研究院オリジナル 楽購仕(ラオックス)日本企業のなかで「中国通」と言える企業の一つで、「日中ハーフ」企業とも言える。

7、8年前に中国のおばさんが日本で便座や炊飯器を我先にと買った定番のエピソードは、今もたびたび話題にのぼる。だが、あまり知られていないことだが、中国のおばさんを対象にしたビジネスをしている日本企業のなかで最も大きい企業は楽購仕であり、当時すでに中国企業の持株会社であった。

中国を理解する日本企業

楽購仕は1930年に創立された老舗の日本の家電量販店で、2001年時点で、日本の電気量販店のトップだった。ピーク時の店舗数は149店に達し、年間売上高は元に換算すると100億元だった。だが、日本の電気小売業の競争がますます激しくなるにつれて、楽購仕は徐々に衰退し、2009年の店舗数は6店舗に縮小し、年間売上高は5億元にまで減少した。

「虫の息」の状態だった楽購仕は、2009年6月に中国の家電小売大手の蘇寧に買収された。蘇寧は中国の国情の理解に基づき、中国の消費者が国際市場に参入し始めたトレンドに最も早くから気づいた。それはつまり、「中国のおばさんたちが日本に買い物に行きたいのなら、われわれは日本で店を開いて彼女らに物を売ればよい。このためにとりうる最も便利な方法は、直接日本の家電量販店を買収することだ」ということだ。

蘇寧は楽購仕を買収後すぐに事業再編を行い、家電量販店から免税店チェーンへと業態転換し、楽購仕は日本初の外国人観光客を対象とした免税店となった。

案の定、2010年以降、中国では日本での買い物ブームが起こり、その恩恵を受けて、2015年には、楽購仕は日本最大の免税店チェーンとなった。楽購仕の消費者の70%は中国人で、中国人観光客が1人当たり7万円(当時のレートで約4675元)を消費したという「神話」も生まれた。また、日本では中国人観光客が楽購仕銀座本店で熱狂的に買い物するシーンから「爆買い」という造語が誕生し、2015年の日本で最も流行した言葉となった。

2015年の楽購仕の売上高は前年比84.6%増の926億円で、営業利益は同約4.9倍の85億円といずれも過去最高を記録し、楽購仕の株価は蘇寧が買収した当時の30倍になった。

日本を理解する中国企業

楽購仕の成功は、日本のほぼすべての小売企業が免税店ビジネスを展開したことによる。同業他社との競争がますます激化するなかで、楽購仕は免税店ビジネスだけでは将来が明るくないことに気づいた。中国企業の持ち株会社である楽購仕が日本から中国に目を向けるのは自然なことだ。日本市場が「湖」ならば、中国市場は「海」であり、大きく成長するには中国市場に参入する必要がある。

同社は、「中国では消費の高度化が加速しており、日本で流行しているものが将来的には中国でも流行するに違いない。同社は親会社の蘇寧集団の大きなプラットフォームを活用して、中国における日本商品の全方位サプライヤーとなり、取り扱う商品は免税品だけでなく、全品目をカバーする」との見方を示した。

2010年5月、楽購仕が設立した楽購思(上海)商貿有限公司は、2011年11月に南京楽購仕生活広場銀河1号店をオープンさせた。中国市場では、日本のサプライチェーンを統合し、日本の商品を導入することが主な事業方向だ。中国楽購仕は日本楽購仕の6万種類以上の商品の中から中国市場に適した「超人気商品」を見つけ、蘇寧国際や天猫国際(Tmall Global)などの電子商取引プラットフォームで販売した。2016年、中国楽購仕の事業で日本商品が占める割合はすでに中国市場規模の2〜3%に達した。

同社中国ブロックの傅禄永総裁は、「楽購仕は年間売上高が100億円前後の多くの日本の中規模企業と提携している。これらの企業は中国に進出したいと考えているが、独自に中国市場を渡り歩くルートを持っていない。楽購仕はこれらの企業に良いプラットフォームを提供している」と述べた。楽購仕はすでに1000社を超える日本の中小企業と手を携えて中国市場に進出している。

コロナ禍の中で自社が救われた

今から見れば、楽購仕の中国市場への転向は非常に賢明な戦略的決定であり、自社を大きく成長させただけでなく、重要な時に同社を救った。

2020年は新型コロナウイルスの感染が世界に拡大し、日本は海外からの観光客が激減し、小売業が大打撃を受けた。楽購仕も例外ではなかった。オフライン店舗の1カ月当たりの入店者数は、コロナ禍前は約30万人だったが、コロナ禍発生後は1000人を超えず、現在に至るまで3期連続で純損失を計上している。2020年度の純利益は166億円の赤字となり、2009年に免税店をオープンして以来最悪の数字となった。楽購仕は2020年12月、新型コロナウイルス肺炎の流行を受け、国内店舗の半分を閉鎖すると発表した。楽購仕は2021年8月、東京や近畿などの7店舗を閉鎖し、日本での店舗数を24店舗から6店舗に減らすと再度発表した。

だが、コロナ禍発生後、楽購仕は中国では上昇傾向にある。済南章錦総合保税区の楽購仕中国区越境ECセンター倉責任者の馬強氏によると、2022年上半期はコロナ禍の影響を受けたものの、全体の注文件数は前年同期比21%増に達した。

日本での閉店とは対照的に、楽購仕は中国市場での展開を強化している。楽購仕は2021年1月、山東省済南市総合保税区管理委員会と契約し、楽購仕中国区越境ECセンターを設立し、中国北部市場にあまねく配置した。同社はまた、済南市にクロスボーダー商品と一般貿易商品の展示・取引センターを建設し、日本酒博物館、アニメ館、着物館、小型家電館、マスク館など日本の属性が強い10大IPパビリオンを設立し、中国北部市場で最も品ぞろえがよく、価格がリーズナブルで、面積が最大の日本商品展示・取引文化体験センターを建設する計画だ。

中国南部市場では2021年12月、海南楽購仕サプライチェーン管理有限公司による楽購仕日本製品セレクトショップ「LAOX SELECT」が海南島三亜海旅免税城にオープンした。

楽購仕は日本製品を中国に導入すると同時に、中国製品やサービスの逆輸出も始めた。楽購仕は大阪を中心とする商圏に新コンセプトの旗艦店を立ち上げ、中国の「インフルエンサー」となっている茶飲料ブランドを紹介し、日本の若者の人気を集めている。楽購仕は今後、日本の大阪に海外倉庫を設立し、多機能の物流サービスを提供し、他の中国企業の「世界での販売」を支援する計画だ。

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