『必読』ダイジェスト 編集者注:8月18日に、名創優品(日本の百円ショップに似ている中国のチェーンスーパー)の公式サイトでお詫びの声明を公表した。同社は「日本デザイナーによるブランド」と自称してきたことに謝罪した。来年(2023年)三月までエセ日本からの脱出を中心に方向転換する。
『日系企業リーダー必読』は2020年11月5日号に中国の「ニセ日本」風潮について記事を掲載したが、ここで全文を転載し、中国におけるこの独特のビジネス現象の理解に資することにしたい。
いつの頃からか、「偽日系(エセ日本)」ブランドが氾濫するようになっている。適当にコンビニエンスストアに入ってみると、棚の上の至る所で日本語が目に付き、まるで東京か大阪にいるかのような感覚を覚える。
いわゆる「偽日系」とは、日本の商品を真似て中国製品を販売する手法のことだ。
「偽日系」の初心者は、まず日本語のブランド名をつける。たとえば売れ行きがよいクッキーのパッケージに日本語のひらがなの「の」を使うことで、日本の商品であるかのような感覚を与え、さらに中国語の文字でこれがクッキーであることを知らしめる。実際には、その後に続く日本語が間違ったりしているものの、消費者がこうした「輸入商品」を気に入ってくれさえすればそれでよいというものだ。
中国で広くその名を知られているスキンケアブランドの「丸美」はその手法をうまく使ったものといえる。生粋の広州生まれの企業にもかかわらず、丸美は企業の外国語表記を「Marubi(マルビ)」という日本語読みにしている。そうしてさらに「春紀」、外国語名を日本語読みで「Haruki(ハルキ)」としたサブブランドも作り、うまく企業名と韻を踏んでもいる。
さらに、「布歌東京(Mvuke Tokyo)」というスィーツ店は、看板のMvuke という書体デザインがとても日本的であり、さらに東京の二文字がついているので、まるで銀座生まれの有名菓子店のように思われる。実は、これは上海の企業なのだ。確かにMvuke(ブーケ)という小さなプリン屋さんは日本にあるが、Mvuke Tokyoとは何の関係もないばかりか、「日本では誰もが知っている」とまで言うのは話にならない。
名前だけが「偽日系」であるのはまだまだ初級であり、高級なものとなると表面から中身まで、商標から商品の全シリーズに至るまですべて「日本化」されている。これを成功させるため、ブランドは創業当初から自らの日本とのつながりを強調し、商品においても絶えず日本的文化を際立たせるようにしている。
こうしたやり方で最も有名な企業には二つあって、一つは若者にネット上で抜群の人気を誇る「元気森林(GENKI FOREST)」と、廉価商品チェーン店の「名創優品(MINISO)」である。
元気森林は初期には炭酸飲料(=气泡水)のパッケージに中国語の「气」という字の代わりに日本語の「気」という字を使い、ボトルの背面には「日本国株式会社元気森林監制」という文字を入れ、可能な限り自社を「日本」偽装した。のちにメディアのやり玉に挙げられ、慌てて「気」の字を「气」に変更した。
「名創優品」も似たようなやり方だ。初期には自分は日本のデザイナーによるブランドであると宣伝していて、さらにユニクロのロゴや無印良品のデザインにとても酷似するなど、自社製品はホンモノの日本製品であると至る所で暗示していた。この会社は中国で飛躍的な発展を遂げ、今年10月15日にはニューヨーク商品取引所で上場している。
「名創優品」は「偽日系」のうちでも最も成功したものと言えよう。
「偽日系(エセ日本ブランド)」は「エセ欧米ブランド」の一種
「偽日系」は人々に既視感を与える。なぜなら、その背後にあるロジックは以前に流行したエセ欧米ブランドの同工異曲といえるからだ。
早くは1980年代、中国の消費者は身近に「国際的なブランド」が増えてきたなあと思い始めた。当時、「Meters/bonwe(美特斯邦威)」、「YOUNGOR(雅矛爾)」、「TEENMIX (天美意)」、「Marco polo(マルコポーロ・タイル、馬可波羅瓷磚)」、「Mark Fairwhale(馬克華菲)」など西洋風外国語ブランドが一世を風靡し、少なからぬ中国人が「自分は頭からつま先まで欧米モノで揃えている」と思い込んでいたのに、ちょっと調べてみると、これらのブランドはみな広東あるいは浙江省のメーカーのものであったりしたものだ。
当時、特に物議を醸したのは「華倫天奴(この名はVALENTINO、ヴァレンティノの中国名でもある)」だろう。80年代生まれの人たちにとって、幼い頃、家の近くにある「華倫天奴」が毎日「クリアランスセール」をしていて、値札では千元にも及ぶ服が100元とか200元で買え、それも4、5年間ずっとクリアランスしながら、倒産する様子もなく依然として街角に立ち続けていたこと、徹頭徹尾クリアランスしていた風景が記憶に新しいことだろう。
IC実験室の統計によると、当時、中国国内には「華倫天奴・世家(名家の意)」、「華倫天奴・傑尼亜(ジュニア)」、「華倫天奴・路易(ルイス)」、「華倫天奴GV」など200以上に及ぶ「華倫天奴(ヴァレンティノ)」が存在し、本物の世界的な高級ブランドであるValentino Garavaniが中国語名を使うことができないほどだったという。
