研究院オリジナル 2024年5月前半、中国メディアの報道や評論は主に以下の中日経済関係の内容および日系企業について多く取り上げた。
パナソニックの圧縮機の中国撤退、デマかそれとも予言か?
4月29日、松下電器(中国)有限公司は自社の公式サイトに「パナソニックの圧縮機(コンプレッサー)は中国市場を堅守する所存であり、誤った噂に惑わされないようにご注意ください」という重要な知らせを掲載した。その知らせは、ネット上に流れている「同社のコンプレッサーが中国市場を撤退する」という噂に対するものであり、同社は毅然とした声明を出し、同社のコンプレッサーが中国市場を撤退する計画はなく、それはあり得ないという意思を示した。
2023年末以降、多くのソーシャルメディアにパナソニックのコンプレッサーが中国市場を撤退し、日本市場へ全面的に回帰するというニュースが流れた。さらに、同社がハイグレードエアコンの生産を日本国内に回帰させるという噂も流れた。
広州にあるパナソニックのコンプレッサー製造工場は、同社にとって重要な生産基地であると同時に、同社のグローバルサプライチェーンにとって常に重要な拠点であり、世界全体で同社が手掛けるエアコン製品生産業務の90%を担っているため、この噂は業界にとって非常に意外なものだった。
しかし、この噂も決して根拠のないものではない。中国経済の発展と人件費の上昇に伴って、中国における外資企業の営業コストは増加し続けている。最も重要な点として、中国市場の国際および国内環境における不確実性が増大しているだけでなく、サプライチェーンの安定性に一定のリスクが存在し、さらに、日本政府は日系企業の国内回帰を奨励するために一連の優遇政策を行っている。
また、パナソニックによる一連の行動に憶測が絡んでいる。2023年11月、パナソニックのコンプレッサーに関して、中国の経営主体である松下万宝 (広州)圧縮機有限公司は、奥克斯空調股份有限公司とエアコンコンプレッサーの製造において提携したが、外部はこの提携が、パナソニック製コンプレッサーの生産ラインや設備、技術といった資産を中国の家電メーカーに移すための布石の可能性があると見ている。
また、パナソニックが本当に撤退するとしても、それによって中国国内ブランドにより多くの市場チャンスがもたらされ、中国国内企業の技術向上や市場シェア拡大の加速につながる可能性があると考える者もいる。中国企業にとって、これは挑戦であり、チャンスでもある。
ソニーのスマホが堅守し続ける中国市場
ソニーは5月15日、Xperiaの新製品発表会を開催し、新作のXperia 1 VIとXperia 10 VIを披露した。これらの機種は今後中国市場で販売される。
これより前に、中国のソーシャルメディアでは、ソニーの新作スマホが中国で販売されないという情報や、さらにはソニーのスマホが中国市場から完全撤退するというニュースまで流れた。ソニーはこうした噂を否定し、スマホを含む中国の事業は安定した運営が続いているという声明を出した。
2013年にXperia Z1の販売が中国で開始されてから、Xperiaシリーズの中国市場での発展は11年の歴史を刻んだ。市場での業績はずっと芳しくないとはいえ、ソニーは事業を堅持し続けてきた。ソニーの中国事業の中で、スマホはあまり重要ではなく、ないよりはましという位置付けのものなのかもしれないと業界は見ている。
問題なのは、日本国内で、ソニーのスマホが下り坂を迎えていることだ。2023年、日本市場でソニーのスマホは販売ランキングのベスト5から脱落し、市場シェアが3%まで縮小し、年間販売台数も前年比40%減だった。言うまでもないことだが、レッドオーシャンと化している中国市場で、ソニーの新作フラッグシップモデルが売り上げを伸ばすのは容易なことではない。
日本の国民的アウトドア用品ブランド・montbellの中国での拡大が加速
4月、日本の国民的アウトドア用品ブランドのmontbell(Mont-Bellと称する場合もあり)が上海で立て続けに2店舗を出店した。これより前、同社の店舗は基本的に北京に集中し、同社初のフラッグシップ店は2023年6月に北京で開店した。
