『必読』ダイジェスト 『ニューヨーク・タイムズ』は7月12日に「戦争行為――米国の対中チップ封鎖の内幕」と題する長編記事を発表し、過去数年間の米国の対中チップ封鎖行動を多角的に深く分析し、これを「一種の戦争行為」と呼んだ。この文章は北米の中国語圏で大いに注目された。
さらに珍しいことに、7月18日、『人民日報海外版』のWeChat(微信)公式アカウント「俠客島」にもこの文章の抄訳が掲載されたが、そこには「(『ニューヨーク・タイムズ』の記事は)米国のチップ規制操作の根本的意図、対中チップ封鎖行動のタイムライン、米政治屋の台湾を「コマ」とする戦略的思考など、多くのチップ規制に関する重要な情報が明らかにされており、さらに米国の中国に対するチップ封鎖は戦争にほかならないが、米国の対中チップ規制は中国のチップ業界の長期的成長を刺激する可能性が高く、チップ規制は単なる時間稼ぎに過ぎないと言及されている」という編者の言葉が添えられていた。
『ニューヨーク・タイムズ』のこの記事はとても優れたものであるが、紙幅も極めて長いため、『必読』では要点を以下のように整理してみた。
1.チップは現代経済の血液である。シンプルな、電気回路がびっしり並ぶ微小シリコンウェハーに過ぎないように見えるが、人類文明のチャンピオンとも言えるものだ。1950年代末の初期のチップには2つのトランジスタしかなかったが、今日のスマホに搭載されるチップには100~200億のトランジスタが使われている。『半導体戦争』の著者であるクリス・ミラー曰く、「もし飛行機の進歩のスピードがチップと同じであったら、今日の飛行機の速度は光速の数倍にもなっているだろう。人類文明史上のいかなる技術進歩の速度もチップ分野に匹敵するものはない」と記している。
2.最先端の半導体技術を持つのはごく少数の企業であり、例えばオランダのASMLとそこで生産されるEUV(極端紫外線)露光装置だ。EUVの生産は幾度も挫折を経ており、1997年、ASMLはまだ若いヨス・ベンスホップを雇って、より精密でより高度な半導体を生産できる露光装置の研究開発を担わせた。コンセプト検証だけで4年を費やし、プロトタイプの開発だけでさらに5年を費やした。2010年にようやくTWINSCAN NXE:3100型が製品テストにパスした。(その後技術担当上級副社長となった)ベンスホップ氏は「われわれの機器は人類が有史以来生み出した最も精密な機器である、と私は本気で信じている」と語っている。
3.EUVはどれほど複雑なのか。使用されているドイツのカール・ツァイス社の光学モジュールだけで45万7329個の精密部品を擁し、またこのモジュールはEUV一台のほんのわずかな部分に過ぎない。さらに恐ろしいことに、EUVは半導体製造業界のなかではほんの一部に過ぎないのだ。最先端のOEM生産工場のなかには、500台を超える機器と1000を超えるステップがある。「半導体業界が世界中の最も優れた頭脳を集めることができなければ、今日の成功を得ることはできなかった」とクリス・ミラー氏は語っている。
4.中国の半導体産業に対する攻撃は2019年にトランプ政権がファーウェイ(華為)をエンティティリストに入れたことに始まる。当時この制裁手段は「表面的に見れば」ファーウェイのイランに対する輸出と関係があったものの、手ひどい打撃を受けたファーウェイを見て、米政府は、自らの手中にこんなに優れた、今まで使ったことのなかった「道具」――すなわちチップ設計ソフトなど米国の川上製品に対する中国テクノロジー企業の大きな依存――があることを「思いがけず」発見したのだ。
5.2022年10月7日の米国半導体輸出禁止令は、政策策定者たちが半導体産業チェーンについて知っている全てを示しており、現時点で最も全面的な禁止令であった。トランプ政権が打撃を与えたのが半導体企業であるとすれば、バイデン政権は業界全体に目をつけたと言える。この禁止令は、製造プロセスに米国が関係する製品が含まれるすべての製品は、中国に輸出される前に米国の許可を得なければならないというもので、これは本質的に中国が行う高性能半導体業界の生産・メンテナンス・助言・輸送などを米国人が援助する一切の活動を制限するものである。グリーンカード所持者あるいは永久居留者にも同じように適用されるなど、この中には少なからぬ「革新」も含まれている。