エセ欧米ブランドの手法は、一般的に以下の4種類に分類することができる。
一番目は、国内企業が国内で商標登録をし、西洋名をつけ、製品のデザイン・開発・生産・販売をすべて国内で行うが、パッケージを外国ブランドのように見せるというもの。例えばスポーツウェアの「喬丹(Qiaodan、ジョーダン)」、ファッションブランドの「雅戈爾(YOUNGOR)」、化粧ブランドの「丸美(MARUBI)」などである。
二番目は、国外で名前だけのペーパー企業を設立し、商標登録をするが、製品の設計・開発・生産・販売はすべて国内で行うというもので、例えば化粧品ブランドの「絲宝(C-BONS)」、家庭用紡績ブランドの「夢特嬌(Montagut)」などである。
三番目は、国外で商標登録をし、技術や原材料を外国から輸入し、デザインの上で国外の同種の製品を模倣(ひいては外国人にデザインさせる)するが、製品は国内で販売するもので、ミルク製品ブランドの「施恩」などがその例だ。
四番目は国外で商標登録をし、現地企業に加工を委託し、国内企業が販売総代理店という形で中国市場に進出するもので、例えばミルク製品ブランドの「紐瑞滋(Nouriz)」粉ミルクや羅菜家紡のサブブランドである「尚瑪可(SAINTMARC)」などである。
これまで数十年間、「エセ欧米ブランド」現象が中国の大小業界、ファッション、アパレル、サニタリー・バス設備、家具、食品などあらゆる業界に蔓延していた。これは今でも多くのブランドにとって、市場を切り開くためのパスワードとなっている。
「偽日系」「エセ欧米」ブランドとはいったい何のためか?
米国で開かれたある国際博覧会の席上で、中国の武漢力興電源有限公司(以下「力興」と表記)の社長が遭遇した気まずい場面として、「注目を浴びたリチウム電池は明らかに自分たちの製品であるのに、そこにKTSという商標をつけていたために、その場で自分たちの物であると認めることができなかった」という記事が1997年8月の『中外企業家』誌で報道されている。
当時は、リチウム電池の大量生産を行うことができたのは世界で日本、ドイツおよび中国だけであった。力興は国内最大のリチウム電池の研究・生産企業であり、その製品は国際的にも遜色のないものだったが、生産していた力興電池は国内ではまったく知名度がなく、市場を切り開くために、力興は製品のパッケージにKTSという商標を入れ、外国企業によって国際市場で販売されていた。このため、力興は一つの「下請け工場」に成り下がってしまったのだ。
国産ブランドでは信用されなかったというのが、力興がこのようなまずい手を使った理由である。国内には、欧米ブランドを好む消費者がとても多かったためと言ってもよいかもしれない。
市場と経済の発展が停滞していたため、しばらくの間、中国の製品はたしかにずっと「コピー商品」「劣悪品質」という言葉と結び付けられてきた。逆に国際的なブランドおよび外国のブランドは高品質で、名声も地位も高く、より時代の最先端を行き、国際文化と軌を一にしていることの象徴となっていた。
うまく立ち回ろうとするブランドにしてみれば、ちょっとした偽装をするだけで、このように豊かな付加価値を得て、簡単に消費者の心を捉えられるのだから、それに越したことはないだろう。
どうして「エセ欧米」から「偽日系」に転換したのか
しかし、グローバル化が加速する中で、国際的に著名なブランドが次々と中国に流入し、かつての「エセ欧米」ブランドの盛況はしだいに「日本ブランド」へと傾倒していった。
英語が普及したことで、現在の中国の若者は海外ブランドについてよく知っており、情報も得やすくなっていて、簡単な綴りや語法の過ちを一目で見抜いてしまうため、「欧米ブランド」のパクリはどんどん難しくなっている。しかし、日本語は比較的マイナーな言語で、名称表記の誤りを発見できる人はとても少なく、さらには商品説明書のような専門用語がずらりと並ぶものでは、誤りを発見することはほぼ不可能だ。
この過程において、ホンダやトヨタといった日系乗用車メーカーやユニクロ、無印良品といったアパレル・家具メーカー、小林製薬といった医薬・健康ブランド、ひいてはTOTOなどのサニタリー・バスブランドの高い評判があることから、「偽日系」ブランドがしだいに「エセ欧米」ブランドに取って代り、一部の中国消費者にとって「高品質」と「見栄えの良い商品」の代表となったのである。
こうして「日系」を競って模倣する新たなブームが起きたのだ。
データからも「日系」ブランド品の魅力が実証されている。天猫(Tmall)と野村総研が共同で発表した『中国電子ビジネス業界日系商品観察レポート』では、国別に論じた場合、日本の商品は中国のネットショッピング利用者にとって、販売額にしても購入者数にしても、そのシェアは図抜けていて、さらに安定的に成長を続けているとされている。
しかし結局のところ、「偽日系」にしても「エセ欧米ブランド」にしても、これらはすべて中国の国産ブランドの自信のなさの現れである。これはブランド側の怠慢のみならず、消費者が体験からの失望によって選択した結果でもある。
(『日系企業リーダー必読』2020年11月5日記事からダイジェスト)