研究院オリジナル 大半の人々は新エネルギー自動車が自動車業界における未来のトレンドと考えているが、昔ながらの主要自動車製造国であるドイツと日本はこれまでずっと新エネルギー自動車に反対の意を示してきた。特にトヨタ自動車の反応は過激かつ強烈で、同社トップの豊田章男氏は何度も新エネルギー自動車を公に批判してきたが、最近、同社でチーフサイエンティストを務めるギル・プラット(Gill Pratt)氏が再び新エネルギー自動車を痛烈に批判し、「世界がまだ準備不足の状態にある」と言明したが、同氏の発言は人々からの失笑を買った。なぜなら、世界が準備不足なのではなく、トヨタがまだ準備できていないだけだからだ。
きっとそれが事実なのだろう。従来の自動車製造における三大核心技術はエンジン、シャーシ、トランスミッションであり、ドイツと日本の自動車メーカーがこれらの分野でしっかりと先進的な優位性を保っているが、現在の新エネルギー自動車の三大核心技術はリチウム動力電池、モーター、電気制御であり、ドイツと日本の企業はすでに中国や米国、韓国に後れをとっている。
これらの中で最も重要なのは自動車のリチウム動力電池だが、現状としてリチウム動力電池は新エネルギー自動車のコスト全体の約60%を占めており、電池の充電時間や走行距離、安全性は消費者が同車の購入を決定する上での三大要素となっている。
日本が放棄したリチウム電池の「王位」
今年第1四半期、世界の車両に搭載されたリチウム動力電池の容量は95.1GWhで、中国の電池メーカー6社が世界の上位10社にランクインしたが、その中でも寧徳時代(CATL)のシェアは35%に達し、5年連続で世界のトップに立った。BYDの世界市場シェアは11%以上で、中創新航は4.4%、国軒高科は2.7%、蜂巣能源は1.3%、億緯鋰能は1.2%で、合計すると中国の動力電池メーカーは世界シェアの55.7%を占めた。韓国のSK OnとサムスンSDIは合計でシェアの26.3%を占めたが、日本最大の電池メーカーであるパナソニックのシェアは9.9%に下落し、日本のメーカーが世界の動力電池市場に占めるシェアは20%未満にまで下がった。
驚嘆すべきことに、日本こそまさにリチウム電池発祥の地なのだ。科学者の吉野彰氏は「リチウム電池の生みの親」であり、吉野氏は同電池の発明によりノーベル化学賞を受賞している。1991年、ソニーが率先して世界初のリチウムイオン電池を普及させ、ソニーの後を東芝やパナソニックが続き、日本は世界最大のリチウム電池生産国となった。富士キメラ総研が2006年に公表した調査報告によると、日本はリチウムイオン電池における4つの主要構成材料のうち、正極材料や電解液、セパレータの市場シェアがそれぞれ77%に達しており、負極材料はそれらをさらに上回り、96%とシェアを独占していた。日亜化学、日立化成、宇部興産、旭化成などの企業もサプライチェーン全体の配置をほぼ完成させていた。
しかし、その後の展開は誰にとっても意外なものだった。日本政府と企業はリチウム電池を放棄することを決定し、水素燃料電池の開発にシフトしたのだ。これにより、中国企業には絶好のチャンスが舞い込んだ。中国のBYDは2000年にリチウム電池を自社開発し、2011年に寧徳時代が設立された。その後、2017年にリチウム電池における4つの主要構成材料の市場シェアランキングで、中国企業が全ての材料で独走した。
中国のリチウム電池がこれほどまでに急速な発展を遂げた根本的な要因は、中国政府が企業と協力して発展を推進したことにある。中国の政府も企業も新エネルギー自動車が自動車産業の未来であるのと同時に、中国の自動車産業が欧米日を追い越すまたとないチャンスであり、動力電池で影響力を握る者が、新エネルギー自動車の未来を握ると見ていた。
つまり、長期的にエネルギー不足の制約を受けていた日本では、企業が中国企業よりもずっと早い段階で新エネルギー自動車に注目していたが、問題は日本がその後に選択した水素エネルギー路線にあり、水素燃料電池はずっと商品化への応用におけるボトルネックを解消できておらず、もたついている間に日本企業は新エネルギー自動車産業における大きな波の中で取り残されてしまった。2021年、日産は燃料電池自動車の開発計画を一時休止し、ホンダもClarity Fuel Cell水素エネルギー自動車の生産停止を発表した。現時点で開発を続行しているのはトヨタだけだ。
