『必読』ダイジェスト 『ウォール・ストリート・ジャーナル』は3月27日、「グローバル企業の中国駐在代表により大きな自主権を」と題する総括的な論評を発表し、日本のパナソニック、ドイツのフォルクスワーゲンの「ボード(取締役会)、意思決定者を中国現地に配置すること」の実践について重点的に紹介した。
中国国内で競争しようと思えば、その土地に企業のボード、意思決定者を配置することが助けになるということに、グローバル企業は気が付いた。
これらの企業は在中国業務にさらに多くの自主権を付与し、より迅速な業務展開ができることで、中国という膨大で変化の速い市場において、現地のライバル企業と肩を並べる力を発揮できるようにしている。中国における業務により多くの経営統制権を与えるのはこれらの企業が中国を主要な成長源にする上で役に立つ。
こうした決定によって、これらの企業は絶えず上昇している地政学的なリスクとリモート決定がもたらす問題の影響を免れることができる。中国が新型コロナウイルス感染症によって外界から隔離されていた3年の間に、リモート決定がもたらしてきた問題はさらに拡大した。
パナソニック(旧松下電器)は、この数年、中国業務により多くの独立性を持たせることによって、家電や空調設備を含む分野で営業成績を上げてきた。これらの業務は一人の日本人ボードメンバーが責任をもって担当している。
かつて上述の組織再編業務の筆頭責任者だった本間哲朗氏は「われわれは当時、中国においてできる限り現地法人化することを選んだ。それまでは何から何まで日本に報告していた。こうした作業手順を完全に変えることによって、われわれの行動はさらに迅速になった」と語る。
ドイツのフォルクスワーゲンは本社からボードメンバー1人を派遣し、同社の中国における販売活動を立て直した。過去数年、中国のライバル企業の勃興にともない、中国の自動車市場は競争が激化し、フォルクスワーゲンの成長は停滞し、前へ進まなくなっていた。そのうえ、中国市場の最高意思決定者はコロナ禍で国外に足止めされたまま身動きが取れなくなっていた。
上述の企業の戦略はそれまでの一部の人々の対中観と全く異なり、中国を世界向けの輸出製品を製造する世界の工場とみなすことで満足していた。中国駐在企業は本国の本社によって中国における業務をリモートコントロールされていた。しかも、中国がコロナ禍で国境を閉鎖したことで、サプライチェーンが断ち切られ、さらには中国と西側諸国の地政学的関係は日増しに緊張度が増し、本社と中国における業務に関する推進、管理の関係はここ数年よりいっそいう複雑化した。
上海米国商会が昨年10月メンバー企業307社を対象にしたアンケートを行ったところ、回答のうち44%が「中国の考え方による中国業務(China for China)の経営」という企業戦略を推進しているということだった。しかし、同時に回答企業の21%は彼らが中国にいるのは「世界の他の地区向けの輸出を保障するため」と表明していた。
アップルは米国のエンジニアがコロナ禍期間中には中国に入国できなかったことで、ここ数年中国駐在のエンジニアにこれまで以上に大きな責任を付与し、同社の生産サイクルを維持したが、キーとなる意思決定と核心的な任務はこれまでどおり米国に集中させた。テスラは中国常駐のボードメンバーとして中国エリアの業務に8年携わった朱暁彤氏にリーダーとして指揮を任せたが、、その後同氏は米国に呼び戻され世界戦略管理部門に加わっている。
パナソニックの経験
パナソニックとフォルクスワーゲンの中国駐在のトップは共に本社が派遣したボードメンバーだった。本間氏は2021年、2022年に続けて昇進し、最終的にはパナソニックの全中国業務の責任を負い、その後も依然として中国にとどまり業務に携わっている。同時に同氏のパナソニック中国・北東アジア公司の後継者もまた中国に常駐しているが、その人もまたパナソニックの老将である。
