『必読』ダイジェスト 市場が半年ほど辛抱強く待った後、恒大の事件はようやく決着をみたようだ。12月3日、恒大集団は「現在の流動性の状況からみて、本集団に続けて債務責任を履行するだけの資金が充分にあるかどうか定かではない」という公告を出した。これは「外交辞令」のようなもので、はっきり言ってしまえば、恒大はデフォルトを開始するということだ。

これによる市場の恐慌は起こっておらず、それは恒大が遅かれ早かれデフォルトを始めることが広く予測されていたためで、市場が本当に注目しているのは、政府は恒大事件をいかに処理するのかということだった。恒大が前述の公告を発表したのと同じ日に、恒大集団の本部がある広東省政府はすぐさま公告を出し、「その夜にすぐに恒大の実質的支配者の許家印と会見する予定であり、さらに恒大の求めに応じ、業務チームを派遣し、企業リスク処理業務、内部コントロール・管理の適切な強化、正常運営の維持を督促することに同意した」と明らかにした。

これと同時に、30分以内(見間違いではなく、まさに30分であった)に、中国人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券管理監督委員会、住宅建設部などの多くの中央の「経済協力部門」もまた、基本的に一致した姿勢で角度が少し異なる公告を出し、「広東省が法律の要求と市場原則に基づき、合法的・合理的に恒大危機の処理を推進するのを支持する」ことを表明した。その後、新華社が文章を発表し、「恒大リスクは個別案件にすぎず、システマティックな危機に発展することはない」と強調した。

これは関係各方面が先に合意に達したうえで、上層部の許可を得た統一的行動であることは間違いない。これは、恒大事件の処理が政府の全面的主導ですでに始められていたことを意味する。実際には政府のこうした態度を市場もすでに予測していた。

これ以前に『財新網』が行った一連の報道では、中央から地方まで、行政システムの各部門・各レベルがいかに恒大の流動性危機に対応したかが述べられていて、とても印象深いものであった。それは、次の通り。

――2021年の年明けから、約2兆の負債で恒大集団が流行性危機に陥ったことが明らかにされ、9月に入ってからはそのリスクがますます際立ってきて、監督管理当局が恒大リスクの処理の統一的プランを発表する前に、多くの省・市政府部門は現地の恒大のプロジェクトの具体的状況に基づき、各自手配を行い、実際の運用を始めた。中でも中央の手配に基づき、恒大地産の登録地である広東省は恒大リスク処理をリードする責任を担った。広東省政法委員会(どうして発展改革委員会でなく政法委員会なのかは意味深長だ)は恒大に傘下の各地域のプロジェクトの具体的情報の提供を要求し、恒大の全国的な建設プロジェクトのリスト、ひいてはそのプロジェクトの建設労働者リストおよび連絡方法に至るまでの詳細までも要求した。さらには、恒大地産がすでに販売したがまだ引き渡していない、すでに引き渡したものの不動産証の手続きを終えていない購入者情報リストなども含まれていた。

――住宅と都市農村建設(住建)部は、各省級住建庁、各市級住建局に通知を出し、恒大の全国的な工事が停止、半ば停止しているプロジェクトの関連資料、特に恒大集団本部のこうしたプロジェクトの調達資金額とプロジェクト完成後に続けて必要とされる資金についての資料を集めるように要求している。

――これ以前に、恒大の「自己調査」では解決法を見い出すことはできなかった(これも恒大の自力復興の「気持ちはあるが力がない」境地を示している)ため、10月からは安徽省・貴州省は率先して管轄各地・市の恒大プロジェクトを洗い出すよう要求し、会計事務所から恒大の多くのプロジェクトに調査員を派遣して調査を進めた。その他の省・市もこれに続いた。

――「漏れ聞こえた」恒大のプロジェクトに対する地方政府の監査・調査プランによると、監査・調査の内容は、プロジェクト企業の登録資本金の投入明細や株主の資本金引き上げ状況があるかどうか、プロジェクトの土地譲渡金の支払い状況に未納金があるかどうか、プロジェクトが完成し引き渡した面積と完成したが引き渡しが済んでいない面積および工事完成の程度とこれから建設が予定されている面積などの基本情報、施工に関する明細目録・契約成立状況・実際の工事完成状況・未払いの工事代金の状況と明細など8つの方面にわたる(すべては挙げないことをお許し願いたい)。

