『必読』ダイジェスト 香港英字紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は10月31日、「中国は労働力不足に産業用ロボット活用へ」と題する記事を掲載した。
その記事によれば、中国東部の長江デルタ地域にある繊維工場で、注目すべき変化が起こっているという。
この伝統的な労働集約型産業も他の業界と同じように産業用ロボットの導入を目指し、高度に専門化され、自動化された設備で人力を代替する方向に移行しつつある。これは企業が労働コストの安定を維持するため、また労働力人口の避けがたい減少に備えるための取り組みである。
年間3億元を稼ぎ出していた工場ではこれまで約100人の従業員を必要としてきたが、ロボットの導入によりわずか数人のオペレーターだけで生産を維持することができるようになった。
産業用ロボットによる生産の自動化はこの地域の産業チェーンを揺るぎないものとし、東南アジアや中国内陸部など人件費の安い地域への工場移転を回避する方法として注目される。
自動化への流れもますます深刻になり、人口減少を背景にしており、少子高齢化が進むことで、世界第2位を誇るこの経済大国の将来に対する懸念が高まっている。
上海、江蘇、浙江などの諸省を含む長江デルタ地域の繊維産業は、中国の人口減少の影響をもろに受けている。浙江省のファブリック家具メーカーで輸出を担当する薛平氏は、「生産ラインの自動化は工場と完全な産業チェーンの維持に役立っている」と話す。
中国ではいま、各分野で産業用ロボットの導入が急速に進行中だ。業界関係者やメーカーは、「先端技術と人工知能(AI)技術を取り入れた生産工程の確立は、複雑な地政学的問題による影響を回避し人口減少に対処する鍵になる」と指摘する。
華南地域における製造業の中心である広東省東莞市を含む諸都市では、従来型の生産様式から先進的な生産への転換が進み、新エネ車や太陽光発電、電子機器、リチウム電池などの産業が育ちつつある。
工業情報化省のデータによれば、2023年1~8月期、中国では28万1515台の産業用ロボットが生産され、その数は前年同期比2.3%増だった。今年7月時点で、中国全土で生産をデジタル・AI化した工場は8,000箇所を数える。
中国の産業用ロボットの普及は近年急上昇し、現在、労働者1万人当たり392台となっている。世界ロボット大会(WRO)2023で発表されたこの数字は、2018年の140台、2016年の68台から大幅に増加している。
国際ロボット連盟によると、中国で稼働中の産業用ロボットは2022年に150万台を突破したが、同年に新規導入されたのは29万台で、2022年における全世界の設置台数の半分以上を占める。
同連盟によると、新規導入数が世界で150万台を超えたのは中国だけで、ヨーロッパは72万8,391台、北米が45万2,217台であったという。産業用ロボットの導入は、主に自動車、機械、エレクトロニクス産業が牽引している。
中国は2025年までに労働者1万人当たりの産業用ロボットの使用台数を2020年の2倍にすることを目指している。
アジア製造業フォーラム(AMF)の羅軍事務局長は、「人口の少子高齢化はひとつの要因にすぎない。さらに重要なことは、産業の転換・高度化の需要によって中国の産業用ロボットが世界最速で成長し、しかもその地位をキープしているということだ」とする。
羅軍事務局長はさらに、「産業用ロボットの導入によって、世界の工場としての中国はその地位に挑戦する新興市場との競争において、強力な産業システムを維持することができる」と指摘。
同事務局長はまた、「同時に、新エネ車、リチウム電池、太陽光発電など多くの新興産業が中国で急速に立ち上がりつつある」と語った。
『財貿経済』誌に掲載されたある記事は、「2050年までに中国の産業用ロボットの稼働台数は約298万台に達する」と予測している。
それによれば、「たとえ産業用ロボット自体の機能向上を考慮にいれなくても、将来の労働力不足の半分以上は補うことができる」という。
(『日系企業リーダー必読』2023年11月5日の記事からダイジェスト)