『必読』ダイジェスト 中国経済について言えば、不動産業が「危機」に直面している。中国語の「危機」という言葉はある種の恐怖感を与えているが、実際、眼前にゆっくり迫って来てはいるが、逃げようとしても逃げられないある種の危険が、さらに恐怖感を募らせるかもしれない。2023年から2024年にかけて起きているデフレはこうした危険である。
ロイター通信は2023年末に配信した記事で、抽象的なデータを絡めず、多数の中国の小売商に着目している。記事は中国の多数の小売商が販売戦略を方針転換しようとしており、こぞって価格大戦に参入し、これが他の多くの産業の価格をますます低下させている、と報じた。この特集記事は、「これは負のスパイラルを引き起こす可能性があり、足元が定まっていない中国経済の復興がさらに困難になる」として次のように指摘している。
「中国の小売商は価格を重視する消費者の支持を得るため、廉価商品、サービス提供へと戦略を転換しているが、これは世界第2の経済体のデフレ傾向をさらに深刻化させる可能性がある」
「商品の大幅な値下げ、廉価商店の激増、企業の廉価商品の小規模生産への転換は負のスパイラルを引き起こす可能性がある。つまり、利潤率の下落は賃金、雇用機会増の抑制につながり、さらに進むと、消費者の消費願望の抑制を招く。これは足元が定まっていない中国経済の復興をさらに困難にする」
著名ブランドが軒並み値下げ
記事は数社の有名小売商の値下げ行動を例に挙げている。
良質な食材で、サービスにも定評のある、中国最大の火鍋チェーン店「海底撈」は2023年9月下旬、廉価ブランドの「海底撈」火鍋を2店舗開設した。牛肉料理など価格を旗艦チェーン店の70元から28元に引き下げ、さらにセルフサービスを取り入れることで、従業員コストを下げた。
白酒生産会社の茅台(マオタイ)は代表的な500ミリリットル入りの白酒を1499元で販売していたが、2023年に白酒を加えたカフェラテ、チョコレート商品を、35元という低価格で打ち出した。
ウォルマート旗下の会員チェーン店「サムズ・クラブ」や阿里巴巴(アリババ)旗下の「鮮味坊」も2023年下半期に、価格戦争に参戦し、サムズ・クラブの多くの売れ筋商品は絶えず割引販売され、たとえばドリアン・パイは34%値下げなど、「鮮味坊」の割引商品も多数に及んだ。
食品に止まらない。記事は上海マーケティング機関のビジネス調査会社(China Skinny)代表の見解を引用している。それによれば、割引、安売り商品は他の多数の品目の平均価格を引き下げをもたらしているが、なかでも顕著なのが健康食品、乳製品、スキンケア商品、化粧品である。
廉価商店が拡大中
記事は次のような点に着目している。常に値下げを続ける社会的環境から新たな割引店が次々に生まれ、さらに大手のライバルがこれに刺激され、大幅な値下げを宣言することになっている。記事は以下のような著名な割引店を例に挙げている。
「零食很忙(Busy For You )」はわずか6年の歴史しかないスナック菓子ブランドであり、このスローガンは「人民のおやつ」だった。長沙に本社を置く同社の製品はスーパーよりも安いと称し、ここ数年の間に店舗数をうなぎ上りに増やし、2025年にはチェーン店を現状の4000店から1万店まで拡大する計画もある。
同社は「過去3年間、コロナ禍の影響で市場に重大な変化が生じ、消費者の購買選択はさらに理性的になっている」とメッセージで語っている。
「零食很忙」の衝撃を受けて、「日系のまね」と名指しされていた中国最大のスナック菓子ブランド「良品舗子」が2023年11月、反撃に出て、300品目の商品価格を平均22%下げ、最大の下げ幅は45%に達したが、これは同社の販売史上最大の値下げとなった。
廉価販売専門の期限切れ商品を扱うサイト「好特売」は、今後3年の間に、販売店を現在の250社から5000社に拡大する目標を決定しているという。
記事はさらに次のように報じている。節約モードの消費者を引き付けるための激烈な値下げ競争は、今まさに中国の小売業の構造を再構築しつつある。デフレに対する懸念は、さらに人々に中国を日本の「失われた数十年」の停滞状況と同列に論じさせている。
「企業は値下げによって市場シェアを維持し、市場から締め出されるのを回避する」。記事は香港恒生銀行上海支店チーフエコノミスト王丹氏の見解を引用して次のように述べている。「目下、値下げ、低インフレの環境になっていることは間違いない。こうした状況がどれだけ続くか予測は困難だが、これは経済にとって不利であることは確かだ」
統計局関係者は中国がデフレに陥っているという見方を繰り返し否定し、さらにインフレ率は回復する、と何度となく予測している。しかし、2023年12月15日、に発表されたデータによると、中国の2023年11月の消費者物価指数(CPI)はこの3年で最速で下落し、生産者価格指数(PPI)も下落幅を広げている。
(『日系企業リーダー必読』2024年1月5日の記事からダイジェスト)