研究院オリジナル 水素エネルギー自動車は技術の産業化と応用・商業化の面でのブレークスルーがなかなかできないため、現在の日本の自動車は新エネルギー車をめぐる競争で全面的に遅れをとっている。一方で、中国は日本に代わってリチウムイオン電池で世界トップとなった。それを受けて、中国の新エネルギー車が急速に台頭した。中国は世界で最も急速に発展し、最大規模の新エネルギー車市場となった。中国の新エネルギー車は日本市場にまで進出し始めている。

だが、自動車産業の歴史が深く、世界最大の自動車企業である日本は、安易に過小評価されてはならない。現在、日本の自動車は積極的に新エネルギー車面で「反撃態勢」を整えており、主に次世代電池である固体電池に照準を合わせている。

日系自動車企業が固体電池を全面的配置

固体電池は固体電極と固体電解質を使用する電池で、現在の電解液を使用するリチウム電池に比べて、電池のエネルギー密度、サイクル寿命及び充電速度を大幅に向上させることができ、セルの熱管理に対する需要を減少させることができる。しかも安全性も液体リチウム電池よりはるかに高い。業界では、固体電池が最も将来性ある次世代のリチウム電池との見方が広がっている。

日本の政府と企業は固体電池を配置するために十分な準備をした。日系自動車メーカーではトヨタ自動車が先頭に立っている。2020年8月、トヨタの全固体電池搭載のコンセプトカー「LQ」は、世界初の同種モデルのナンバープレートを取得し、公道テストを完了した。2021年9月の「2030電池戦略会」で、トヨタはハイブリッドモデルから全固体電池搭載する計画を明らかにし、2030年までに2兆円を電池の研究開発と生産に投じる方針を明らかにした。それは「2025年に車両前積みを実現し、2030年に量産する」というものだ。

日産は2028年に全固体電池を搭載したEVモデルの発売を計画している。ホンダも2030年ごろに全固体電池を投入する方針を示した。

固体電池の分野で日本はすでにトップに立っているというデータがある。日本経済新聞と特許分析会社パテント・リザルトの共同調査によると、2000年から2022年3月末までに日米欧など10の国と地域、世界知的所有権機関(WIPO)などの2機関に出願された全固体電池の関連特許は、1位がトヨタで1331件だった。2位がパナソニックホールディングス(445件)、3位が出光興産(272件)と日本企業がトップ3を独占した。上位10社のうち、6社が日本企業だった。

別ルートを走る中国のペースも遅くない

上に述べたことから、一見日本車に勝算がありそうだが、事はそう単純ではない。実際、固体電池の分野で中国は依然として最も強力なライバルだ。日系自動車企業は動きを起こすのが早かったが、中国はまったく別の戦い方をしていた。

固体電解質には、ポリマー電解質、酸化物電解質、硫化物電解質という3つの技術ロードマップがあり、日系自動車企業が選択したのは硫化物ロードマップだが、中国は主に酸化物ロードマップに焦点を当てており、違った技術ロードマップではあまり比較できない。理論上、硫化物は電気自動車分野に最も適しているが、最も難易度の高い技術ロードマップでもある。硫化物電解質はプロセスが複雑で安定性が低く、しかも材料コストが高いため、短期的に産業化できるかどうかは実際のところ確定的ではない。2018年のトヨタの固体電池のサンプル積み込みでは50回しか充放電できなかったが、当時の液体電池の充放電寿命は2000回程度だった。相対的に言えば、酸化物ロードマップの産業化の難易度ははるかに小さい。

硫化物固体電池の分野でも、中国企業の姿がある。中国の蜂巣能源は先ごろ、全固体電池実験室が中国初の20Ah級硫黄系全固体プロトタイプセルを開発したと発表した。同シリーズのセルのエネルギー密度は350−400Wh/kgに達し、量産後の新エネルギー車の航続距離は1000キロ以上を実現できる。

商業化の面では、中国企業はより柔軟性と創造性を持っているように見えるが、これも彼らの伝統的得意分野だ。中国企業は、固体電池を半固体(液体電解質の質量パーセントが10%未満)から準固体/類固体(液体電解質の質量パーセントが5%未満)に発展させ、最後に全固体(液体電解質を一切含まない)に発展させるという漸進的なロードマップを採用している。このようにする最大のメリットは、市場のチャンスをいち早く獲得し、産業生態システムを迅速に構築できることであり、同時に技術ルートも比較的安定しており、技術のボトルネックが適時にブレークスルーできないために生じる時間的リスクを回避することができることだ。この面で、水素エネルギー自動車は前例となる。結局、1つの技術ロードマップが主流になることは、市場と資本の支えなしには形成できない。

日系自動車企業の固体電池は2030年の量産を公言しているが、その過程には技術とコストの2つの関門がある。しかし現在、中国の半固体電池はすでに全面的な車両搭載の段階に入っており、国軒高科、F能科技、リチウム電池材料のサプライヤーである江西鋒リチウム業は2022年に半固体電池の車両搭載を実現すると発表している。2022年1月に、東風E70型で実測航続距離が400キロメートルを超え、江西省は10GWhの電池生産能力を達成する国内最大の固体電池生産基地の建設を計画している。蔚来自動車は2022年7月、2022年第4四半期に150kWh固体電池の納入を開始し、ET7が1000kmを突破できると発表した。

問題は固体電池の必要性がどの程度あるか

固体電池で、中日自動車は違った発展モデルを選択したが、漸進的、飛躍的を問わず、必要性という本質的な問題に直面する。

かつて業界では、電気自動車の航続距離が1000キロに達するには、固体電池の切り替えが必要とされていた。一方、寧徳時代の麒麟電池(液体電池)は1000キロまで達しており、大半のガソリン車(800キロ)を上回っているが、コストがより高く、よりリスクがあるプランを採用する必要があるだろうか。市場が受け入れるだろうか。

次に、充電時間が十分に短くなれば、長い航続距離もバッテリー問題で最優先に考えるべき要素ではなくなる。現在、テスラ、小鵬汽車、理想汽車はいずれも超急速充電技術の発展に力を入れており、800Vの高圧プラットフォームに4Cバッテリーを組み合わせ、10分間で80%充電できるようにすることを目標としている。これはもう1つの代替的な技術ルートであり、燃費の問題を解決するための相対的なコストを最小にする方法であることは明らかだ。

したがって、固体電池の技術では日本がリードしているが、水素自動車と同じように時間とコストに負けてしまうのではないだろうか。

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