研究院オリジナル 様々な方面から見て、日本のトップ飲料メーカーであるサントリーの中国市場におけるパフォーマンスは同社の実力に見合っていない。

2021年のサントリーの売上高は2兆2856億7600万円(約1145億元に相当)に達し、その額は中国最大の飲料メーカーである娃哈哈(515億元)の2倍であり、農夫山泉(296億9600万元)の4倍だが、サントリーの中国市場における2020年の売上高はわずか20億元だった。その一方で、中国の「農夫山泉」は同年、ボトルウォーターだけで売上額が140億元に達した。

サントリーは中国市場に参入するのが遅れたのか?もちろんそうではない。実のところ、同社はすでに30年以上にわたって中国市場を開拓している。中国は早くも2015年に世界最大の飲料市場になっており、産業規模は今では兆を超えている。

サントリーの長年にわたる中国市場での歩みを振り返ると、同社は見る目も実力もあるが、保守的な経営方式が同社の発展を妨げる主要な原因となっていることが分かる。

ビール

サントリーは歴史ある酒類メーカーであり、日本ではワインとウィスキーの王者だ。後にビール市場に参入し、日本四大ビールメーカーの一つになった。1980年初め、サントリーは鋭い先見性を示し、中国の改革開放がまだ始まったばかりの頃に、大衆飲料であるビールは中国という巨大な市場でチャンスになると睨んだ。1984年、同社は中信集団と共同で江蘇省連雲港に初の中国と外国資本の合弁によるビール工場を設立した。1996年、上海にビール、飲料事業部門を立ち上げ、同社のビールは1999年から長きにわたって上海ビール業界で売り上げナンバーワンに輝いた。そして、2000年から4年連続で上海市場の売れ筋ブランドと評価され、2001年から3年連続で上海市のブランド商品に認定された。

しかし、サントリーは上海や華東の市場での成功にすっかり満足して現状に甘んじるようになり、さらに全国市場に展開しようとしなかった。それと同時期に、中国のビール市場は全面的に活気づき、ビール工場が全国に設けられ、ほぼ各県にビール工場があると言えるほどの状態になり、2002年に、ビール生産量において中国は世界のトップに立った。ちょうどこの時に、中国市場において中国および海外ビールメーカー大手の間でビール事業の合併の嵐が吹き、最終的に中国市場は華潤、青島、燕京、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、カールスバーグの5強がシェアを分け合っている。2020年にこれら五大グループがビール市場を占める割合は92%に達し、ビール業界の勢力構造は寡占状態に入っており、他のビールメーカーが入り込む余地がすでになくなっている。

2013年、サントリーは市場から徐々に締め出されつつあるという苦境の下で、青島啤酒と提携せざるを得なくなり、合弁会社を設けたが、すでに手遅れだった。2015年、サントリーは合弁会社の株式をすべて青島啤酒に売却し、中国市場から完全に撤退した。

サントリーは先行の優位性を占めていたにもかかわらず、最終的に敗退した。明らかに、同社は中国市場と日本市場の大きな違いを十分に理解していなかった。中国市場の規模と発展の速度は前代未聞であり、このような市場ではニーズに合わない勢力をいともたやすく流し去る巨大な波がしばしば発生するため、小さな地方で甘んじようとするどんな保守的な考え方も致命的なミスにつながる。

茶飲料

麦酒と同様に、中国のソフトドリンク市場で、サントリーは同様に先見の明を示した。サントリーのウーロン茶は日本でもよく知られている。1985年から1995年までの10年間、日本の茶飲料は複合年平均増加率が49%に達し、その中でもウーロン茶が茶飲料販売の主力だった。中国に日本と同様、お茶を飲む習慣があることは、中国における茶飲料の市場規模の将来性に巨大な潜在力があることを示している。

サントリーの目に誤りはなかった。中国のソフトドリンク市場の発展は何度も波を経験した。最初の波は80年代の炭酸飲料で、二つ目の波は90年代のボトルウォーター、三つ目の波は2000年以降の茶飲料。2022年時点で、中国の茶飲料市場は5449億元の市場規模にまで成長している。特に近年は消費のアップグレードが進むにつれて、中国でも「シュガーレス」の風潮が高まっており、2021年にはタオバオ系Eコマースサイトで飲料販売量のベストテンにランクインした商品のうち、7つの商品のキーワードは「低糖/無糖」で、健康志向の無糖茶飲料が爆売れしている。

1997年に、サントリーはウーロン茶で中国市場に参入したが、パフォーマンスはいま一つだった。ビールと同様、サントリーは華東の市場を除くと、二・三級以下の都市では販売チャネルがないばかりか、ブランド自体も知られておらず、同社が自前で全国に販売チャネルを作り上げるために、大きな投資を行うなら、それは中国市場がサントリーの戦略的重要地点に格上げされたことを意味するが、サントリーにそのような考えはない。販売チャネルの問題を解決するために、サントリーは2014年に匯源果汁と提携して合弁会社を設立し、匯源果汁の販売チャネルを利用してサントリーの販路を拡大しようとしたが、これは良い選択ではなかった。なぜなら匯源果汁は販売チャネルに強みを持っていないからだ。提携後、双方は紛争を繰り返し、今年8月にサントリー(中国)投資有限公司は合弁会社の破産を申請し、同社を清算した。

サントリーと対比できる企業は中国の農夫山泉だ。2011年、同社は無糖茶飲料の「東方樹葉」を発売し、今では同商品が長年にわたってずっと無糖茶部門で50%以上の市場シェアを占めている。別に東方樹葉がサントリーのウーロン茶よりもおいしいわけではない。しかし、農夫山泉が有する全国にまたがる販売チャネルゆえに、サントリーはその足元にも及ばない。

サントリーの保守主義はさらに別の方面でも見られる。若年層は飲料市場の主力であり、品揃えと味の多元化は若年層の消費者を獲得する必要条件だ。サントリーの商品は品揃えが非常に豊富だが、同社が中国に投入している商品は少ない。これとは対照的に、農夫山泉は2016年に90年代、2000年代生まれの若年消費者層をターゲットに茶πを発売した。東方樹葉の製茶技術と果汁の組み合わせを組み合わせて様々な味を提供し、瞬く間に2016年度の売上ナンバーワン飲料の一つになり、2016年8月までに、茶πの売上高は10億元を突破した。Chnbrandが発表した2022年茶飲料満足度ランキングで、1位に輝いたのは茶πだ。2021年、農夫山泉は東方樹葉や茶πなどを含む茶飲料業務で売上高45億7900万元を記録し、前年比48.3%増だった。

農夫山泉のやり方を見て、サントリーは2020年に傘下の全てのウーロン茶のボトルタイプや味を改良したのかもしれない。2021年に同社はジャスミンウーロン茶を発売した。2021年7月、同社は中国の新鋭ブランドであるCHALIと戦略的提携を結び、連名で夏限定のギフトセットを発売し、サントリーは「若年化戦略」を重視しつつある。

2019年、日本の茶飲料全体の70%は無糖飲料だったが、中国では同年、無糖茶の割合はわずか5.2%に過ぎず、1990年頃に日本で無糖茶ブームが始まった頃に状況が似ている。つまり、中国は開拓可能な市場の余地が非常に大きいが、このような素晴らしい市場というケーキが目の前にありながらも、中国国内の才気煥発な競争相手と比べると、サントリーは依然として保守的で受け身だ。サントリーがソフトドリンク市場でビールの二の舞になるとは限らないとはいえ、同社が徹底的な変化を遂げないならば、この市場の恩恵を十分に受けられるのかどうか、いささか疑問だ。

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