『必読』ダイジェスト 抽象的な統計データしか示さないことが多い中国メディアと異なり、一部の欧米メディアはマクロ経済情勢を分析するにしても、物語を語ることから始める。6月17日付の『ウォールストリート・ジャーナル』の記事は以下のように書いている。
「数カ月前には、世界2位の経済大国である中国が、3年間にわたる厳格なコロナ封じ込めを終えた後に力強い回復の兆しを示したことは、当時、中国の指導者を喜ばせていた。だが、4月、5月になると、不安なデータが飛び交うようになった。関係筋によると、地方政府の財政状況を調査するために派遣されたチームが北京に戻った後に中央にもたらしたメッセージは、「地方政府関係者が地元の債務を返済するのは困難」というものだった。政府と地域企業トップとの会合では、昨年末にコロナ規制措置が突然撤廃された後も、企業が依然として弱気であることが示されていた。
データは確かに不安を誘うものだ。中国国家統計局が15日に発表したデータによると、5月の中国の工業生産、社会消費、企業投資などの前年同月比伸び率は前月に比べて向上しなかったばかりか、むしろ全般的に低下した。
今年初めには、ベースの低さや感染対策緩和後の報復需要の放出を考慮すると、2023年通年の経済成長率は簡単に5%に達するとの見方が一般的になった。だが、5月のデータは全面的に予想を下回っており、さらに第3、第4四半期までの低ベース効果の弱体化(つまり、ベースとなる昨年の第3、第4四半期のデータは低いとは言えない)を考慮すると、経済成長率は第2四半期よりも低くなる可能性があり、5%の年間経済成長目標達成への圧力が急に高まっていることを意味する。欧米の多くの大手銀行は中国の2023年の国内総生産(GDP)成長率見通しを下方修正している。国内では、GDP成長率を5%以上に維持する「保5」措置を早急に講じるよう政府に求めているエコノミストも出ている。
中国経済の回復はなぜこれほど力強さを欠いているのか。さまざまな分析機関が口々に話している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が12日に発表した別の記事は、中国の企業と家計がともに債務返済圧力に足を引っ張られていることが最たる原因との見方を示している。
記事は、次のような見方を示した。「長年にわたる多額の借り入れの後、中国では多くの人が現在債務返済に専念し始めており、その結果、今年の回復は“足元がおぼつかない”だけでなく、今後長期間にわたって経済成長は弱まっていくだろう」
「世界2位の経済大国は、峡谷を跨ぐ大きな橋から住宅の新築まで、多くのプロジェクトに資金を供給するため、長年にわたって多額のクレジットに依存していた。今、中国は自らが『過剰債務の解消』の長いプロセスに直面していることに気付き、この痛みを伴うプロセスの中で、借り手は収入を消費や投資ではなく債務返済に充てている」
同記事は国際決済銀行(BIS)のデータを引用し、「昨年9月、中国の非金融部門向けの与信総額は49兆9000億ドル、10年前のレベルの3倍以上で、あまりにも速い増加率だった。昨年9月、中国の総債務の対GDP比は295%に達し、もはや米国の257%及びユーロ圏の平均水準の258%を上回っている」と指摘している。
中国メディアは長年、米国を「借金大国」と揶揄してきたが、今や、そのような嘲笑は滅多に見られないということを、『必読』はここで指摘しておく。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事はさらに、「負債の対GDP比の相対的に低い中央政府に問題があるのではなく、家計、民間部門、地方政府に問題がある」と説明している。
中国の家庭は消費をしたがらず、銀行に預金し、ローンを組もうとする人も少なく、多くの住宅所有者は住宅ローンの早期返済を競っているほどだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事は、あるアナリストのデータを引用し、「中国の家計債務と可処分所得の比率はもはや110%近くに達しており、2008年の世界金融危機前後の米国の家計債務の水準に急速に迫っている」とし、「消費者が過剰債務の減少に向けた努力をしている時、これ以上の利下げをしても彼らの行動を変えることはできない」とも指摘した。
中国の民間企業は、これまでのインターネットや教育業界の規制の嵐に依然として動揺しており、これ以上のリスクを取ろうとはしない。今年1〜4月の民間投資の伸びは前年同期比0.4%にとどまったが、2019年同期の伸び率は5.5%だった。
地方政府については、近年数兆ドルの債務が累積しており、デフォルトのリスクが高まっているところも多い。ゴールドマン・サックスのデータによると、地方政府とその資金調達プラットフォームが返済すべき債務の規模は中国のGDPの7%近くに相当し、記録的な高水準を記録した。『ウォールストリート・ジャーナル』の記事は、「債務を抑制するため、地方政府は道路や従業員の給与などあらゆる面で支出を減らしている」と述べている。
記事は、他の国も同様のプロセスを経験していたことがあり、このプロセスはほとんど常に苦痛であることを引き合いに出している。「日本のように、1980年代と90年代の不動産バブルの破たんで、企業や個人は、当時の金利がゼロになっても、新規融資を申し込むのではなく、債務の返済を余儀なくされた。その後に見られた需要の低下は、日本でデフレと経済停滞が交互に起こる悪循環を引き起こした」
こうしたエコノミストたちは、「そうしなければ中国はゼロ金利でも成長を刺激できない落とし穴にはまる可能性がある」と警告している。「この危険は中国にとってますます重大になっているようだ」と彼らは書いている。
(『日系企業リーダー必読』2023年6月20日記事からダイジェスト)