『必読』ダイジェスト 5月31日、上海交通大学安泰(エトナ)経済・管理学院の会議で、北京大学国家発展研究院経済学の張丹丹副教授は、自身が主導した最新の研究によると、人工知能(AI)は中国の雇用市場に代替効果をもたらしつつあると述べた。
張副教授は次のように述べた。研究者が中国の主流求人サイト「智聯招聘」の2018年1月から2023年4月までの120万件の求人情報のサンプルを分析したところ、AIの「露出度」(仕事内容がAIに代替される程度)が高い職業では、新たな雇用・労働需要が大幅に減少していることが分かった。
具体的には、営業、財務/監査/税務、教育/研修、ソフトウェア・インターネット開発/システムインテグレーション、事務/文書作成秘書、カスタマーサービスなど、ホワイトカラーの職種でAIの露出度が高く、すでにAIの影響を受け始めている。
注目すべきは、張副教授による次のような指摘である。「米国はこの面において逆の傾向を示している。つまり、職業のAI露出度が高いほど、それに対応する業界の雇用機会も増加する」。張副教授は「これは、AIに向き合ったとき、拒否するのではなく、新しい技術をしっかりつかんで、発展させることが重要であることを、われわれに教えてくれている。そうすれば、余りにも強すぎる労働代替が発生することを回避でき、さらにはAIの力を借りてより多くの雇用機会をつくり出すことができるからだ」と述べた。
上述の結論と中米の違いに対する発見はまだ初期的な研究結果であり、当面はこれ以上の説明はないが、張副教授は、会場の聴衆がこの問題を理解しやすいようにするため、一つの例を挙げて説明した。
「たとえばイラストレーターは、AIの露出度が比較的高い職業だ。米国でイラストにChatGPT(OpenAIが2022年11月に公開したAIチャットポット)を多用すると、コストが大幅に下がるため、需要が大幅に増える。そのため、手でイラストを描く人の代わり、ChatGPTを使ってイラストを描く人が増えているが、業界全体の就業者数は増えている。この場合、中国がこの仕事をChatGPTでやらなければ、グローバル化のもと、多くの需要が米国に流れていくことになる」
全体的に見て、張副教授は次のような見方を示した。中国の労働市場はAIなどの新技術への目に見えた適応型調整が見られていない。一方、マイナスの方向の雇用インパクトはすでに現れている。AI技術の深化と広範な使用にともない、この代替効果は強まる傾向を示している。今後しばらくの間、中国の労働市場は徐々に大言語モデル技術(LLM)の副作用が見られるだろう。
(『日系企業リーダー必読』2023年6月5日記事からダイジェスト)