『必読』ダイジェスト 2020年代に入ってから、消費者(コンシューマー)向けインターネットはピークを過ぎ、ビジネスモデルの革新ももはや行き詰り、投資者や社会の視線は再び主要技術・中核技術へと戻っていて、工場はまさに科学技術、生産と需要の相互のテスト段階である。ビジネスモデルの革新に比べると、工場で起こっている技術・設備・組織・製造過程の変革は、より静かで重々しく、中国の製造業企業がより真剣に学び、見習う価値があるものとなっている。

中国の著名な経済ライターの呉暁波氏は、2022年初めから何度かにわたって、中国の民営企業の経営者を引き連れ、十社あまりのスマート化・高度化方面で最先端をいく製造業の「模範工場」を見学している。3月末、呉暁波氏はある動画の中で、自身をおどろかせた情景について語った。

まずは、雲南白薬集団の呈貢市にある歯磨きペースト工場だ。雲南白薬の歯磨きペーストは全国市場におけるシェアが24%にも及び、名実ともに業界トップといえ、年間販売額は60億元にのぼり、一年間で約4億本の歯磨きペーストを生産しているが、これはすべて呈貢工場で生産されている。このような巨大な規模の工場には、いったいどれだけの労働者がいるのか。呉暁波が驚いたことに、わずか50人に過ぎなかった。

生産量からすると、この工場は年平均で一人あたり800万本の歯磨きペーストを生産しているが、一人当たり1.2億元の収益に達する。

呉暁波氏の観察によると、ペースト生産作業場とチューブ注入作業場は完全に無人化オペレーションとなっており、保管倉庫ではパレタイザーロボットが人の代わりに運搬し、フォークリフトは無人搬送車に取って代わられている。品質検査場にはまだ十数人の労働者がいて、彼らは検査測定機器を使って仕事をしている。外箱生産ラインにも数人いるが、彼らがまだそこに存在するのは、ロボットのほうが人よりもコストが高いからである。

工場長は呉暁波氏に対し、現在、ペースト生産部分にはさらに材料追加とメンテナンス・清掃を担当する労働者がいるが、人工知能(AI)技術を応用すれば、この部分の人員も何人かは省くことができると語った。

呉暁波氏によると、彼と一緒に見学に行った中国の企業家たちは、ほとんどが製造業の中小企業オーナーだったが、彼らの顔に浮かんでいたのは一様に「今後製造業の労働者はいったいどこで働けばいいのか?中小の歯磨きペースト生産企業はどうしたらいいのか?」という問いかけであったという。

「もしこうした工場を見学しなければ、彼らはここで今どんな変化が起きているのか、まったく知るすべがなかっただろう」と呉暁波氏は語っている。

ハイアールの洗濯機工場では、一枚の鋼板から最終的に完成品の一台の洗濯機になるまでの生産所要時間は約38分であった。以前は人の目で洗濯機一台の品質検査を行うのに約5分かかったが、今では5G品質検査ロボットが行うため、45秒ほどしかかからない。

極氪 (Zeekr)の新エネルギー自動車工場では、インゴット一つから完成車最終組み立ての完成まで、途切れることのない、年産30万台の巨大な生産ラインとなっていて、それに必要な労働者はわずか1000人となっている。

中国最大の寝具メーカーである慕思の工場では、一日あたり1万枚のマットレスが生産されるが、必要なのは200人の労働者のみで、生産ラインでは同時に異なるサイズの異なる充填材料を使用したマットレスを生産でき、以前では考えられなかった大規模オーダーメイドが実現していた。

三一重工は国内の建築業最大の装備製造工場で、ブルーカラーの労働者とエンジニアの割合は2017年には9680人:2700人だったのが、2022年末には14560人:12200人となり、2025年にはこの割合は3000人:30000人に変わるだろう。

変えられているのは生産速度や一人あたりの生産性だけでなく、今まで健康被害が問題となっていた職種や、高い技術力が必要とされていた職種も今まさに取って代わられようとしている。

陶磁器衛生器具工場では、施釉の工程が最も大変な作業であり、長年釉薬に取り囲まれていために塵肺を患う人が多かったが、今では施釉ロボットの出現により、これを人の手でやる必要はなくなった。

革製品工場では、各種の皮・毛皮の品質を熟知している裁断師が尊重されていて、収入も最も高い職種であったが、今ではスキャン計算機能つきの裁断機の出現により、その職業はなくなった。

「もし作業場が製造業の最も基礎的な計算単位であるならば、ここで発生している天下を覆すような変化は、中国新型工業化の道のりと可能性について再考する必要があることを意味している」と呉暁波氏は驚きとともに語っている。

彼が下した判断とは以下の通りだ。

判断その一:中小の製造工場は未曾有の大淘汰にさらされるだろう。

判断その二:ロボットおよびスマート化ツールの広範な応用が、以前の労働力パターンを徹底的に変えてしまう。

判断その三:産業クラスターの付属施設は、地域工業のコア競争力となる。

判断その四:中小製造企業は「専門化・精密化・特徴化・斬新化」に特化する必要があり、何かに集中して、大きくなろうとはしないことだ。

呉暁波氏が中国の企業家を連れて「模範工場」を見学しているのは、実際には「ライトハウス工場」のベンチマークである。2018年から、ダボスフォーラムはコンサルティング会社のマッキンゼーと協力し、世界の「ライトハウス工場」を選定するプロジェクトを行っている。「ライトハウス工場」は「世界で最も先進的な工場」と呼ばれており、模範的意味がある「デジタル化製造」や「グローバル化4.0」の模範であり、現在の世界の製造業分野のスマート製造やデジタル化の最高レベルを示すものである。2023年1月時点で、世界の「ライトハウス工場」は132社に達しているが、中国の「ライトハウス工場」は50社にまで増え、世界一をキープしている。

「世界で最も先進的な工場は、中国にある」と言っても誇張ではないだろう。

(『日系企業リーダー必読』2023年4月5日記事からダイジェスト)

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