『必読』ダイジェスト 米投資界の権威的な雑誌『バロンズ』が8月18日に発表されたものを以下抄訳する。
中国で最近発表された経済の低迷を示す一連の経済データは、世界で二番目のこの経済大国が、1990年代の日本経済のような大幅な衰退をみせるのだろうかという疑問を呼び起こしている。
中国は現在不動産市場が苦境に陥り、コロナ後の経済回復に力を欠くなどの難問に直面し、中国経済が日本経済の轍を踏み、迅速な発展の後、長期的な停滞に陥るのではないかと推測する人もいる。
こうした見方は迅速に広まっている。ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、今月(8月のこと)『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載された文章の中で、「中国の『経済の奇跡』はもう終わっている」と記している。ノーベル経済学賞の受賞者ポール・クルーグマンは今月『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された文章の中で、「中国経済の急激な減速は日本の『失われた10年』よりも大きな不確実性をもたらす」と指摘している。
しかし、中国は日本とは異なる。中国の人口は日本よりもはるかに多く、国民の生活レベルはまだ先進国レベルには達しておらず、このために中国には再度の成長を実現するだけの大きな原動力と伸びしろがある。もし不動産市場が回復すれば、消費者マインドは続いて上向き、中国経済は復活するだろう。これには政府と中央銀行がより多くの刺激策を出す必要があり、こうした措置がいままさに途上にあることは確かと言える。
コンサルティング会社ラウレーサ・アドバイザリーのパートナーであるニコラス・スピロは、「中国と日本を比較することは、すでにブームともいえるトピックであり、中国経済への憂慮を深めるものであるが、こうした比較はまったく役にたたないばかりか、誤解を招く可能性もある」と指摘している。
中国と日本は明らかに似ているところもある。まず、どちらもアジアの経済大国であり、欧米諸国との貿易により、長期的な急激な成長を経験してきた。次に、不動産バブルが大きくなりすぎた後、中国も日本も経済成長の足取りがおぼつかなくなり、経済の輸出主導型から消費主導型への転換がより複雑なものとなった。最後に、中日両国はどちらも生産年齢人口が減少し、経済成長速度が鈍化するという問題を抱えている。
しかし、中国と日本が異なる極めて重要な点があり、そのために少なくとも現時点では、中国の不動産市場の不振は30年前の日本の状態ほど深刻ではない。日本の経済問題がもたらした一つの教訓とは、不動産業界を「崖から一気に落としてはいけない」というものだ。中国は明らかにこの教訓を重視しており、そのためにここ数年ずっとゆっくりと「バブル」を絞り出し、急激にそれが破裂することがないようにしている。こうしたことを行おうとするのは容易ではないが、不可能ではない。現在、中国の第一の任務とは、不動産開発業者に現在未完成のプロジェクトを仕上げさせることだ。市場マインドはすでに打撃を受けており、これは確かに悪い状況といえる。しかし中国政府の手中にはまだ使っていない多くの「良いカード」があり、これにより不動産業界は再び繁栄―衰退という周期をたどることはないだろう。
中国経済は日本経済のバブル崩壊の時ほどは発達しておらず、このために今後数年に経済の快速な成長を後押しするだけの十分な余地がある。中国の人口問題もまた日本ほどは深刻ではない。中国には14億の人口があり、日本の人口は約1億2000万だ。2010年に中国のGDPがようやく日本を超え、現在一人あたりGDPはいまだ日本の三分の一程度に過ぎない。中国が豊富な労働力リソースをもっていることを考えると、不動産市場の低迷に足をひっぱられなければ、中国が毎年5%前後の経済成長を実現することは容易であろう。
また、投資者にしてみれば、市場の中国に対する期待値が比較的低いということは、株価がとても安いことを意味しており、最近の困難な状況を経た後には、よいニュースがあまりなくても市場ムードを盛り上げることができる。
中国経済が再び正常な軌道に戻るためには多くの障害を克服する必要があるが、中国は日本ではなく、同じような苦境に陥る可能性は低い。
(『日系企業リーダー必読』2023年9月5日記事からダイジェスト)