『必読』ダイジェスト 中国老齢科学研究センターが発表した「中国老齢産業発展報告(2021~2022)」(2023年3月出版)によると、2020年の中国高齢者人口の潜在消費力は約4兆3724億元(約89兆6800億円)で国内総生産(GDP)に占める割合は5.25%に達し、2050年にはこの割合が3分の1を突破すると予測される。こうした高齢者需要の拡大に対して、市場の準備は万全だろうか?
国務院事務局が1月中旬に発表した「シルバー経済発展による高齢者福祉増進に関する意見」(以下「意見」)は民生事業、商品供給、潜在産業、環境最適化等の分野における高齢者経済発展のための計画を示している。
国務院発展研究センター公共管理・人的資源研究所研究員で研究室長の馮文孟氏はメディアに対して以下のように分析した。中国は国家政策の面で、2013年から高齢者福祉事業に着目し、2020年に統計局が「高齢者産業」という分類基準を提起、今回の「意見」で初めて「銀髪経済(シルバー経済)」と命名し、その包含する意味は前二者に比べて豊富で、「全面的、重点的であり、方向性が明確であり、政策が具体的である」という特長を備えている。
高齢者サービスの拡充に投資
中国の高齢者福祉システムは政府主導に依拠しており、在宅を基本に、社区(コミュニティ、町内会)が委託する高齢者福祉施設を補助とする「9073」モデル(訳者注:在宅90%、社区7%、施設3%)になっている。2013年に始まった投資熱の後、とりわけ新型コロナウイルス禍の深刻な影響があり、高齢者福祉事業は人材難、空きベッド、立地コスト高騰等の困難な問題に直面せざるを得ず、利益幅が極めて薄くなり、利潤周期も長くなっている。
「意見」は上述のペインポイントに以下のように応えている。新築居住区は一人当たり0.1平方メートルを下回らないという基準に基づいて社区高齢者福祉施設を建設しなければならない。また、インクルーシブ・シニア・ケア向けの借換えを図り、高齢者施設、居住している社区の高齢者福祉システム構築、高齢者向け製品製造企業への信用貸付を支援する。
いかなる分野の保障を行うのか?「意見」は高齢者・障碍者対策、在宅高齢者対策、社区サービス、高齢者健康管理、高齢者福祉ケア、高齢者向けレクリエーション・スポーツや農村高齢者福祉も含まれている。
具体的に見て行こう。高齢者施設、家事ヘルパー企業、管理サービス企業の在宅高齢者向け出張サービスの奨励、社区入浴施設支援、入浴カー、訪問入浴支援等の業種の起業促進がある。また、リハビリ病院、介護施設、緩和ケア医療施設、高齢者医学科の新設、高齢者リハビリ判定、リハビリ指導、訪問リハビリ等のサービスの強化もある。さらに、条件が整備された地方では高齢者給食施設に対する運営助成、あるいは総合的な助成、給食サービスを享受する高齢者に対する補助金あるいは食事補助券の発行も容認している。
要介護には高齢者福祉政策の傾斜配分が重視されなければならない。「意見」は地方政府に対して、高齢者施設の一般的なベッドと介護型ベッドに対する助成強化と高齢者施設の建設と改造に力を入れ、認知症高齢者向け専門ケア施設の実情に応じた増設が望まれる。これまでに「十四五(第14期5カ年計画)国家高齢者事業発展と高齢者福祉システム計画」で高齢者施設における介護型ベッド数を55%に増やすと、明確に規定している。
遅れる関連産業整備
高齢者福祉サービスに比べると、高齢者福祉産業の発展は脆弱で、政策的支援の力不足が反映されており、関連商品の種類、質の格差は大きく、大規模なリーディング企業も足りていない。
前述の馮氏は次のように指摘している。現在、中国にはおよそ4000種類のリハビリ機器があるが、日本、ドイツの4万種類に比較すれば、発展の余地は広大である。同時に、商品の性能格差は大きく、例えば、国内にすでにある介護ロボットは、外観は非常に成熟しているものの、皮膚温度、感情交流、フィードバック学習等の面でスマート応用力に欠けている。
政策の欠如がこの産業への参入者の不足を招いている。高齢者福祉関連商品製造に特化した国の政策文書は極めて少なく、産業政策は依然としてサービス産業に集中している。高齢者福祉産業投資家の中には、メディアに次のように指摘している人もいる。「一部の地方政府の伝統的な概念には、高齢者福祉事業は非産業であり、その中のビジネス化の要素に対して慎重、警戒の態度を取り、例えば、クレームを懸念し、サプリメント等の高齢者福祉製品の売買を禁止、実際にビジネス収益化を制限している。
今回の「意見」は高齢者福祉にかなり明確な定義と支持を与えている。ヘルスケア用品では補聴器、装具、義足等の伝統的な機能代償系の器具のレベルアップ、スマートいす、リフター、リハビリ型ベッド等のケア商品、認知症トレーニング、失禁改善リハビリの拡大、服薬、リハビリ目覚めによる睡眠障害改善等の設備、商品の供給の推進を求めている。
同時に、高齢者福祉金融商品、観光・滞在型の高齢者福祉、スマートヘルスケア高齢者福祉アンチエイジング産業も政策決定層の視野に入ってきた。例えば、ウエアラブル端末、リハビリロボット、家事サービスロボット、(認知症)徘徊防止デバイス等の在宅、社区、施設等における応用によって、ヘルスケア、高齢者介護インテリジェント製品、心の安らぎ関連のスマート商品。また、皮膚老化のメカニズム研究の深化、人体老化モデル、人体・毛髪のヘルスリサーチ、遺伝子検査の推進、生体分子法等のバイオテクノロジーとアンチエイジングとの融合、高齢者病の早期スクリーニング商品とサービスの開発。
しかし、今の高齢者は「財布の紐が堅い」ことが依然としてシルバー産業を悩ます大きな障壁となっている。高齢消費者は一般的にブランド意識がなく、消費行動で最も重視するのは価格が安いことであり、例えば、国内で最もよく売れている車いすは200元(約4000円)の手動車いすと1000元(約2万円)の電動車いすである。しかし、現在、少なからぬ補助器具の定価は高額で、障害高齢者が毎日必要としている12.5cm×12.5cmの褥瘡パッチは1枚140元(約2800円)もするため、多くの世帯は安い代替品を求めている。従って、将来的に、高齢者介護関連の金融保険商品を通じて、ユーザー教育を実現し、支払い能力を高めることが特に重要である。
産業全体の先行きは?「意見」は次のように提起している。国有企業を統合し、シルバー経済関連事業開拓を奨励、誘導し、民営経済の役割を生かし、不合理な市場参入障壁を打破する。また、北京・天津・河北、長江デルタ、広東・香港・マカオグレーターベイエリア、成都・重慶等の地域に10カ所前後のシルバー経済産業パークを計画する。地方政府の債券で条件に合うシルバー経済産業プロジェクトを支援し、シルバー経済のリーディング企業を育て、チェーン化、集団化によって発展を図る。
1月17日、国家統計局が発表したデータによると、2023年末現在、60歳以上の人口が全人口に占める割合は21.1%に達している。これは、中国はもはや中度の高齢社会に突入していることを意味している。
(『日系企業リーダー必読』2024年2月5日の記事からダイジェスト)