『必読』ダイジェスト 2023年4月13日付の『ニューヨーク・タイムズ』中国語版サイトに電池産業の記事が掲載され、たへん参考になる。同記事の一部を以下のように抄訳した。
中国は、リチウム電池よりもコストがはるかに安く、備蓄も豊富なナトリウムに置き換えることで、充電池の次世代の重要革新をリードするための準備を進めている。
塩の一部であるナトリウムはどこにでもあり、価格はリチウムのわずか1〜3%にすぎないが、両者の化学的性質は非常に近い。最近得られたブレークスルーは、ナトリウムイオン電池が長期にわたる頻繁な充電を可能にしたことを意味している。このことは、リチウム電池の重要な強みの1つを弱体化させている。ナトリウムイオン電池の容量も向上した。
さらにナトリウムイオン電池には、温度が氷点下でも、ほぼすべての電力量を保持できるという、リチウムイオン電池では通常不可能な大きな強みもある。
中国中部の都市長沙で、今年卒業の学生らが中南大学の緑豊かなキャンパスを出て、近くの研究実験室(ラボ)でナトリウムイオン電池技術の研究に従事している。これらの実験室の運営者には、ドイツのBASFのような世界最大の化学メーカーも含まれている。一方、実験室の数ブロック先では、ナトリウムイオン電池用化学品を製造する最初の大規模工場の1つが建設中だ。
中国の電池業界幹部は、過去1年でリチウム電池に非常に近いナトリウムイオン電池を製造する方法を研究し、さらには、同じ装置で製造することも可能にしたと語る。世界最大の電気自動車(EV)用電池メーカーである中国の大手企業である寧徳時代新能源科技(CATL)は、ナトリウムイオン電池の低コストと耐候性とリチウム電池の持続力を組み合わせ、EV向けの単一電池パックにナトリウムとリチウムを混用する方法をすでに研究していると述べた。同社はまた、このハイブリッド電池パックの大規模生産を準備しており、このほど、福建省寧徳市に初の大型ナトリウムイオン電池組立ラインを建設したと述べた。
世界の多国籍企業グループもナトリウムに注目し始めている。
世界最大の鉱業会社BHPビリトンのマイク・ヘンリー(Mike Henry)最高経営責任者(CEO)は、「これはリチウムの需要の勢いを削ぐことになる。一部の応用シーンでナトリウムがリチウムに取って代わるのを目にするようになると確信している」と語った。
ナトリウムを電池に使う研究は1970年代に始まり、当時は米国がリードしていた。十数年前には、日本の研究者が研究を大きく進めた。その後は、中国企業は率先してこの技術を商業化している。
ロンドンを拠点とするリチウムイオン電池原材料のシンクタンクであるベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(Benchmark Mineral Intelligence)によると、世界で現在計画されている、あるいは建設済みのナトリウムイオン電池工場20カ所のうち、16カ所が中国にある。今後2年間で、中国のナトリウムイオン電池生産能力は世界の95%近くを占めることになる。同シンクタンクは、その時点でリチウム電池の生産量はナトリウムイオン電池をさらに大きく上回るものの、後者が追いつきつつあると予測する。
4月18日から27日まで開催される上海モーターショーでは、自動車メーカーや電池メーカーが中国市場の一部限定小型車でナトリウムイオン電池の使用計画を発表する見込みだ。
ナトリウムイオン電池の現在最も直接的な将来性のある用途は、送電線と送電塔で構成されるネットワークである送電網だ。送電網向けバッテリー市場は、とりわけ中国で急成長している。テスラは上海に工場を建設し、エネルギー供給業者向けにリチウム電池を生産するとしている。
蓄電量を等しくするには、ナトリウムイオン電池の体積はリチウム電池よりも大きくならなければならない。スペースが限られた自動車にとってそれは課題だが、電力網のエネルギー貯蔵にとっては問題ではない。電力設備は、ソーラーパネルや風力タービンの近くの空き地に2倍の体積の電池を置くだけで、リチウム電池からナトリウム電池への変換が可能になる。
世界各地の電力施設が太陽光や風力などの気候にやさしいエネルギーへとシフトし始めるにつれて、大規模な電池によるエネルギー貯蔵需要も高まっている。これらの電池は日差しがあるとき、風が吹いているときにエネルギーを蓄え、石炭や天然ガスで生産した電力をそれらで代替する。
電力会社はリチウム電池を利用して、再生可能な電力をより多くの時間帯に分配することができる。だが、中国西部の長江三峡集団など一部の電力施設はすでにナトリウムイオン電池の実験を始めている。中国の太陽光産業を専門とするコンサルタントのフランク・ハウクヴィッツ(Frank Haugwitz)氏によると、多くの省では、新たに建設される太陽光発電所または風力発電所に、少なくとも発電量の10〜20%を貯蔵できる十分なバッテリーを設置するよう求める規定が導入されている。
リチウムイオン電池と違い、最新のナトリウムイオン電池はコバルトのような希少な原料を使う必要がない。この鉱物は主にアフリカで採掘されており、その採掘環境は多くの人権団体が深く懸念している。次世代ナトリウムイオン電池も、主にインドネシア、ロシア、フィリピンの鉱山で生産されるニッケルを必要としない。
ナトリウムイオン電池の耐久性を疑問視する声もある。エネルギー関連コンサルティング会社ランタオグループ(Lantau Group)の電力業界コンサルタントのディビット・フィッシュマン(David Fishman)氏は、電力会社が見たいのは、実験室の結果だけではなく、実用シーンにおけるナトリウム電池の長期的な性能が発揮されることだと述べた。
だが今、フィッシュマン氏及びその他の人々はみなナトリウムイオン電池の研究開発の進展を注視している。電池需要は急速に伸びており、リチウムが無期限に優位である可能性は低い。
「そう、ナトリウムイオン電池は役に立つ」とBHPビリトンのマイク・ヘンリー氏は言う。「そして中国はこの方面の研究の推進においては最先端を走っている」
(『日系企業リーダー必読』2023年4月20日記事からダイジェスト)