクルの短縮は、品質の安定という日系車の優位性をさらに弱めている。
中国市場と比べると、日系自動車は世界市場で依然として力強く成長しているという見方があるが、スマートフォンのフィーチャーフォンに対する全面的な世代交代のように、スマートEVがガソリン車に取って代わるのは時間の問題であることを投資家らは内心分かっている。
淘汰を望まない自動車企業は、技術がけん引している中国市場でシェアを維持しなければならないが、これは単に販売台数と利益の問題ではなく、最前線の消費ニーズを感知することによって、自動車企業の先見的な視野と先行技術の探求能力を維持しなければならないということだ。
このことは、前述の二つ目の問題への直接的な答えでもある。つまり、日系企業が世界トップを維持するには、中国市場から撤退するどころか、中国市場のペースや消費動向についていくための工夫が必要だということだ。
「形式的なローカル化」を体系的なローカル化に
「日系自動車企業はいかに中国市場の変化に適応すべきか」という問題は一見最も重要なことのようだが、実は問題解決の考え方は最も簡単だ。それは、ローカル化体系(現地化システム)を迅速に確立することだ。
ここで指摘すべきは、ローカル化の発展に言及するたびに、合資自動車メーカーや多国籍企業にはもっともらしい聞こえのいいことばかり言う習慣的な話述がある。どの企業も新しい地域に行くと「ローカル化が最も重要だ」と強調し、投資額が莫大な多くのプロジェクトを証左とすることだ。
だが、真のローカル化は投資だけではない。資金を使うのは簡単だが、真のローカル化システムを構築するのは極めて難しい。しかも、多国籍企業のローカル化戦略を真に理解する管理者はみな、人材の育成、とりわけ企業文化を認めているハイレベルの管理者人材がローカル化の最大の試練だということを非常によく分かっている。
より率直な言い方がある。それは、日本企業、ドイツ企業、米国企業を問わず、中核経営陣は自国人が中心であり、中国人従業員が多国籍企業に入社した後、職場の「天井」はいったいどれだけ高いのか、多国籍企業の経営陣は中国籍従業員により大きな権限と中核経営陣に入る機会を与えることができないのかと、ということだ。
新たに考えるべき課題は、中国が世界の技術及びマーケティングの最先端消費市場になるにつれ、いかに現地の管理チームにより十分に役割を発揮させる余地を与えるかだが、世界の自動車企業の本部がより多くの熟慮と検討を必要とすることだ。
東風日産が発売した3気筒エクストレイルを例にとると、当時、中国側のパートナーは「3気筒に全面的に勝負を賭けることはないように」と何度も提案していたが、日産の経営陣は「日産の3気筒エンジン技術が世界をリードしており、他の地域の市場でも良好なフィードバックを得ている」と考えていて、中国市場において全力で販売すると堅持したことで、最終的に惨憺たる販売台数となった。
この失敗について、東風日産のディーラーは比較的的確な評価をした。それはつまり、「日産は自社の技術の優位性しか見ておらず、関連のマーケティング戦略と販売後の品質保証戦略がなく、中国ユーザーの3気筒エンジンに対する態度と競合製品が取り得る競争戦略も理解していなかったということだ。兵法で言うところの「己を知らずして彼も知らざれば」、失敗も必然のことである。
同様の苦境に直面したのは、製品技術を重視するホンダだ。技術トップの時期のCR-Vやシビックは値上げに成功したが、ホンダ中国の日本人幹部はEVショックへの対応に困っている。
ディーラーから見ると、現段階ではジャガー・ランドローバー、ベンツ、レクサスは販売と市場をカバーする現地の幹部チームをすでに構築しており、これから先のことはそれほど複雑ではなく、中国の先進市場での位置づけを中心に新たな戦略と審査基準を策定し、現地の管理チームに十分に発揮させればよい。
最後に、中国市場をよく理解し、中国文化もよく理解している日系自動車メーカーに話を戻そう。中国の自動車産業にはもはや「知り難きこと陰の如く」暗い不確定要素が発生している以上、企業経営者たちは速やかに方向性を確立し、「動くこと雷霆の如し」雷のように激しく動く戦術で迅速に対応する必要がある。
まさに、中国の軍事思想家の呉起が言うとおりである。「兵を用うるの害は、猶予(ゆうよ)最大なり。三軍の災(わざわい)は狐疑(こぎ)に生ず。(兵を用いる際の害は油断が最大のものであり、軍隊の本当の災いは将軍が孤立して疑いためらうことにある)」
(『日系企業リーダー必読』2024年2月5日の記事からダイジェスト)