『必読』ダイジェスト 20世紀の初頭、少なくとも100社の米国メーカーが手作業で高価な自動車を製造していた。大量生産の経済効果により、この業界は次第に少数の超大手メーカーの掌中に収まっていった。しかし、今ではこの過程が逆転し始めている。中国だけで300社もの電気自動車(EV)メーカーがあるといわれる。電池とモーターは既成のものを購入することができるため、一連の車種の様々な要求を満たすために、さらに何十億ドルもかけて、いくつもの内燃機関を開発する必要はない。様々なサイズの電池があればよい。様々な車両に使用することができ、性能の特性もソフトウェアを用いて微調整することができるモーターがあればよい。従って、少ない生産量で利益を上げることができる。2023年5月9日付の英国『エコノミスト』に掲載された記事はたいへん参考になり、ここで抄訳する。

テスラが台頭して多くのフォロワーを獲得、また中国メーカーが欧州市場に照準を合わせていることから分かるように、自動車ブランドを立ち上げる面で障害となっていた古いルールは今や破られつつある。電気自動車の購入者から見れば、新旧企業がみな同時に似たような製品の生産に乗り出したため、購入者たちはいわゆる伝統的なブランドをそれほど重視することもないだろう。ブランドロイヤルティが弱くなる一方のミドル・ローエンド自動車市場ではなおさらだ。中国メーカーが世界征服に挑むとき、人々の新しいブランドに対する開放的な態度は、これらメーカーにとって追い風となることだろう。中国のモーターショーの地位が日増しに上昇していることも中国自動車産業の台頭を証明している。自動車ディーラーの盛博は、「中国の自動車輸出が今、急速に増加している」と指摘。2022年に輸出台数は51%増加、320万台に達したが、2020年から2022年までは年間増加率はわずか2%だった。中国メーカーはかつて南アジアやアメリカ大陸の貧しい国に安価な内燃機関自動車を輸出していたが、今は欧州及び電気自動車に焦点を合わせている。

中国のBYD(比亚迪)と長城自動車は昨年10月のパリ・モーターショーで人々の目を集める電気自動車を披露した。中国電気自動車のベンチャー企業である蔚来(NIO)、小鵬(Xpeng)、理想(Li Auto)の3社は今、欧州各地で自動車を販売しており、昨年はそれぞれ中国での販売台数が12万台を突破した。調査会社のシュミット・オートモーティブ(Schmidt Automotive)によると、上汽集団傘下の名爵(MG)と吉利集団傘下の極星(Polestar)を加えると、2022年に中国ブランドが西欧の電気自動車の販売台数に占める比率は6.2%になるという。このシェアは今後さらに勢いを増すに違いない。BYDは欧州に電気自動車工場を建設する予定だ。コンサルティング会社のガートナーは、「2026年までに、世界で販売される電気自動車のうち50%以上が中国車になる」と予想している。

中国の自動車は自社がサービス展開する国内市場の巨大な規模と低コスト、電池業務の掌握に頼ることができ、また手厚い国家資金を獲得するチャンスもある。しかし、中国市場はすでに成熟し、国内の生産力は過剰となり、これら2つの要素が重なることによって将来の成長に対して輸出が極めて重要となる。それに対し、低生産量と電池の高コストによって、西側の老舗自動車メーカーは電気自動車の生産で利益を上げる方向にシフトすることに困難を覚えている。盛博の計算によると、駆動システムの入れ替えによって従来自動車メーカーのコスト増は50%に達するという。その主な要因は電池であり、また電池のためにこれらメーカーの自動車の利潤は他の内燃機関自動車の同類製品よりも低くなっている。フォードは自社の電気自動車部門による今年の赤字が30億ドルに上ることを明かした。ステランティス(Stellantis)のカルロス・タバレス(Carlos Tavares)CEOは率直に「中国人と張り合うためには、太刀打ちできるコスト構造を持つ必要がある」と語った。中国の電気自動車は、「航続距離とエネルギー効率の方面でグローバルブランドに引けを取らない上に、価格はより安い」と盛博は指摘する。BYDのAtto 3のドイツでの販売価格は3万8000ユーロで、ドイツのフォルクスワーゲンが販売する同類の純電気自動車ID.4よりも10%から20%安い。

タバレスCEOは中国の電気自動車により高い関税をかけることに賛成している。しかし、他の欧州メーカーは2つの難しい事態に直面している。ステランティスの中国での販売台数は少ないものの、フォルクスワーゲンやBMW、メルセデスベンツの利益の大半は中国に依存しており、さらに現地における大規模生産メーカーでもある。フォルクスワーゲンは中国に33カ所の合弁工場と10万人の中国人職員を抱えている。欧州で中国の自動車メーカーに行われる懲罰的な仕打ちがどんなものであれ、報復に遭う可能性がある。

中国の自動車購入者の好みが変化するにつれて、中国市場で欧州メーカーが利益を上げる能力にも陰りが見え始めている。欧州ブランドはかつてステータスの象徴だったが、急速に発展する中国国内の競合他社に対する対応が遅いため、自社の販売台数にその影響が表れ始めている。2021年、海外自動車ブランドの販売台数が中国市場に占める比率が初めて半分以下にまで下がった。そのことに鋭い関心を向けている中国のコンサルティング企業ZoZoGoのアナリストは、「かつて中国人が意識していたのは海外ブランドだったが、今購入者が求めているのはイノベーションだ」と語る。

資本が容易に入手できることも中国企業にとって後押しとなっている可能性がある。新規参入者は国家資金による支持を得るのが容易なだけではなく、他の方面からも自社が必要とする資金を見いだすことができる。プライベート・エクイティやテック企業、従来型自動車メーカーはみな、次のテスラになり得るベンチャー企業に資金を注入している。例えば、中国の小鵬自動車は国内の投資会社および超大手テック企業のアリババ(阿里巴巴)から巨額の融資を受けている。

中国以外の新規参入者にとって、問題はそれら企業がどれほどの資金を注ぎ込めるか、またこのレースにどこまで耐えられるかという点にある。サウジアラビア公共投資基金からのサポートを受けている米国の電気自動車ベンチャー企業のLucid Motorsは2月の業績発表会で、自社には2024年までやっていけるだけの十分な資金があると語ったが、これは長期的な見通しに対する有力な保証があるというわけではなく、特に中国のすでに脂が乗っている電気自動車メーカーに長期的に張り合うには、それでは不十分であるように聞こえるものだった。

(『日系企業リーダー必読』2023年5月20日記事からダイジェスト)

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