『必読』ダイジェスト 2023年5月28日午前10時32分、中国東方航空は中国商飛が世界で初めて納入したC919大型旅客機を使い、上海虹橋空港から北京首都空港へ向けて、この型の飛行機で世界初の旅客を乗せた商業運行を行い、12時31分に北京首都空港への着陸を成功させた。

民間用大型旅客機は中国で俗に「大飛行機」と呼ばれるが、2007年にC919プロジェクトが発足して以来、C919プロジェクトをめぐって社会の議論がしばしば沸騰したが、その中でも論争となる問題が2つあり、1つは中国には「大飛行機」製造を大々的に行う必要があるかどうか、もう1つはどうやって「大飛行機」製造を行うかというものであった。

今年2月の時点では、中国社会には国産ジェット機C919のマイナス評価が比較的多く、当時ネットで拡散していた文章「C919テスト飛行の失敗から、われわれはどのような教訓を得るべきか」がその代表である。これらのネガティブな、あるいは国産ジェットの研究開発に反対する意見の事実認識・論理認識という二つの面における大まかな見方は以下の通りだ。

まず、中国のジェット機の生産技術が未熟であることで、2月1日にC919旅客機の初のテスト飛行(上海・浦東-北京・大興-合肥・新橋ルート)で逆推進力の故障が発生し、予定を変更して浦東空港への着陸を余儀なくされたことは、C919のテスト飛行の失敗を意味し、近いうちに商業運行を行うのはまず無理であろうというものだ。

次に、C919のテスト飛行の失敗は、単なる技術上の失敗というより、産業発展構想の失敗とも言うべきもので、中国の国産ジェット機の研究開発という選択が正しいものであったのか検討が必要だということがある。元来、中国が国産ジェット機を追求し続けてきたのは、狭隘なテクノナショナリズム(科学技術民族主義)、および自給自足の零細農民の意識が災いしたものだ。現実離れした飛行機製造よりも、心を落ち着かせて飛行機を購入したほうがよく、国際市場を利用して国内需要を満足させることを重視すべきだという見方だ。

国産ジェット機に対する上述の観点はかなりのレベルで社会世論の主流となっており、中国の工業生産能力、および中核的分野の技術発展段階や発展ルートに対する中国知識界の基本的な見解の相違を示すものとなっている。多くの人が「中国には現時点ではジェット機製造の必要はなく、さらにはその能力はないと考えていて、グローバル化に参与し、中米関係をうまくやっていくことによって、あらゆる国内の不足問題を解決できる」と信じている。こうした認識に基づき、多くの人がジェット機製造を発展させることは一種の保守的で狭隘な行為であるとみなし、ひいては国産ジェット機のテスト飛行の失敗、このプロジェクトの失敗を喜んでいるほどだ。

いったいこうした一連の問題をどのようにとらえるべきなのか。

テスト飛行は本当に「失敗」だったのか?

まず、国産ジェット機のテスト飛行はどのようなものであったのか、また本当に失敗だったのだろうか。中国の国産ジェット機は欧米の製品に比べて、まったくダメなものだったのか。

実際には、2月1日のテスト飛行はC919の初飛行ではなく、ましてや唯一のテスト飛行でもなかった。C919のテスト飛行は一連の連続したプロジェクトで、昨年12月26日に早くも始められたもので、今年3月まで行われ、全国的に、多くのルートで100時間にわたる安全飛行検証が行われた。関係報道によると、それ以前にも故障はあったが、C919のテスト飛行は続けられ、北京-ウルムチ、ハルビン-浦東-三亜などのより難度の高い遠距離フライトを成功させている。あるフライトで故障が起きても(のちに航空部門は逆推進力の故障は飛行機の着陸に影響を及ぼすことはないと説明している)、テスト飛行全体が失敗であるかのように言うのは客観的な事実には合致しておらず、テストフライトの全体の過程はやはり比較的順調に終えることができたといえる。

