『必読』ダイジェスト 2022年12月12日刊の英国の『エコノミスト』誌では「中国を捨てがたいグローバル企業」が掲載されている。『必読』はそれを翻訳し、転載時に一部を省略し、小見出しを加えた。以下はその転載のダイジェストである。

「たちまち白髪になってしまうような悩ましい仕事」とはどんなものかといえば、「中国でグローバル企業の管理をすること」にほかならない。

外交紛争や消費者ボイコットのリスクが、この仕事に影のように寄り添っている。ゼロコロナ政策の時には、しばしば地域封鎖が行われ、サプライチェーンをかき乱し、中国で仕事をする外国人経営者は安穏としてはいられなかった。従業員の感情も穏やかではいられず、管理するのは容易ではなく、その苦境に拍車をかけた。

グローバル企業が問題を解決する方法の一つとして、中国での製造への依存を減らすとうものがある。一部の企業はすでにサプライチェーンを中国以外へ移し、多元化を実現している。アップルやおもちゃメーカーのハズブロなどの企業は、ベトナムやインドなど、給与水準が低く、経営環境もそれほど頭をやませることのない国にすでに生産拠点を移している。アパレルメーカーにとってバングラデシュやマレーシアは移転先としてますます魅力的になっている。しかし多くのグローバル企業にしてみれば、中国は単なる「製造コストの低い場所」というだけではない。ここにそう簡単には処理できない問題が存在する。

中国に対する外資の依存度

中国の日増しに豊かになる14億の人口は、今や世界で販売されるアパレルの4分の1、宝飾品・バッグ類の3分の1近く、自動車の約5分の2を消費しており、包装食品、美容製品、薬品、電子商品などの消費でも、かなりの割合を占めている。中国は巨大な世界の製造基地であり、その自然な流れとして、世界最大の工作機械や化学品の市場ともなっており、建築業では長年ずっと建築機械の最大の買い手であった。

投資銀行のモルガン・スタンレーのデータによると、中国市場は米国の上場企業の総販売額のわずか4%を占めるのみで、日本や欧米の上場企業が総販売額に占める割合はそれぞれ6%と8%であった。

しかし、一部の会社にとって、中国の重要性ははるかに大きい。本誌ではブルームバーグ・ニュース社のデータに基づき、中国での販売額を公表している米国、欧州、日本のグローバル企業を分析してみた。そのうちトップ200の大企業は昨年中国での総収入が7000億ドルに達し、世界における販売額の13%を占めているが、5年前の同データはそれぞれ3680億ドルと9%であった。この7000億ドルのなかでも、30%が科学技術・ハードウェア企業で、26%が消費・日用品企業、22%が工業企業で、自動車製造、コモディティ商品企業もまたかなりの割合を占めている。

アップルやBMW、インテル、シーメンス、テスラ、ウォルマートなどを含むグローバル企業13社のレポートによると、中国における年間収入は100億ドルを超えているという。

ほとんどの業界で外資の中国市場におけるシェアが減少

中国で経営するグローバル企業のうち、一部は不運にも、すでに地政学的な政治衝突に巻き込まれている。われわれのリストには22社の半導体企業がある。そのうちの多くが、米国による中国に対する先進的なチップと製造装置の輸出規制により、販売に深刻な打撃を受けている。収益の平均30%が中国からのものであれば、調整には苦しみが伴うものと思われる。

BMWやメルセデス・ベンツなどの高級自動車メーカーは中国で力強い成長を続けているが、奇瑞(チェリー)や比亜迪(BYD)などの中国ローカルのライバルが急速に拡張し、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズなどの中級クラスの自動車メーカーの販売台数は減少しつつある。スポーツウエアブランドのナイキは、ローカル企業のライバルである李寧(リーニン)や安踏(アンタ)の攻勢にあい、販売が伸び悩んでいる。薇諾娜(Winona)などの中国の中級化粧品ブランドとの競争が激化し、韓国の化粧品メーカーであるアモーレパシフィックの販売も同様に失速している。競争の激化と建築業界の低迷のため、キャタピラーや日立建機といった外国建築機械メーカーの販売額もまた下がり続けている。グローバル企業の数が比較的多い20の業界を本誌が分析した結果、過去3年で、14の業界のグローバル企業のシェアが減少している。

中国では外資の強みがなくなりつつある

こうした状況を招いた理由は2つある。まず、消費・生活用品ブランドが特にその状況にあるが、外国ブランドへの憧れが失われたことだ。食品・飲料企業であるペプシ・コーラのアジア太平洋地区の責任者である陳文淵氏によれば、「消費・生活用品のグローバル企業はいかに製品をデザインし、需要をかき立てるかを知っており、これが競争における強みとなっていたが、ローカル企業は観察や学習により(いうまでもなく「人材引き抜き」もある)、この距離を縮め始めている」という。

中国の消費者にもまた変化が生じている。多くの人は今、中国文化独特のイメージが盛り込まれた製品を好むようになっている。こうした風潮は「国潮(中国風トレンド)」と呼ばれている。2018年に李寧がニューヨーク・ファッションウィークで中国をテーマとする一連のファッションを発表して以来、「国潮」スタイルはもはや化粧品からスープ類まで、各分野に及んでいる。