パナソニックの収入の13%は中国に依存している。中国のライバルのデザインの最適化(Design Optimization)、品質向上、市場シェア向上に伴い、それまでの10年間停滞していたパナソニックは、2018年に調整に乗り出した。
当時、松下電器(後にパナソニックに社名変更)の家電業務を担当していた本間氏はボスに呼ばれ、業務成長の計画提出を求められた。同氏はおよそ40人で構成された委員会を立ち上げた。
日本と中国における6週間の討論を経て、彼らは3つの主要問題を見付けた。その1、松下は消費者が存在する中国市場に重点を置いておらず、その目は本社がある日本に向けられている。その2、同公司のコストが高すぎる。その3、中国の人材、資源を十分に活用していない。
翌年、パナソニックは中国事業を再編し、新たに立ち上げた中国と北東アジア部門に製品の計画、開発、デザイン、製造、販売の責任を持たせたが、そこには日本人エンジニアは参加せず、本社の許可も必要としなかった。
パナソニックは次のように総括した。当該部門はその後の2会計年度の間に二けたの収入増を実現したが、松下は3月31日締めの会計年度内において、コロナ禍が中国経済を損ねたことによって当該部門の収入増も鈍化すると見積もった。
本間氏によれば、こうした変革行動が生産開発時間を短縮したという。同公司は2024年までに、開発時間を2022年3月から半減させることの実現に力を入れる。
パナソニックは中国におけるこのほかの2大業務部門――自動車システムとスマート工場ソリューションをその中国、北東アジア部門には取り込んでいない。本間氏によれば、パナソニックは技術移転のリスクに敏感な業務を中国及び北東アジア部門に取り込むことは考えていないとう。
フォルクスワーゲンの行動
ドイツのフォルクスワーゲンは売り上げの40%を中国市場に依存していたが、ここ数年、同社の中国市場におけるシェアは縮小している。
同社の中国市場におけるシェアは数年前からぐらつき始めていた。中国ローカルの製品は次々にSUV(スポーツ用多目的車)ブームに乗ったが、フォルクスワーゲンは電気自動車(EV)の勃興やコロナ禍による生産停止などによって身動きが取れなくなっていた。2021年、フォルクスワーゲンは同社のフラッグシップ・モデル、ID.4電動SUVを中国市場にデビューさせたが、評判はいまひとつだった。これに比べてBYDや蔚来(NIO)など中国本土のライバル車は圧倒的な強みを示していた。
フォルクスワーゲンの前最高経営責任者(CEO)、ヘルベルト・ディース氏は現役の時、中国業務を直接担当していた。彼はその当時、数カ月おきに中国を訪れていたが、中国が厳格なコロナ対策を実施し、入国者には数週間の隔離を要求したことで、中国に来ることができなくなった。
ラルフ・ブランドシュテッター氏はフォルクスワーゲンに強大な影響力を持つ管理委員会のメンバーで、昨年8月、中国業務を担務するため同委員会から中国に派遣された。彼は「フォルクスワーゲンの行動が相対的に後手に回ったことが、同社の直面している問題の一つである」と指摘。
ブランドシュテッター氏はまた、現地スタッフに宛てたメッセージの中で次のように指摘した。「中国のイノベーションの原動力とそのスピードは欧米の数倍で、他のいかなる市場も中国に近い成長潜在力とイノベーションのスピードを提供することはできない。
また同氏は「フォルクスワーゲンが新製品を市場に出すには少なくとも4年の年月が必要だが、中国企業は2年半余で実現する」と指摘。
現在、フォルクスワーゲンはすでにより多くの現地化政策決定権を中国エリア責任者とそのチームへ移譲している――とりわけ製品と技術開発面において。この戦略は企業の発展速度をさらにスピードアップさせ、それによって同社は中国において多くのスタッフを招聘し、また現地で技術提携パートナーと手を携えて前進している。
(『日系企業リーダー必読』2023年4月5日記事からダイジェスト)