『必読』ダイジェスト 国際産業チェーンの再構築が加速するなかで、「中国は決して製造業を放棄することはできず、さらに産業チェーンのハイエンド化発展を強力に推進する必要がある」と中国は最近、高らかに強調した。2023年の全国人民代表大会において「いかなるときも中国は製造業を欠くことはできない」「国はハイエンド製造業の発展を強力に支援する」とも強調されている。
米国やその同盟国が中国に対する技術規制の実施を強化し、グローバル企業はサプライチェーンにおける中国への過度な依存を避けようとする傾向が強まる中で、この態度表明は、中国指導者層の製造業に対する日増しに深まる憂慮を示す、また一つの新たな兆しとなっている。
「ハイエンド製造業の発展」は、実際にはもう長年ずっと言われてきたものだが、現在はどのレベルにまで発展しているのか、また今後はどうなるのか?
中国の「アキレス腱」
過去数十年間、中国の製造業はさかんに発展し、グローバル大企業はわれ先にと中国工場を設立し、製造業の突然の台頭は、中国の歴史的な全面勃興をも推進した。しかし、中国の製造業は「大きくても強くない」という問題が一貫して中国共産党指導者層を悩ませてきた。
2010年に中国の製造業の増加値が初めて米国を超え、世界一の製造業大国になったが、「中国は低コストという強みを発揮することにより、しだいに世界の製造業大国へと成長したが、大きくても強くないということが一貫して発展における弱点であり、多くの基幹技術、大型プラント、核心的コンポーネント、重要な基礎部品(パーツ)は輸入に頼っている」と中国メディアでは強調していた。
中国のイノベーション能力の向上は、中国が当時実施していた「中国製造2025」の中心的な内容となった。この戦略では、製造強国の建設には、「イノベーション駆動を際立たせる」必要があり、さらには「全社会の力を動員し力いっぱい戦う」必要があるとしている。
中国工程院は2015年から毎年一回製造強国発展指数を発表しており、この指数は規模・付加価値・質・構造などの指標により世界の製造業強国を4つの陣営に分けたものだが、今日に至るまで中国はいまだ「第三陣営」に位置している。この中国エンジニアリング界トップのカウンセリング機関は、「質という指標において、中国の製造業の著名ブランドの数は極めて少なく、世界の製造業の十大ブランドにのし上がったものは一つもない」と指摘している。
中国のある種の分野、特にモバイル業務の大企業は近年イノベーション能力をそなえているようで、一部の欧米の科学技術大企業ですら、中国企業からアイデアを得ようとしている。しかし、実体製造業全体からいえば、やはりほとんどが労働集約型の産業チェーンのローエンドに位置するものだ。
長江証券公司が発表した「2022年製造業テーマ研究――中国製造業の現状と未来」というレポートでは、中国は過去20年間ですでにミドル~ハイエンドの資本品と中間品生産に移行しつつあるが、絶対数から言うと、「中国はいまだローエンド商品の生産を主とする国だ」と述べられている。
基幹的・核心的技術のボトルネックを打ち破るため、中国は今年の「両会」上で科学技術部の改組を決定した。1998年に成立してから今日まで、科学技術部は25年を経ているが、その間に中国の歴史的な科学技術進歩を導いてきた。今回の改組では多くの非核心的機能を農業農村部、発展改革委員会などその他の部や委員会へと振り分け、科学技術部の政府システムにおける地位を向上させる。
国内外の多くの問題に直面
科学技術部の改組は科学技術イノベーションがさらに厳しい政府主導の下に置かれることを意味している。中国国務院のこれに関する改革議案によると、この措置は「新型挙国体制」の健全化を推進し、科学技術イノベーションの「フル・チェーン」管理を優良化するためであるという。中国共産党は一貫して、中国の質の高い発展が依存する主な力とは、「挙国体制」であると認識している。しかし、欧米メディアや中国の自由主義者からすれば、計画経済・政府主導のあらゆるモデルこそが、まさしく創造力を殺してしまうものなのである。
この根本的な体制問題のほかにも、近年、米中関係の悪化、中国の人口構造の変化、グローバル企業のサプライチェーンの外部移転なども中国製造業のハイエンド化発展を大きく制約している。
人口構造の変化は、中国経済全体の就業者数の減少、労働コストの急上昇につながり、なかでも製造業の就業者数の減少傾向が最も顕著となっている。中国国家統計局が昨年9万社の一定規模以上の工業企業に行った調査によると、約44%の企業が、「従業員雇用難が現在直面している最大の問題である」と回答。中国国家統計局によると、中国の工業企業の売上高は増加を維持しているが、利潤は下がっていて、昨年よりも4.0%のマイナスである。利潤の減少の結果のひとつが企業の「研究開発費投入の減少」で、ハイエンドへ移行するための一大障害となっている。
中国の製造業が直面するもう一つの深刻な隠れた問題とは、グローバル企業の産業チェーンの外部移転である。ブルームバーグ・ニュースの最近の報道によると、中国への過度の依存から脱却するため、アップルのスマホの最大のOEM企業である台湾富士康科技集団(フォックスコン)は、約7億ドルを投じてインドに工場を建設する計画であるという。これはグローバル企業が近年たえず産業チェーンの中国からの外部移転を模索することや米中デカップリングのトレンドにおける最新の事例である。
近年の中米関係の悪化は、中国経済の各方面にその災いが及んでいるが、なかでも製造業が受けた影響が最も深刻だ。
現時点ですでに数百社にものぼる中国企業が米国の各種の制裁を受けている。今月初めに米国商務省は中国の華大基因(BGIグループ)や浪潮(インスパー)など28社の企業をエンティティリストの中に入れ、その後の3月9日、米国財務省はさらにロシア・ウクライナ戦争で使うためのドローンをイランで製造するのに手を貸した5社の中国企業に対し制裁を実施した。
両会で中国の指導者の発言を観察した後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン・フォーキャスト研究所の兪偉雄経済学教授は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に対し、「実際には2022年が一つの転換点であり、欧米が中国に全面的な包囲と規制を行い、中国に経済・科学技術の発展における未曾有の圧力を感じさせた」と語っている。
しかし、この圧力を和らげるのは難しい。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の3月10日付の記事では、米国の数人の研究者の見解をひいて、「米中両国間の緊張関係は中国が米国のハイテクノロジーにアクセスすることを制限した。米中関係の悪化、両国の経済と科学技術の『デカップリング』という大きなトレンドのもと、中国の製造業がハイエンドへ移行することはより困難になるだろう」と指摘している。
(『日系企業リーダー必読』2023年3月20日記事からダイジェスト)