欧米の有名アウトドア用品ブランドが早い時期から中国市場に進出して地域を攻略しようとしていたのと比べると、montbellの中国市場参入はのんびりとしていて遅い印象だが、中国進出後、同社は速やかに消費者からの人気を勝ち得て、「旅行の決定版」、「コストパフォーマンスの王様」などの称号が付与された。その主な要因は、現在中国のアウトドアブームが落ち着き出したことに伴い、消費のダウングレードが生じている中で、同社の目玉である手ごろな価格や高性能、シンプルかつ実用的といったセールスポイントが、市場のニーズにマッチしていることにある。
この他に、montbellはマーケティングサービスの面でも抜かりがなく、各大規模店舗はみな、各レベルのアウトドア愛好者のためにカスタマイズされた奥の深いガイドブックを提供しており、その内容には例えば、装備を選択する方法、近くの野外見物ルートといった情報が含まれ、またアウトドア活動が頻繁に計画されている。
Montbellによると、今年は上海に4店舗出店する計画があるが、そこには同社が中国市場でシェアを拡大しようとする意気込みが表れている。
中国メディア発:北京モーターショーで「傲慢な頭を下げた」日本車
1年前の上海モーターショーに続いて、4月末の北京モーターショーも再び世界の自動車メーカーの注目を集めた。昨年の上海モーターショーと比べると、今回の北京モーターショーで最も目を見張ったのは外国人の急増であり、10日間のモーターショーに海外からの来場者が2万8000人も訪れ、過去最高を記録した。
中国のメディアによると、近年中国の自動車は電動化、スマート化の波の中で急速に発展し、世界の舞台に向かって歩みだしており、今回のモーターショーでは主役として、多くの海外からの来場者を見物に引き寄せている。その来場者の中には、これまでずっと「傲慢で冷淡」だった日本車メーカーも含まれている。
日産自動車の内田誠代表執行役社長兼CEOは自ら幹部チームを率いて幾つもの中国企業のブースを見学したが、この状況は日系自動車メーカーにしてみれば、珍しいことだ。内田CEOはモーターショーに来場した時に、「現在の中国車の発展速度は確かに非常に速い。5年前に私が中国にいた頃は、これほどまでの発展は想像できなかった。今回のモーターショーでは中国で今、起きていることをチームに理解してもらいたい。速やかに決定を下す必要があり、さもなければ変化の速度に追いつくことはできない」と語った。内田CEOは、中国市場で今後2年間に自社製品の73%を更新するという考えを示した。モーターショーの初日、日産自動車と百度は協力覚書に署名し、日産自動車は今後、自社のプラットフォームで百度の生成AI製品を使用する。
トヨタ自動車もモーターショーでテンセントとの戦略的提携を結んだことを発表した。今後、トヨタはテンセントのAI大規模モデルやクラウド、デジタルエコロジーなどを自社製品に組み込む。双方の共同開発による技術が搭載された自動車が今年発売される予定だ。トヨタ自動車で取締役・副社長、最高技術責任者を務める中嶋 裕樹氏は、提携の発表会で、「中国はBEV(純電動)の方面で世界をリードしているが、中国は孤島ではない。トヨタは中国に敬意を表し、中国市場とともに未来を協創していく」と語った。
中国のメディアは、さらに日本の技術者たちが地面にしゃがんでメジャーを手に中国の自動車を測っているシーンを詳しく報じたが、過去に開催されたモーターショーでは、中国人技術者がいつもメジャーで日本車を測っていた。北京モーターショーは民族としての優越感という狂喜をもたらしたと言ってもよい。
しかし、冷静な視点で見ると、日系自動車メーカーは依然として強大であり、例えば、トヨタの2024年度の純利益は2300億元だったが、これに対して中国は黒字を計上している上場自動車メーカー12社の純利益を合わせても900億元にも満たない。トヨタ一社の純利益だけでこれら国内自動車メーカー12社の2.5倍に相当するのだ。この他に、今回の北京モーターショーの期間中に、日系自動車メーカーが見せた学ぶ姿勢と協力の精神は、これら日系企業の長期的な発展を保証するものとなるだろう。