外国ブランドもまた中国文化を自社製品の中に取り込もうとしているが、それが成功するとは限らない。キンモクセイ・フレーバーのペプシ・コーラは大きな成功をおさめたが、ナイキが発売したスポーツシューズはそれほど受けが良くなかった。この靴はかかと部分に「発」の字(金持ちになるの意味)と逆さまになった「福」の字(福が訪れるるの意味)が書かれているが、このふたつを合わせると「発福」となり、これは「中年太り」という意味になってしまう。そのほか、ナイキなどのグローバル企業は、新疆ウイグル自治区の少数民族が受けている待遇に対する配慮を公表したことで、市場の地位もその影響を受けている。

グローバル企業が苦境に陥る二つ目の理由は、技術的な強みがどんどん失われていることであるが、特に重工業のグローバル企業で顕著である。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのグレーターチャイナ責任者である韓微文は、「中国企業の策略の‟虎の巻”は、まず廉価で同質化された市場を奪い、その後、専門知識を積み上げて、しだいに複雑な製品へと転換していくというものだ」と指摘。これは、どうしてフォルクスワーゲンのような自動車メーカーさえもが難しい状況におかれているのか、建築設備から工作機械業界の外国企業までがどうして今まさにハイエンド市場へと追いやられているのかの説明にもなるだろう。

こうした局面はとくに驚くようなものではない。1980年代に外国企業が中国市場への参入を模索し始めたとき、中国企業との合弁企業をつくることが自動車製造や機械などの業界に参入する条件となっていた。こうした「ファウスト的取引」により、中国企業はしだいに外国の製造における専門知識を吸収していった。中国は今、合弁の要求を緩和しつつあるが、これこそがまさに、もはや外国企業の技術的優勢を心配する必要がなくなったということを意味している。

中国の現地企業による圧力がどんどん強まり、多くのグローバル企業はのっぴきならない状態に置かれている。もし中国市場で競争力を維持したいのなら投資を増やさねばならないが、現在、地政学的リスクは絶えず強まっている。今のところ、ほとんどのグローバル企業には対応のための時間がある。われわれが分析した200社のうち、144社の中国業務はこの過3年間、依然として成長を続けているからだ。

撤退と堅持

時間が経つにつれ、外資はさらに頭を悩ますことになるだろう。中国の現地企業の台頭による競争激化によって、外国企業は今後中国における長期的発展という困った問題に直面させられる。外資は3つある道のうち1つを選ぶ必要がある。その3つとは、剥離・デカップリング・掛け金利益倍増である。

業務の剥離(売却)という選択が可能な企業がある。フランスのスーパーマーケットチェーンのカルフールは、中国で20年余りにわたって経営を行ってきたが、2019年、80%の中国業務を中国現地の小売り企業、蘇寧に売却した。米国アパレル小売りのGAPは11月8日に、中国業務をローカルの電子商取引(eコマース)企業である宝尊に売却すると発表した。こうしたローカルの競合するライバルに対する強みはもはや失われているものの、中国業務がなくても生存していける企業は、一部の業務にまだ資産的価値があれば、放棄することを選択するのが最良であるといえる。

もう一つの可能性はデカップリングだ。ケンタッキーなどを傘下にもつファストフードチェーン店のヤム・ブランズは、2016年に中国業務を分離させ、この部分の業務をより現地の環境に適応しやすくした。翌年、マクドナルドも同じように分離を行った。この戦略にはもう一つ別の長所もある。それは地政的な情勢悪化によって引き起こされるいかなる「離婚」手続きも簡略化できることで、同時に現地ではしばらく、親会社のブランドやその他の知的財産を使い続けることができる。もしこの道をとるならば、中国のこの業務を完全に独立した経営にする必要があり、ボーイングあるいはLVMHのように、海外での製造に依存する会社には不可能な方法である。

三つ目の方法は、「賭け金」を増やすことだ。ドイツの工業企業グループのシーメンスは最近、中国における投資を増やし、かなりの部分の研究開発を逐次中国へ移転させると発表した。社長のローランド・ブッシュによると、これは「ローカルのトップ企業を打ち破るため」という。10月13日、フォルクスワーゲンは24億ユーロ(25億ドル)を投資し、中国企業の地平線(ホライズン・ロボティクス)と自動運転の合弁企業を設立すると発表した。

こうした誓約は反故にするのが難しいもので、中国において強い地位を保持することで世界的な競争力を維持する必要のある業界においてよく採られる手段だ。自動車メーカーは、電動自動車やソフトウェア方面でリードしている多くのローカルのトップ企業に中国市場を奪われるままにしていたら、中国のローカル企業がその他の大きな市場に参入するための踏み台となってしまうことを心配している。中国と欧米とが友好的・平和的な関係を維持していれば、倍増した中国市場への投資も報われるかもしれない。もし関係が悪化したら、グローバルビジネスの地政学的博徒(ギャンブラー)にとって、「あらゆる努力がたちまち水の泡」となるけれども。

(『日系企業リーダー必読』2022年12月20日記事からダイジェスト)

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