『必読』ダイジェスト スイスの国際経営開発研究所で国際経済を教えるリチャード・ボールドウィン(Richard Baldwin)教授と2人の協力者が11月初めに発表した『潜在的リスク:米国サプライチェーンの対外依存度を測る』(以下『論文』に省略)と題する論文は、世界から投入された生産データを利用して、中国と他の国々に対する米国製造業のサプライチェーンの依存度を測った。論文で計算されたデータは2018年時点のもので、2019年以降のデータは含まれなかった。
サプライチェーンの依存度を測るための従来の基準は往々にして、一国の製品を製造するために用いられる輸入製品の原産地に着目しているが、多くの輸入製品には第三国からの部品が含まれており、またこれらの部品自体も他の国々から投入されているという見地から、論文では投入産出分析法によって、外国製品に対する一国のサプライチェーンの依存度が概算されている。
投入産出分析法の最大の優位性は、額面価値の貿易とすべての中間製品貿易を区分できることだ。中間製品はサプライチェーンを設ける目的であるため、この区分は非常に重要だ。
論文での投入産出分析から、2018年時点で、中国はすでに米国製造業の90%以上に対して、特にアパレル、自動車、電気装置の分野において、最も重要なサプライヤーになっていたことが分かった。これに比較して、1995年、日本は約40%の米国製造業に対して最大の海外原産地となっており、その次はカナダで、約30%を占めた。
論文が特に指摘した点は、中国に対する米国サプライチェーンの依存は「隠れた依存」に属し、それは主に中国で生産される中間製品に対する依存を指し、また副次的にサプライチェーンの「急速な地理的集中」を意味し、即ちその発生が早すぎるため、過小評価されるか、又は軽視される可能性がある。
中国が世界最大の製造国として台頭していることはすでに広く知られているが、あまり知られていないのは、完成品の生産と比較して、中国の中間製品の生産はより速い速度で成長しているため、世界の中間製品製造が急速に中国に集中していることだ。論文は、このような集中は非常に重要と見ている。なぜならサプライチェーンは事実上、中間製品を網羅するように展開されているからだ。
サプライチェーンに対する中間製品の重要性
サプライチェーンの依存を分析する上で要となるのは、サプライチェーンの「額面価値の依存」と「すべての中間製品の依存」を区分することだ。「額面価値の依存」は中間製品の直接的な原産地だけに注目している。例えば、米国の自動車メーカーはカナダから部品を購入しているが、同部品の額面価値の依存はカナダだけに限られる。これと比較して、「すべての中間製品の依存」は次のような事実を考慮に入れている。それは即ち、カナダの部品メーカーは他の国々から中間製品を購入しているに違いないという点だ。「すべての中間製品の依存」に対する分析は、一国の製造業部門による購入と各国の各サプライヤー部門との間の全ての関係を特定することができる。
米国が直面しているサプライチェーン中断のリスクについて考える際に、要となる点は、購入する中間製品の投入における依存の程度は製造業部門によって異なるということだ。例えば、中間製品の投入は米国自動車業界における生産全体の75%を占める。この75%という数字をどう理解すべきか?これから数字をゼロに近づけることについての歴史的な例を考慮するが、1900年代の代表的な車両と言えばフォードT型だ。フォードは完成車種を最終組み立てしただけでなく、さらに自社工場ですべての必要な中間部品を生産したが、その工場には港湾施設や高炉.製鉄所、鋳造工場、圧延機、金属プレス装置、エンジン工場、ガラス製造工場、タイヤ工場、そして独立した蒸気および電力発電所があった。外部の輸送サービス業者を避けるために、フォードは自ら鉱石貨物船や鉄道会社を所有して運用した。このすべてが意味しているのは、自動車製造には大量の中間製品が関係しているとはいえ、1900年代において、フォードのサプライチェーンリスクは非常に小さかったということだ。
今、世界において、米国の自動車メーカーが独立した外部サプライヤーから多くの中間部品を購入して投入しており、約75%のコストは購入および投入によるものだ。この非常に大きな数字は、米国の自動車業界がサプライチェーンに大きく依存していることを示している。
論文の研究によると、米国に存在する17の製造業部門の生産過程において、中間製品の投入が肝要な作用を及ぼしている。米国に存在する17の製造業部門のうち、14部門における中間製品の投入への支出が、これら部門の総生産額の50%を上回っている。依存が最も低い部門である電子業界でさえも、総生産額の25%が中間製品の直接購入に用いられている。
中間製品の製造大国としての中国の台頭
論文の研究によると、1995年に世界では、中間製品全体の70%以上が先進国で生産されていたこと。当時、最大の工業製造国である米国はこの70%のうち約20%を占めた。しかし、2010年代になると、中国の中間製品の生産が世界の生産量全体の四分の一を超えるようになり、二番目に大きな供給国(米国)のほぼ2倍となった。2018年に、中国で生産される中間製品の価値が、すべての先進国の総和を上回った。
中間製品の製造大国としての中国の台頭は突然だったと言ってもよい。2015年にピークに達すると、中国は世界の中間製品生産の42%を占めるようになったが、そのわずか10年前、この数字はまだただ14%だった。
中国は米国のサプライチェーンの主要なサプライヤーとして台頭したため、他の国々の相対的な重要性が下がった。1995年から2018年まで、米国の17の製造業部門において、最大のサプライヤーは中国、日本、カナダ、メキシコなどの国々に集中していたが、この時期に、中国は米国のサプライチェーンの最大供給国としての役割を急速に拡大していた。額面価値から見ると、1995年時点で中国は米国の約5%の製造業部門で最大の工業的投入を行うサプライヤーだったが、2018年になると、このシェアは60%を超えた。しかし、投入産出法で計算すると、1995年に中国は約5%の製造業部門に対する最大のサプライヤーだったが、2018年に、中国は米国に存在する17の製造業部門のうち16部門(占める比率は94%)で最大のサプライヤーとなった。
つまり、「額面価値」の方法を採用すると、中国はすでに米国のサプライチェーンに対する最大の供給国となっているが、「投入産出法」を採用するならば、中国に対する米国のサプライチェーンの依存はほぼ「圧倒的」なものだ。言い換えると、米国による中国の撤退は全く非現実的でばかげた考えだ。
さらに、論文によると、1995年に日本は現在の中国とよく似た役割を果たした。投入産出分析は、当時の日本は米国の最大の供給国であり、日本の製造業に対する米国の依存も隠れたものだった。なぜなら、米国はカナダから大量に輸入をしていたとはいえ、カナダも日本から大量に輸入していたからであり、日本は米国にとって最大の中間製品生産国だったのだ。
論文の結論は以下のとおりだ。グローバル化の発展により、海外のサプライチェーンに対する米国の依存度は、従来使用している基準の貿易統計データが示すものよりもずっと高く、その中でも、米国の各製造業部門のサプライチェーンの中国に対する依存はほぼ額面価値の4倍だ。それゆえ、「米国と中国製造業の全面的なデカップリングは有益で、速やかなものではなく、ひいては実行不可能なものだ」。例えば、米国に対するベトナムの輸出が、中国からの中間製品の輸入に依存しているとしたら、そう簡単に中国からの輸入をベトナムからの輸入に代替できるわけではなく、それ自体には中国の製造業に対する依存を減らす点であまり効果はない。
(『日系企業リーダー必読』2023年12月5日の記事からダイジェスト)