6.「2022年には歴史に残る事件が二つあった。2月24日のロシアのウクライナ侵攻と、10月7日の半導体輸出禁止令だ」と、ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のワドワニ(Wadhwani)AI・先進技術センターのセンター長であるグレゴリー・アレン氏は語っている。輸出禁止令の目的はとても明確で、中国のハイエンドチップの生産ひいては購入能力を、徹底的に制約ひいては根絶することだと彼は考えている。「理解する必要があるのは、米国政府は中国のAI業界に狙いを定めており、これが半導体禁止令の主な目的の一つとなっていることだ」
7.米国投資銀行半導体業界シニアアナリストのC.J.ムース氏は、さらに率直に言う。「もしあなたが5年前にこの禁止令について語っていたら、わたしはこれは一種の戦争行為だと考えただろう。われわれは確かに戦争状態にある」
8.台湾は世界の半導体サプライチェーンにおいて極めて重要な役割を果たしている。TSMCは世界の三分の二以上のチップを製造し、世界の三分の一のチップ製造シェアをもつ。このために米国は軽々に扱うことはできず、絶えずTSMCを含む台湾メーカーに米国本土への移転を求め、海峡戦争のリスクからなんとか逃れさせようとしている。ひとたび海峡で戦争が勃発した際には、米国は台湾島の半導体施設が中国人の手中に落ちないよう、自発的に破壊すべきだとする人すらいる。
9.チップや関連設備の輸出禁止令は顕著な効果を生んだ。深圳ではアンダーグラウンドでチップ闇取引がすでに出現しており、品質保証のないA100などのハイクラスのチップが少量ながら取引されている。しかし輸出禁止令の中にはいまだ利用できる穴もあり、例えば中国のインスパー(浪潮)グループは2023年3月に米国のエンティティリスト入りしたが、傘下にある少なくとも一つの子会社がいまだエンティティリスト入りしておらず、続けて海外メーカーと取引ができるということを『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記者は発見している。
10.チップ企業に充分なお金とエンジニアを投入しさえすれば、チップ問題を解決できると多くの人が考えている。しかしチップ製造はそんなに生易しいものではなく、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)のジェイソン・マティーニ元副局長いわく、「これはゼロから人類のあらゆる文明を再構築するに等しいものだ」
11.もし米国の科学技術封鎖を突破できる国があるとすれば、その可能性があるのは中国だけだ。これ以前には、中国の現地企業には安全を考慮してローカルのチップを買うか、ビジネスを考えて輸入チップを買うかという二つの選択肢があったが、今や選択の余地はない。しかし、ファーウェイの利潤は2022年に大きく落ち込んだとはいえ、いまだ10万人の科学技術研究者と毎年240億ドルの研究開発費をもつ企業であり、毎年4000億ドルを超える中国国内市場と向き合っており、ファーウェイは米国の制裁によって変革を余儀なくされ史上前例をみないほどに強大化する可能性もある。
12.チップ輸出規制で永遠に中国を抑え込むことは不可能で、これは米国が中国の科学技術進歩を遅らせる手段にしかならず、その目的は米国や同盟国が科学技術の先行幅を増やすための時間稼ぎに過ぎないと考えている人も多い。半導体輸出の監督責任をもつ米国商務省産業安全保障局(BIS)輸出規制部のマット・アクセルロッド副部長の言うように、「われわれの目的は徹底的に中国を打ち負かすということではなく、できる限り遅らせることにある」
13.記者がBISのロズマン・ケンドラー責任者に、「BISはとても小さく、ものの数分で事務室の端から端まで歩いていけるほどだというのに、中国全体を相手に立ち向かわねばなりません。これでどうやって勝とうというのですか?チップは中国にとって死活問題とも言えるものですが」と問いかけると、ロズマン氏はしばらく考えこんだ後、静かに言った。「われわれにとっても、同じように死活問題かもしれません」
(『日系企業リーダー必読』2023年7月20日記事からダイジェスト)