『必読』ダイジェスト 近頃、蘇州市は不動産市場救済のための「重量級爆弾」を放った。それは「不動産開発業者の販売価格が監督管理部門の手元にある登録価格よりも低ければ、監督管理部門は値下げ幅に対し制限を行わない」というものだ。すなわち、開発業者は自分の意思で値下げ販売を行うことができ、政府は企業の価格決定権に干渉しないということだ。

全国の不動産市場にとって、新築物件が自由に値下げできるということは、住宅価格がバブルを絞り出し、実質的な住宅価格がしだいに水面に浮かびあがってくることを意味する極めて重要なシグナルとなる。

中国の地方政府は開発業者の値下げ行為に対し、これまできわめて敏感であった。大幅な値下げがマイナスの連鎖反応を引き起こし、ひいては現地の不動産市場の崩壊につながることを心配したためで、多くの地方政府が開発業者の大幅な値下げを許してはおらず、一部の供給過剰の地域であっても、登録価格の10~15%を超えて下げることはできないなど、値下げ幅には厳しい規定があった。

しかし、現地の不動産市場の下振れ周期において、このような価格幅では実際には実質的な価格レベルを示すことができず、多くの不動産はさらなる値下げで販売を促進する必要がある。また、行政の意思で市場の正常な価格決定行為をねじまげることは、より大きなマイナス効果をもたらすことになる。

不動産市場の不振が続くことで、巨大なキャッシュフロー圧力に直面する企業がますます増えていて、開発業者の自主的な値下げ販促を許可しなければ、多くの開発業者がキャッシュフローの断絶とディフォルト(債務不履行)のリスクに直面し、未完成建築がますます増え、それが引き起こす社会問題は、最終的には政府部門がその善後策に乗り出す必要が生じる。

不動産危機はさらに銀行システムにまで蔓延し、最終的には大規模な金融危機を引き起こす可能性がある。開発業者が値下げできないことでキャッシュフローの断絶が起これば、不動産というこの「灰色のサイ」は、経済全体に深刻なショックを引き起こしかねないのだ。

また、開発業者の値下げ制限は、最終的には地方政府にも衝撃を与える。開発業者がすぐさま手持ちの不動産を売却できなければ、ストックがどんどん増えていき、政府から土地を買うことで新たな不動産開発をする資金がなくなる。そうなれば地方政府の財政収入が大きな衝撃を受けるだろう。

2022年、全国の土地譲渡金は3割減という大幅な減少となった。今年の土地市場は冷え込みが続き、昨年の低いベースのうえにさらに第1~第3四半期の土地譲渡収入が2割減となり、下げ幅が4割を超える地方も出てきた。不動産の販売不振はとうとう地方政府にまでその影響がおよび、土地財政への依存度が高い一部の地方政府を苦しめている。

このような背景のもとで多くの地方政府は、不動産価格を維持するか、それとも土地収入を得るかという選択を迫られている。一部の地方政府は不動産価格の維持を選択しているが、値下げ制限を撤廃しはじめている政府のほうがはるかに多い(『必読』2023年10月20日の記事「住宅の価格規制を密かに撤廃する都市がますます増え、先行き不安に」を参照)。

今回、蘇州が開発業者の価格決定制限を取り消したことは、全国の不動産市場への極めて重要な信号ともなった。蘇州のGDPは全国都市の中でも六位につけていて、蘇州の経済力をもってしても、不動産価格よりも土地収入を選択しはじめているのだから、その他の多くの地方政府に与えている圧力は推して知るべしで、不動産価格の維持か、土地収入かという選択に直面したとき、後者へ傾く地方政府はますます増えてくることだろう。

新築物件の値下げ制限を撤廃する地方政府が増えれば、全国の不動産市場のトレンドにも重要な影響を与える。現在、国内の不動産市場はかなりの程度においてある種の膠着状態に陥っているが、それは価格引き下げが不十分なためで、そのせいで販売数が急速に縮小している。そして価格が十分に引き下げられないのは、新築物件の値下げ制限と直接的な関係がある。

新築物件市場からみれば、新築物件の価格設定は強い行政圧力を受けたものであり、実際的な市場価格とはかけ離れている。また、市場化された値付けがなされているように見える中古住宅も、実際には新築物件の価格設定の影響から逃れるのは難しい。なぜなら新築物件が値下げされないことが、中古物件の価格決定を下支えしているからだ。多くの都市で中古物件の価格の下げ幅は大きくはなく、それは主に多くの中古物件の販売主が現時点では資金圧力を受けていないため、そのために大幅な値下げを望んでいないからだ。

しかし、ひとたび新築物件の値下げ制限が撤廃されはじめると、国内の不動産価格は新たに価格設定を見直す必要に迫られる。それは多くの開発業者が極めて大きな債務圧力に直面しているためで、債務返済圧力のもと、大幅な値下げにより資金回収をはかる開発業者が増えてくるとみられるからであり、大幅な値下げをしなければ、多くの開発業者は破産のリスクにさらされるだろう。

新築物件が大幅に値下げされれば、最終的には中古物件にも衝撃を与えるはずだ。中古物件の価格が高いまま下がらなければ、数が多いといえない買い手は新築市場へと流れるからだ。お金に不自由してはいない中古物件の売り手であっても、そのときには新築物件の値下げ圧力のもとで自発的に値下げを行わざるを得なくなるだろう。

(『日系企業リーダー必読』2023年12月20日の記事からダイジェスト)

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