『必読』ダイジェスト 9月21日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が「ドイツ企業が政府の圧力に屈せず、中国での投資を増やす」という文章を掲載した。以下はその記事を抄訳したものである。

ドイツとEUの政界の人々は今、ドイツの一部の大手企業に圧力をかけ、中国に対する投資を減らすよう求めている。にもかかわらず、これらの企業は中国に対する投資を増やしている。

政府の圧力が大きくなったのは、ここ数カ月間、中国において比較的大規模な業務を展開するドイツ企業がすでにこれらの業務が欧米の潜在的な制裁の影響を受けないよう努力を続けている最中のことであった。

これらの大企業は中国での現地生産を増やし、ドイツからの輸入に対する依存を減らすことにつとめている。彼らは中国のサプライヤーと折り合いをつけ、サプライチェーンのローカル化レベルを引き上げ、さらに中国企業と連盟を打ち立てようとしている。

こうした措置は、企業のシェアを守り、利潤を守るため、中国と欧米、特に中国と米国間の政治的緊張の悪化による影響に対応するためのものである。

中国と欧米諸国との緊張した関係の最近の表れの一つとして、EUの執行機関である欧州委員会が先週、中国の自動車業界に対し、不公平な補助を得ているとして調査を始めることを発表した。中国はすでに世界最大の自動車輸出国の一つであり、特に電気自動車分野においてドイツの自動車メーカーの強力なライバルでもある。そうであってもドイツ自動車メーカーはEUの調査に批判を行っている。彼らの懸念はこれにより「中国政府の報復にあうのではないか」ということだ。

今年の早い段階で、ドイツ政府は、「ドイツ経済の中国への輸出依存の程度を下げるため、ドイツ企業は中国に対する投資を減らすべきだ」と訴えていた。ドイツは国際貿易への依存が高く、世界で情勢の緊張が増すにつれ、国際貿易が落ち込み、欧州最大の経済体の今年の成長の停滞をもたらしている。

9月19日、ドイツ中央銀行は「ドイツ工業の対中リスクの高さが深刻な経済リスクをもたらす可能性」に対し警告を発している。中央銀行は、「40%超の中国の基幹材料に依存しているドイツ企業が、一部の材料や部品に対する依存を減らすための措置を何らとっておらず、こうした材料や部品は国内生産にとって極めて重要で、もし供給が絶たれたら、工場は生産停止に追い込まれる」としている。

ドイツ中央銀行はこのレポートの中で、「地政学的な緊張情勢と関連リスクの上昇を鑑み、企業や政策決定者はサプライチェーンの構造を考え直すべきで、さらには中国における直接投資を拡大させる活動もまた再考すべきだ」と指摘。欧米で中国が孤立する状況においては、ドイツ企業は最大の損失を被る可能性がある。

しかしドイツ企業は退くことなく逆に前進し、参与度合をさらに強め、自社の中国工場の隔絶を図り、世界の政治状況がどうであれ、大量の製品生産を続けることを可能にしようとしている。

ドイツの大手化学企業であるBASFは、現在から2030年まで、中国における投資を100億ユーロ(107億ドル相当)以内として計画している。計画の一部としてBASFは最近中国の(広東省)湛江で工場の建設を開始し、合成ガスと水素を生産して現地で使えるようにするという。この工場は2025年までに生産を開始する予定である。

BASFによると、この工場は中国・南京のフェアブント(統合生産)拠点の一部にあり、これは大型の化学工業基地で、基礎化学製品から消費材に至るまで相互に関係した産業チェーンをもっている。

この基地は2005年に建てられた。BASFは世界で6つのフェアブント拠点をもち、そのうち2つが米国にある。今回の拡張の後、BASFは中国市場で成長を続けるには何が必要か、そのために中国で何を生産できるかを考えた。

シーメンスのローランド・ブッシュCEOは今年の早い時期に、「今年の20億ユーロのグローバル投資計画の一部として、中国で約1億4000万ユーロを投資する予定である」と語っている。同社の中国市場におけるシェアの死守、続けて中国で投資していくことを彼は約束している。