実のところ国際市場においてジェット機の初歩段階はみなさほど完全なものではないのだ。当然、国産ジェット機メーカーは今後やはり国際的な慣例通り、技術事故は即座に発表すべきであり、国産ジェット機の優越性を証明するためにひたすら問題を隠そうとするならば、それは国産ジェット機にも害をなすことになる。

国産ジェット機の研究開発は本当に必要ないのか

より重要な問題は、国産ジェット機の研究開発が本当に必要かどうかということである。飛行機を製造するよりも、買ったほうがいいのではないか。飛行機産業を大きくすると主張することは、狭隘な技術民族主義なのか。

特定の条件のもとでは、こうした見方も完全な過ちとはいえないが、それにはいくつかの前提がある。それは、国内状況として工業技術力が弱く、根本的に飛行機製造が不可能であり、同時に国内の航空運輸の需要がとても小さく、飛行機の研究開発コストがあまりに大きい場合には、強がる必要はなく、自分ではできないと潔く認めて飛行機を買うほうがいい。国際的な条件として、世界市場が極めて開放的な市場で、技術先進国が中国の必要とするものを何でも与えてくれるのなら、われわれはコスト最優先モデルをとり、安心して輸入し、産業リソースを中国が差し迫って必要な、得意な工業に当てることを選択し、ジェット機を生産する必要はない。改革開放初期のように、国際情勢が極めて中国に友好的で、加えて中国の工業能力も劣っていた場合、「船は造るより買ったほうがいい」という考えを広めることは明らかに正しい。21世紀初頭であっても、国産ジェット機の製造プロジェクトに着手するかどうか検討したら、飛行機を買うほうが製造するよりも明らかに賢いだろう。

しかし、ここ数年、国内外の情勢に変化が発生し、上述の前提はもはや存在しなくなっていて、飛行機を買うよりも造るほうがいいという情況になっている。

まず、中国はすでに世界三大航空市場の一つになっていて、かつ世界でも成長が最も速い市場であり、中国は過去20年に4000機余りの大型旅客機と貨物機を購入していて、世界でも最大の買い手であるということだ。今後20年もさらに引き続き8000機余りを買う必要があり、その価格は数兆ドルにものぼり、世界の航空市場の四分の一から五分の一を占める。

このように巨大なブルーオーシャンを目の前にして、基本経済需要からいうと、中国国内企業もまた航空工業を発展させるという強い衝動をもっていて、その利潤をみすみす外国企業に持っていかれたくはないと思っている。欧州でエアバスを共同開発したときも、欧州市場の大きさから鑑み、自身で需要を満足させたい、欧州の巨大な市場をボーイング社に独占されたくはないという気持ちが働いていた。そのため、国産ジェット機の製造という選択は、かなりの程度市場法則によるものといえ、狭隘な民族主義に駆られたものと短絡的にみることはできない。

本当の問題は「どのように進めるべきか」にある

実際には、中国のジェット機(似たようなものとしてさらにチップがある)の現在の真の問題は、やる価値があるかどうかではなく、どのように進めるべきかということにある。

全体からみれば、それは過去の冷戦時代のごとく、軍需産業のように門を閉じて、計画経済の方法で進めることはできず、あの時代の苦難の中で勇敢に戦う精神は讃える価値はあるとしても、その運用方法はもはや完全に現実にはそぐわなくなっている。

ジェット機やチップはどちらもサプライチェーンが複雑な民間商業製品で、これは中国が過去にロケットや衛星、核兵器などを造ってきたのとは異なり、開放・協力のなかで行う必要があって、門を閉じ一人で勝手に行うことはできず、行政による主導ではなく、市場の力を十分に発揮させて進める必要がある。国有企業や国家の科学研究機関だけが行うのではなく、積極的に民間企業の力を発揮させて進める必要がある。閉鎖的に行政主導のやり方では、ソ連時代の飛行機、チップ、コンピュータのように、巨大な労力・財力を費やしても、何の見返りも得られることはないだろう。

(『日系企業リーダー必読』2023年6月5日記事からダイジェスト)

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