『必読』ダイジェスト 米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は11月28日、「ドイツと日本の自動車メーカーが中国から電気自動車(EV)の成功の秘訣を学んでいる」という記事を掲載した。記事に述べられているドイツと日本のような取り組みにより、政治的に敏感で、労働集約的な自動車業界の大きな転換が浮き彫りになった。それは、かつて中国はエンジンやトランスミッションシステムの面で欧米の技術を習得することは言うまでもなく、肩を並べることも難しかった。だが、今はかつて眼中になかった中国から欧米企業の方が学ぶ必要が出てきたということだ。
独VW「中国の自動車業界に模索する経験・教訓」
記事はまず、フォルクスワーゲン(VW)の取り組みを報じた。このドイツ自動車メーカーのエンジニアが中国の自動車業界に模索するのは、世界最大の自動車市場でいかに生産スピードを速め、ローカルのライバルを撃退するかという方法を理解するための経験・教訓である。
VWは長期にわたってガソリン車主導の中国市場に君臨してきたが、中国の自動車業界がEV化に移行するなか、同社の中国市場におけるシェアは縮小を続けている。VWは現在、中国自動車製造業の新鋭といかに競争するかという難題を解決しようとしている。これらの中国メーカーは、VWの3分の1の時間で、性能が良く、良心的な価格の高度にインテリジェント化したEVを発売することができる。
記事は次のように見ている。「こうした転換は中国の自動車市場だけでなく、外国メーカーの母国にも影響を及ぼす。中国のEVの製造方法やサプライヤー、デジタル技術が外国の自動車メーカーに浸透する可能性がある。中国の自動車市場では、国内自動車メーカーの販売台数のうち電気自動車やプラグインハイブリッド車など新エネルギー車の販売台数の約4分の3を占めている」
記事は、VWの中国事業責任者であるラルフ・ブランドシュテッター(Ralf Brandstatter)氏の話を引用し、次のように述べている。「かつて、VWは欧州で自動車を開発し、いくらかの調整をしてから中国に投入していた。現在では、このようなやり方は通用しなくなっている。EV化かつインテリジェント化が進んだ中国市場では、消費者のニーズが大きく異なってきているからだ」
ブランドシュテッター氏は安徽省合肥市にあるVWのEV生産・開発・調達センターで、「当社はより柔軟になり、より集中させる必要がある」と述べ、さらに、「VWは中国市場向けの自動車を中国で開発すると同時に、中国のパートナーと協力し、現地でより多くの意思決定を行う」と語った。
ブランドシュテッター氏はまた、次のように述べている。「VWは新製品を市場に投入するのに4年近くかかるが、中国の自動車メーカーは2年半ちょっとでそれができる。現在、VWは自動車開発期間を2年半程度に短縮することを目指している。この目標を実現するためには、一連の措置を講じる必要があり、その一部の措置は中国のやり方を参考にしている」
措置の1つとして、ドイツのサプライヤーに頼るのではなく、動きの速い中国の現地サプライヤーからより多くの部品を調達することが挙げられる。VWによると、ディスプレーやメディアシステムから動力電池やヘッドライトに至るまで、これらの製品を中国のサプライヤーから調達することで、開発期間が約30%短縮され、コストが20〜40%削減されるという。
ブランドシュテッター氏は、「中国のサプライヤーは過去4年ほどの間に、品質、耐久性、技術の面で顕著な改善が見られた」と述べている。
記事は「現地サプライヤーが国内の一流自動車メーカーと提携することは、中国のEVとスマートカーのエコシステムの重要な構成要素になっている」と論評している。業界内のマネジャーや専門家から見て、中国のこのシステムは世界の他の地域を大きくリードしているという。
VWはまた、中国の先端技術をマスターするため、中国のローカル企業に数十億ドルを投資している。これらの中国企業には、電気自動車のスタートアップ企業である小鵬汽車、電池メーカーの国軒高科、自動運転車のソフトウエアとチップを開発する企業、スマートコックピットのOSとソフトウエアを開発する企業が含まれる。
VWは、進度を加速するために管理体制も見直した。合肥のこのチームは現地で部品を承認する権限を持つことになり、ドイツのヴォルフスブルク本社と行ったり来たりする時間を節約できるようになる。
日産とトヨタ、中国で「型破りな試み」
『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事は、日本の2大自動車メーカーの同様の変化を紹介している。日産はある中国合弁企業から学んだ技術を活用して、自動車の生産スピードを高めようとしている。トヨタは電気自動車やスマートカーをより良く開発するため、中国のパートナーからエンジニアを迎えている。
記事は次のように述べている。「日産自動車もスピードを上げ、販売の落ち込みを転換させようとしている。同社は東風汽車と組んで立ち上げた現地合弁ブランド‟ブェヌーシア(啓辰)”からいくつかのノウハウを取り入れているが、その1つが車両テストのスピードをいかに上げるかということだ」
記事はある関係者の話を引用して、次のように述べた。日産は伝統的に、一部の金型が完成するのを数か月待たなければならず、その後にようやくテスト車両を製造することができる。今中国では、この日本の自動車メーカーがプロトタイプ金型に切り替えている。
同関係者は次のように話した。品質を確保するため、日産自動車は3Dプリンタやバーチャルテストなど、さらなるデジタル技術を使った追加テストも同時に計画している。2026年までに、中国で日産ブランドの電気自動車とプラグインハイブリッド車4車種を中国の研究開発センターで開発し、中国での合弁ブランド車6車種を発売する計画だ。
日産の広報担当者は「当社は中国での合弁企業がすでに強い実力を備えており、いかなるテストも日産の世界基準に適合すると認めている」と述べた。
記事は続いて、トヨタのやり方を紹介している。トヨタはすでに中国の研究開発センターの重点をEVとスマートカーに転換し、中国の合弁企業からさらに多くのエンジニアを招き、センターのプロジェクトに参加させている。
VWと同様、トヨタも今年7月に現地サプライヤーから部品を調達する方針を示しており、スマートEVのコスト削減に向けて部品設計の見直しや生産・製造技術のアップグレードを進めている。
記事は上海のある外資系戦略コンサルティング会社の責任者の話を引用して、次のように述べる。「多くの外国自動車ブランドは中国の市場競争でもはや明らかに立ち遅れている。なぜなら、2020年前後に起こったEVブームへの早期の準備ができていなかったことで、追いつくには数年を要するからだ」
この責任者はさらに「現在、多くの外国自動車メーカーは販売を増やすためにコスト削減や価格割引に頼らざるを得ない」と語っている。
(『日系企業リーダー必読』2023年12月5日の記事からダイジェスト)