似たような行動をとり、その力の入れ具合も最大であるのがフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツなどの自動車メーカーである。

ドイツ自動車工業協会のデータによると、2022年ドイツ自動車メーカーは中国に向けに25万4607台の自動車を輸出したが、それは中国で生産された数に比べれば取るに足らないといえるような数であり、その理由は、これらの企業が「現地で、現地のために」戦略をとっているためで、つまり国外市場はローカル化生産に重点が置かれているためである。フォルクスワーゲンだけでも中国で320万台の自動車を生産しているが、これはこの会社が欧州で生産している自動車の数に相当する。

今年7月、フォルクスワーゲンは中国の電気自動車メーカーである小鵬(シャオペン)自動車に7億ドルの投資を行い、この会社の5%近い株式を所持し、共同で電気自動車の開発・製造を行うと発表。フォルクスワーゲン中国の責任者であるラルフ・ブランドシュテッターCEOは、こうした協力関係は「フォルクスワーゲングループの‟中国で、中国のために”戦略の重要な一部だ」と語っている。

フォルクスワーゲンのオリバー・ブルーメCEOは、今月の早い時期にミュンヘンのモーターショーの合間に記者に対し、「会社が中国投資を増やすのは、特にフォルクスワーゲンが中国の技術により中国市場の需要を満足させる必要があるためである」と語っており、これはある程度において、中国と欧米との関係が日増しに緊張を増すという情勢や独立技術基準の出現にも応えたものであろう。

「欧米と中国のエコシステムは今まさに離れつつある。これは、われわれが情勢に明確に適応せねばならないことを意味している」

過去数年の間、この会社が中国で生産した自動車で使用した部品と材料のうち、現地で調達したものの割合はすでに90%を上回っているとフォルクスワーゲン自動車は語っている。

今年の早い時期に、BMWは中国の合弁企業である華晨BMW自動車有限公司の成立20周年を祝賀した際、「2026年から中国の顧客のために中国で次世代電気自動車‟新世代”(ニュークラス)を生産するが、これはドイツから中国に輸出するものではない」と発表。華晨BMWは約430社の現地サプライヤーから現地生産で必要とされる部品や材料を調達しているとのことである。

BMWはさらに、中国において新世代の電気自動車で使われる高電圧バッテリーの開発と生産にも投資しており、同時にBMW瀋陽研究開発センターを拡張し、現地での設計・開発を強化している。

こうした戦略の影響をある程度受け、ドイツの在中投資は長年下がり続けていたものが上昇傾向となり、その一方でドイツの対中輸出は伸び悩んでいるという情況だ。

研究機関であるロジウム・グループが提供したデータによると、2022年、EUと英国の対中直接投資のうち、ドイツが占める割合は前年の46%から52%に増えている。また、このデータによると、昨年、ドイツ自動車業界のEUと英国の対中直接投資に占める割合は68%で、前年の50%よりも高かった。

ドイツ中央銀行が引用した最新データによると、ドイツ企業は中国の子会社で3820億ユーロの売り上げと230億ユーロの利潤を得ている。ドイツ中央銀行によると、中国における業務はドイツ工業企業の世界売上額の22%、利潤の15%を占める。

「ドイツ自動車メーカーは、収入の点から見ても電気自動車への技術転換の点から見ても、中国市場が生死・存亡のカギを握っていると考えている。彼らは「ぬるま湯でゆでられたカエル」のようなもので、鍋の外はより生存に適していないのではないかと心配し、飛び出して逃げることもできない」とロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は語る。

ロジウム・グループのレポートによると、欧州における対中外国企業直接投資のうち自動車メーカーおよびそのサプライヤーの比率が最大で、その次が食品加工企業、製薬企業、化学品・消費財製造業であるとのことだ。

(『日系企業リーダー必読』2023年9月20日-10月5日の記事からダイジェスト)

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