――現地の恒大の資産が裁判所によって差し押さえられることを防ぐため、地方政府は恒大が建設中で未販売のプロジェクトあるいは関係する不動産資源を現地の地方国有資本プラットフォーム企業に統一的に報告し、地方の国有資産部門が恒大のこうした未販売資産を引き継ぐ、あるいは買い取ることを対外的に公言している。これは行政的手段により恒大のこれらの資産を「保全」し、政府の統一的処理を待つに等しく、裁判所で系統的に新たな問題が派生し、不必要な法律的紛糾が発生するのを防ぐためである。

――恒大の工事再開には大量の資金注入が必要だが、キャッシュ・フローのやりくりがつかず、それ自体が信用破産に直面しているため、施工業者はおしなべて自信を失っている。自分の力では、恒大は施工者との債務紛糾を解決できず、各地方政府部門が前面に出て取り持つしかない。そのため、10月以降の2カ月余り、貴陽の花渓区、湖北の荊門および十堰、四川の閬中、江西の贛州、浙江の寧波、重慶の江津区、江蘇の泰州、福建の泉州、湖南の長沙、四川の南充などの多くの地方政府部門は、次々と恒大のプロジェクト処理チームあるいは工事再開専門チームを成立させたが、その最も重要な仕事が、恒大と施行業者との実際の交渉に参加し、施工業者に工事再開を促すというものだ。

――各地方政府が恒大問題を処理するための主要な構想とは、「民生と安定と不動産引き渡しを保つ」というもので、施工側と交渉し、施工業者に前期に未納の工事費用やすでに発行された手形を棚上げにし、まず先に工事を再開することを求めている。工事再開後に発生した工事に伴う費用は、現地の恒大プロジェクト資金委託管理専門口座から資金支給を行う。プロジェクトが完成したら、再度最終的な施工の総決算を行う。

……

こうした内容を手間暇かけて羅列したのは、一企業の流動性危機を解決するために、これほどまでに大きな力を注ぎ、事細かに手配(明らかに統一的に手配されたものだ)を行う政府・部門は世界中どこの国にもなく、読めば驚嘆せざるを得ないということを示そうと思ったからだ。

中国の体制は「力を集中して大事にあたる」ことで有名だが、ある種の意味で、政府の前述の措置にも「力を集中して大事にあたる」を見ることができる。いわゆる大事とは、冬季オリンピックのような一大イベントもあれば、恒大危機の処理のような厄介事もある。

ここから、世界各国が長らく討議してきた問題――どうして過去数十年の間、中国では西洋のような金融危機が起きなかったか――についてざっと述べることができる。それは中国の経済・金融に天然の「危機免疫力」があったからではなく、その極めて主だった理由として、中国の政府が強大な資金調達力をもっているからであり、一部に危機が芽生えるたびに、いつも各種の手段・方法を用いて危機を初期段階で鎮火し、「安定」を確保してきたからだ。これは他の国の政府では考えられないし、なすすべもない。まさに『財新網』の報道にあったように、「複雑な事件を目前にして、中国政府の各部門は協調・一致し、極めて効果の高い方法をとったが、これはすでに中国がこの種の危機を処理するためのモデルとなっていて、これまでに、華信・明天・海航・方正・紫光などの大型の問題企業集団の再編のなかでしだいに練り上げられてきたものだ」。そして今回の恒大危機の処理は、この最新事例の一つに過ぎない。

つまるところ、現在の状況を見る限り、政府の全面的な主導のもとで、今回の恒大危機は解消される可能性が高く、蔓延するまでには至らないだろう。これは或いは中国の「体制の優勢」の成功を改めて見せるものなのかもしれない。しかし、「力を集中して大事に当たる」の威力と効率が深い印象を与えると同時に、おのずと疑問が沸き起こる。それは、「一つの大事に対し、力を集中して当たるなら、もし二つ、三つと大事が重なったらどうするのか?」というものだ。しょせん政府は神ではなく、使える人材にも財産にも資源も限りがある。現在、恒大集団と似たような資金危機に直面する不動産企業は少なくない。もしいくつもの企業の危機が同時に発生し、恒大二号、恒大三号が出現したら……。「力を集中して大事に当たる」という手で、それでも対応できるのだろうか。

(『日系企業リーダー必読』2021年12月20日記事からダイジェスト)

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