研究院オリジナル 少し前に報道されたニュースは中国で注目を浴びた。8月3日、武漢健民集団は公告を出し、完全所有子会社の葉開泰国薬(随州)有限公司と平安津村公司が共同で新会社の「津村健民製薬有限公司」を設立することを発表し、平安津村の持ち株比率は51%だという。平安津村は中国平安人寿とツムラの共同出資による合弁企業であり、ツムラが全株式の56%を所有しているため、津村健民は事実上、ツムラが主導権を握っている。

「葉開泰」は元々1637年に創業した中国の老舗ブランドで、主な製品は健胃剤や肺機能を改善する小児用の咳止めなどの漢方製剤だ。協力意向書に従って、葉開泰国薬は自社が所有する一部の漢方製剤の内服薬商品の承認文書番号および対応する知的財産権を合弁会社に移行する。このニュースは、業界をあまり理解していない中国人たちの間で議論を引き起こした。これらの人々は、中国の小児用漢方製薬の配合方法が日本企業に掌握されてしまうのではないかと考えたのだ。

実のところ、このような心配は全くの杞憂だ。日本の医薬品開発は常に中国のずっと先を行っている。一般疾病の医薬品でさえ、中国にはないものがある。同類の製品があるとしても、口当たりや使い心地、手軽さ、さらにはパッケージのデザインなど多くの細かな点においても中国製品と日本製品の差は歴然だ。それゆえ、家電製品や化粧品以外に、日本の医薬品も中国人観光客は日本で必ず購入する。「日本に行ったら買わざるを得ない定番の薬」といったキャッチがネット上でブレイクした。

その中でも特に人気があるのは漢方薬だ。漢方薬の起源は中国にあるとはいえ、今の日本における漢方薬の開発水準は中国よりもずっと進んでおり、日本のスーパーや薬局で、中国人観光客に最も売れているのは日本の漢方薬だという。漢方薬のグローバル化において、主に貢献したのも日本だ。中国以外の世界中の漢方薬市場で、日本が占めるシェアは80%以上に達しているが、中国はわずか2%だ。日本は世界の生薬や植物薬の特許申請において、70%以上の特許が登録されている。

しかし、その一方で、中国は世界最大の漢方薬消費市場であり、中国人の漢方薬に対する信頼の深さは日本人以上だ。ツムラは日本最大の漢方薬会社であり、日本の全149の漢方薬処方のうち、同社は128を手にしている。しかし、日本では漢方薬の市場が小さく、ツムラは日本の漢方薬市場で80%のシェアを獲得しているが、2021年の同社の年間収入はわずか70億元(約1400億円)に過ぎない。ちなみに武田薬品の年間収入は3兆2000億円規模だ。それゆえ、ツムラは中国こそ主戦場と考えている。さらに、中国はツムラの主要な原材料基地だ。

ツムラの漢方薬はどのように中国市場を開拓したのか?

2001年、ツムラは中国に進出して、上海津村製薬有限公司を設立したが、その後現在に至るまで同社は中国に合弁会社を4社設立した。津村製薬が中国市場に参入した後、経営管理と技術水準の面で優位性を発揮した。

まずは漢方薬の材料基地の面で、ツムラは中国に70カ所以上のGAP薬材栽培基地を設けており、中国の漢方薬材栽培業界トップの白雲山と二位の同仁堂の総和を上回っている。2020年3月、平安津村は186億円(当時の為替レートでは約12億元)で天津盛実百草薬公司の80%の株式を買い付けた。盛実百草は質の高い漢方薬材の規範化された栽培とせんじ薬用の漢方薬の生産経営に重点を置く業界の大手企業だ。ツムラはさらに薬材の遡及システムを確立しており、薬材ごとに産地まで辿ることができ、これほどまでの厳格な品質管理をしている漢方薬会社は中国でも非常に少ない。

ツムラは西洋医薬学との結合にも力を入れており、大量の人的および物的資源を投じて、薬理や毒性学、剤型成分分析の標準化および規範化などの方面で研究を展開している。

ツムラの中国戦略において重要な要素は、中国の保険業界大手の中国平安との密接な協力だ。生命保険は医療ヘルスケア業務と関連しているため、中国の大手保険集団はみなこの分野で地盤を拡大している。他の保険集団が介護に重点を置いているのとは異なり、中国平安はインターネット医療プラットフォーム「平安好医生」を統合したリソースの助けを得て、国外の先進技術を持つ医薬品大手と協力して中国の医薬品市場を開拓している。2020年末時点で、平安好医生の登録ユーザー数は3億7300万人に達しており、これは中国市場に参入したい大手の外資医薬品会社にとって、手取り早い手段だ。

2017年9月、中国平安とツムラは提携することになり、中国平安は16億元でツムラの株式の10%を取得し、同社の筆頭株主になった。これは日本の漢方薬ヘルスケア分野における最大規模の中国企業による投資であり、あるメディアは、この提携は最先端の漢方薬技術と世界最大の医療ヘルスケア市場の結合だと評価した。2018年6月、中国の平安集団とツムラは共同で平安津村有限公司を設立し、共に力を合わせて中国の漢方薬市場を開拓している。

中国で地盤の強化を図る日本の医薬品会社

膨大な人口基数と急速な高齢化のために、中国の医薬品市場の見通しは非常に明るい。ツムラのような漢方薬会社だけでなく、他の日本の製薬会社もこの点に注目している。先進技術という優位性で速やかに巨大な潜在性を持つ中国市場を切り開くことは、又とない発展のチャンスだ。

現時点で、日本の主な医薬品会社はみな中国市場での地盤を広げようとしており、その勢いは激しさを増すばかりだ。

2020年4月、シオノギ製薬も中国平安と提携し、中国平安人寿保険公司はシオノギ製薬の株式を取得し、第七位の株主となった。2021年7月、シオノギと中国平安は共同で平安塩野義有限公司を上海で正式に開業した。

日本医薬品最大手の武田薬品は1994年に中国市場に正式に参入し、その後相次いで天津武田薬品有限公司、武田(中国)投資有限公司、武田亜州開発センター、武田中国物流センターなどを設け、今では中国の希少疾患分野のトップランナーとなっている。2022年5月、同社は新年度の組織図を発表し、中国市場を日本、米国に続く三番目に大きな独立国家市場に格上げした。武田中国の単国洪総裁は、「2031年度までに、中国は武田にとって世界で二番目に大きな市場になる」という考えを示した。

日本で第二位の大塚製薬株式会社は、早くも1981年に中国医薬集団と共同で中国大塚製薬有限公司を設立しており、同社は中国初の中国と外資による合弁製薬企業だ。2019年、中国大塚に「新中国成立70周年医薬産業特別貢献企業」の称号が贈られた。

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