『必読』ダイジェスト 2022年12月24日、テスラは、同年の最終週に上海工場の大半の生産を一時停止し、早朝勤務を廃止したほか、製造センターの全労働者に休暇を取るよう通知したことを発表した。この出来事は多くの国内外メディアの注目を集めた。

上海工場はテスラの世界の生産能力の50%近くを担っており、同工場で生産された製品は中国市場だけでなく海外市場にも供給され、テスラの最も重要な生産拠点であることを知っておく必要がある。上海工場の生産能力があまりにも強力なことから、テスラの世界的な受注に対応するため、上海に第2工場の建設も計画している。

テスラは中国政府にとって「花形外資企業」なので、各方面で特別な配慮をするだろう。2022年8月、四川省の電力供給が逼迫している時期に、上海市政府はわざわざ四川省政府に書簡を送り、テスラのサプライチェーン企業の電力供給を優先的に保障するよう要請した。だから、予期せぬ状況が起こらない限り、テスラが簡単に生産を中止することは絶対にないと言っていい。いったいどんな理由から、テスラは2022年の最終週に生産停止を決断したのだろうか。テスラは公には説明をしてこなかったが、ネット上では陰謀論的な説もささやかれ始めている。

われわれは主に次の3つの理由があると考えている。

1つ目の理由は、上海でのオミクロン株の感染率が2022年末に徐々にピークに達したからだ。百度(バイドゥ)の検索指数によれば、12月22日、上海の感染症の検索件数がピークに達した。このことは、翌週、上海の多くの市民がオミクロン株の衝撃にさらされることを意味し、テスラの労働者も例外ではなかった。

生産ラインは高度なシナジーが必要であり、1つのラインで、重要な部署の労働者がオミクロン株感染で欠勤した場合、ライン全体の操業が困難になる。欠員率がテスラの生産ラインに一定程度の影響を与えた。

2つ目の理由は、クリスマスと元旦が近かったからだ。テスラの上海工場にも米国から派遣されたエンジニアや管理職が多く働いていて、クリスマスには外国人労働者が、元旦には中国人労働者が休みになる。オミクロン株はただでさえ多くの労働者に欠勤を余儀なくさせているが、クリスマスや元旦の到来で欠勤率が拡大した。

3つ目の理由は、テスラが売れなくなり、在庫が右肩上がりに増えているからだ。これが根本的な理由である。

工場を経営している人なら知っていると思うが、生産能力は注文とセットになっている。注文が多いときは、上司が労働者らに残業をさせ、2交代、3交代が普通だ。その顕著なケースが富士康(フォックスコン)だ。アップルの新しい携帯電話が発売されるたびに、フォックスコンは緊急に大量の労働者を募集し、生産ラインをフル稼働し、24時間体制で機械を止めずに必死に生産しなければならなかった。フォックスコンの人材確保労を支援するため、河南省政府はその任務を村の幹部に課した。だが、アップルの新しい携帯電話が最もよく売れていた時期が過ぎると、フォックスコンは大量の従業員を解雇し、生産ラインを低強度に維持し、一部の生産ラインを停止することもある。

テスラが現在直面している最大の問題は、現在、受けている注文が少なくなり、生産能力の供給が受注能力を上回っていることだ。従来、テスラの自動車販売は主に先行販売制をとっており、顧客が注文してから車が届くまで2〜4週間待たなければならないのが一般的だった。だが現在、テスラの在庫は右肩上がりで増加しており、一部のテスラ販売店では展示車をそのまま販売している。在庫も十分あるのだから、テスラ上海工場をフル稼働させて生産する必要はない。

テスラの受注減には予兆があった。2022年9月から12月にかけて3回にわたって値下げを発表し、テスラModel Yの販売価格も最大3万7000元の下げ幅となった。だが、その値下げもテスラ受注の継続的な落ち込みを反転させるには至らなかった。

テスラ中国の既存受注量は7月にピークを迎えたが、7月22日に映画・テレビ界のスターであるジミー・リン(林志穎)さんが自動車事故を起こした事件が大きなマイナスの影響を与えた。テスラの受注台数は8月に入って激減。その後、11月5日には潮州市のドライバーがテスラの車を運転して2.8キロを暴走、死者2人、負傷者3人の事故が起こったが、いまだその事故原因はわかっていない。これらの重大な交通事故はいずれもテスラのブランドとしての評判に深刻な悪影響を及ぼした。

だが、テスラの大きな問題は交通事故よりも「製品力」が追いついていないことだ。テスラModel 3は2016年4月、Model Yは2019年に発表されており、両モデルとも3年以上大きなモデルチェンジやアップグレードが行われていない。

ガソリン車に比べて電気自動車(EV)へのモデルチェンジは非常にコンパクトだが、この点でテスラは主流の中国大陸のEVブランドに比べて明らかに見劣りがする。30万元という価格帯で、EVの中国大陸ブランドは比亜迪(BYD)「唐」、蔚来「ET5」、「小鵬G9」、「理想L7」、(吉利の)「Zeekr 001」、「智己L7」などで、外資ブランドのベンツ、BMW、アウディもEV化への転換を加速している。強力な包囲網を前に、テスラがブランドの優位性だけで販売台数で優位に立つことは、ますます難しくなっている。

中国は世界で最も競争が激しいEV市場といえるが、テスラにとって米国と欧州における競争のプレッシャーは中国ほどではない。しかしながら、そんな熾烈な競争の中、マスク氏がテスラをプロの経営者に任せ、自身はツイッターのCEOになってしまった。テスラの投資家が大きな不満を募らせたことは、2022年中に株価が70%近く蒸発したことに反映されている。マスク氏がテスラに注力しないことは、当然ながら販売台数に反映され、テスラの製品システムが弱いという欠点が急速に拡大した。

テスラの中国製モデルが6日、再び大幅に値下げされ、市場を揺さぶった。中国のEV市場の競争は一段と激化しており、補助金の減少にともない、2023年は中国のEVの「価格競争元年」になる可能性が高い。テスラはますますこの過酷な戦いの中に身を置くことになるだろう。

総じていえば、テスラの生産停止は「中国における外資系企業」の物語の典型的なエピソードだ。そこには、政府の保護、巨大な市場、強大な生産能力、「中国式感染症」の衝撃、大陸の模倣者による真似・追い越しなど、「中国の要素」は一つとして欠けていない。陰謀など存在しない。

(『日系企業リーダー必読』2023年1月5日記事からダイジェスト)

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