思考を誤らせた可能性がある「島国の危機思考」
問題の根本から見ると、日本企業がリチウム電池を捨てて、水素エネルギーに乗り換えたことは、深く染みついた「島国の危機(リスクヘッジ)」的思考が密接に関係している。
日本は国土が狭く、資源も乏しいため、工業用の主なエネルギーや原材料の大多数を輸入に頼っており、日本は水素エネルギーを発展のための国策としてきた。なぜなら水素エネルギーは核や太陽光などの新しいエネルギーによって転化することができ、そうすれば石炭や石油、天然ガスなどに伴う海外への高い依存度という不安感から脱却することができるからだ。同様に、日本企業も日本ではリチウム電池の原材料が不足しており、今後の発展が制約されるため、水素エネルギーの道こそ安全な策だと判断した。
実のところ、中国でもリチウムは不足している。中国におけるリチウムの埋蔵量は世界全体の6%であり、2021年における中国のリチウム原料の自給率はわずか14~15%だ。しかし、中国企業は日本のような不安感を抱いていない。
両国のリチウム電池の優劣における比較
現在、新エネルギー自動車の発展傾向を見て、日本企業は再びリチウム電池産業を盛り上げようと試みている。日本のリチウム電池産業をリードするパナソニックは最近、米国に40億ドルを投じて電池工場を設立し、さらに7億ドルを投じて電池工場を設けて、テスラ向けに次世代の先進的な4680電池を生産することを発表した。しかし、同社が中国企業の手から王座を奪還するのは容易ではない。
その理由として、まず電池は新エネルギー自動車産業の付属部品として、新エネルギー自動車産業の発展を左右するものであり、中国は世界最大かつ世界で最も動きが速い新エネルギー自動車市場で、中国の巨大な市場ニーズが電池メーカーの急速な発展をけん引しているが、パナソニックはテスラを除くと、協力パートナーがごくわずかだからだ。
技術の方面では、中国企業も業界内のトレンドをリードしており、2021年に中国で申請された動力リチウム電池の特許は世界全体の90%を占めている。そして、日本企業がただ技術に偏重しているのとは異なり、中国企業はコストや技術、安全面など多くの要素の間で最も優れたバランスを保っている。例えば、BYDが開発したリン酸鉄リチウム電池「ブレードバッテリー(刀片電池)」は、安全性、航続距離と経済性を兼ね備えている。6月23日に寧徳時代が発表した麒麟電池は、車両の航続距離が1000キロに達し、10分間で80%まで充電することができ、パナソニックの最も先進的な4680電池よりも電気量が13%も多いという。昨年、同社は第一世代のナトリウムイオン電池を発表しているが、これも電池の生産コストを大幅に引き下げ、リチウム資源の不足という制約を解消している。
このほかに、日本の電池メーカーは今や、中国がすでに形成している整備された電池の産業チェーンに頼らざるを得ない状況に立たされている。例えば、パナソニックのサプライチェーンにおける材料サプライヤーの大半が中国企業であり、その中でも、貝特瑞や芳源股份はまさにパナソニック製4680電池の材料サプライヤーであり、特に芳源股份はパナソニックの主要サプライヤーの一つで、パナソニックにとって最も重要な取引先だ。
今後を決定づける可能性があるリチウムの基準
中国の競争に対処するために、最近、日本国内の電池関連企業約100社で構成される「電池サプライヤー協議会」は、今年9月に開催されるリチウム基準の国際会議において、「自国に有利なリチウム基準を中国に提起させず」、日本の案を提出する意向を示し、中国をけん制している。
現在、日本企業はコバルトなどのレアメタルを大量に使用しており、安全性のより高い正極材料の分野で優位性を示しているのに対し、中国企業はコバルトを使用していないが、低コストの正極材料の分野で優位に立っている。中国企業に有利な正極材料の基準が認可されるならば、日本企業は材料を使用する上で調整が求められ、今後は相応の市場シェアの拡大が難しくなる可能性がある。しかし、リチウム基準の国際会議委員会の幹事を中国が務める以上、中国が基準の制定において主導権を握っている。