研究院オリジナル 2021年の広汽三菱の年間販売台数は66006台で、前年比19.7%減であり、日本車の合弁企業としては中国市場での販売台数が最少だった。2022年6月、広汽三菱の販売台数はわずか1806台で、前年比で62.4%も下落した。このままでは、三菱が中国市場で完全に敗退する日も遠くない。
1990年代、三菱の自動車エンジンは中国の自国ブランドの「救世主」となり、吉利、奇瑞、長城などは、ほぼ三菱のエンジンを使用していた。三菱自動車はかつて中国国内自動車市場における日本車の販売台数でトップに君臨し、2003年に中国での三菱自動車の販売台数は15万台に達した。
かつての「神車」はなぜここまで没落したのか?
商品の極端な単一化は明らかな失策
問題はまず、三菱自動車がとっている単一商品の戦略にある。2010年以降、中国市場では「SUVブーム」が巻き起こり、これにより同社は大きな追い風を受け、ピーク時の年間販売台数は10万台を突破した。2015年、三菱自動車は中国市場にセダンの投入をやめるという決定をし、SUVだけで勝負をかけることにした。しかし、中国の自動車市場の発展は急速で、競争も熾烈であるため、自動車メーカーにとって商品カバー率の不足は致命的な弱点であり、同時に、SUV市場が「レッドオーシャン」に変化するにつれて、SUV一本で戦っている広汽三菱が困難に陥るのは必至だ。
現在、広汽三菱はアウトランダー、ASX、エクリプスクロスという3つの燃料油式車種を販売しているが、より残念なことは、これらの限られた商品のモデルチェンジが非常に遅いことだ。2021年、アウトランダーは広汽三菱の総売上の84.8%を占めているが、想像し難いことに、この主力車種は10年たってもモデルチェンジが行われていない。実のところ、日本国内市場と米国市場ではフルモデルチェンジがなされたアウトランダーがリリースされて1年以上も経過しており、しかもPHEVプラグインハイブリッド技術が搭載されている。三菱は10年前の設計で、10年前のハイブリッド方式で、中国という世界最大かつ発展が最も急速な自動車市場で戦おうとしているが、三菱がしていることは中国市場を重視していない時点で、すでに誤っており、その姿勢には傲慢さや偏見さえ見られると言っても過言ではないと批判する中国の消費者もいる。
別の方面で、エンジンの従来技術における優位性も三菱は失いつつある。三菱のかつての4G1、4G6シリーズのエンジンは、信頼性や安定性のいずれにおいても業界で認められていたが、三菱は開発を続けなかったため、エンジン技術の面ですでに後れをとっており、今では「過去の栄光で食い繋いでいる」に過ぎない。2016年に、三菱のエンジンに燃費改ざんの不祥事が発生し、市場での名声を大きく損なった。今では、中国の自動車メーカーが自社開発したエンジンも成熟の方向に向かっており、多くのメーカーがもはや三菱に依存していない。
以上に挙げた点は状況に過ぎない。その状況をもたらした原因は、本社の経営体制から見いだせる可能性がある。2016年に三菱グループは三菱自動車の株式の34%を日産自動車に売却して、日産が筆頭株主となり、2017年に正式にルノー、日産、三菱の連合が設立された。しかし、この連合は不安定で、内輪もめが相次ぎ、三菱自動車は期待したようなサポートが受けられなかった。三菱自動車の財務状況がますます悪化し、継続的な業務の縮小に迫られ、自動車史上で伝説的な存在だった「パジェロ(山猫)」も生産終了となった。
今後の見通しにおける楽観的要素と悲観的要素
2020年、三菱自動車は中期的3年計画を発表し、新たな「Small but Beautiful」のビジネス戦略を掲げ、コストの20%を削減することや欧州でのニューモデルのリリースを無期限停止し、最も競争力のあるアセアン地区と最新の電動自動車技術により重きを置くことを発表した。2021年4月、三菱自動車は東南汽車の持ち分25%の株式を手放したが、そのことは同社が行う戦略的な縮小の具体的な証と見なされ、業界内では同社が徐々に中国市場を撤退する可能性があると予想されている。
しかし、意外なことに今年以降、三菱自動車は突然中国市場に対する注力を拡大し、続けて二つの大きな行動に出た。一つは広汽三菱初の純電動SUV「エアトレック」をリリースし、トヨタやホンダを抑えて、日系自動車としては中国市場初の電動化モデルチェンジを果たした企業になった。もう一つは、間もなく開幕する重慶でのモータショーで、10年目にしてようやくフルモデルチェンジされたアウトランダーのニューモデルが正式に発表されることだ。
中国市場は誰にとっても易々と手放せるような市場ではない。三菱自動車も中国市場で奮闘する準備をしている。では、これら2つのモデルは同社の救世主となるだろうか?
まずはエアトレックを見てみよう。広汽グループは比較的に早い時期に国内の新エネルギー自動車市場に手を付け、同社傘下の独立した純電気自動車向けブランドである「アイオン(AION)」が現在、国内の新エネルギー自動車市場のダークホースとなっているが、三菱はSUVの製造において深い技術の蓄積を有しており、双方の優位性を組み合わせたエアトレックは広汽三菱が中国の電気自動車市場で力を発揮する上で重要な拠り所となる。
フルモデルチェンジされたアウトランダーには大きな期待が寄せられている。同モデルは日本で優秀デザイン賞、ドイツでIFデザイン賞に輝き、米国では米国道路安全保険協会(IIHS)によりTOP SAFETY PICK +に選出されており、現時点で海外市場からのフィードバックも上々であり、販売台数も伸びている。米国市場では今年第1四半期の同車の販売台数は1万3000台に達した。広汽三菱の山本賢一朗総経理は、「三菱自動車の世界ブランド戦略における重要商品として、アウトランダーは中国市場ひいては世界市場において三菱ブランドの新たな1ページを切り開くだろう」と語った。
上述した点は楽観的要素と言えるが、悲観的要素も同様に突出している。まず、実力を備えた競争者が増え続けている。電気自動車市場において、アウトランダーはテスラのModel Y、フォルクスワーゲンのIDシリーズなどの合弁モデル、および比亜迪(BYD)の唐、蔚来のES6などのライバルとの熾烈な競争に直面している。燃料自動車市場において、三菱ブランドをよく知っている人々は、1970年代前後に生まれた世代が主であり、1980年以降に生まれた世代は、トヨタのRAV4やホンダのCR-Vなどの日系SUVの代表格や三菱のモデルについてあまり馴染みがない。もっと言えば、欧米では売れ行きが良くても、中国では人気がないモデルも少なくない。アウトランダーが中国でも売れるかどうかは未知数だ。同時に、例えば長城自動車のハーバードシリーズやタンクシリーズといった中国の国産SUVも徐々に人気が上昇しており、アウトランダーの有力なライバルになっている。
さらに見過ごせない点は、三菱自動車が依然として1つか2つのモデルに社運を賭けていることであり、これこそ同社が中国市場で過去10年間も低迷している主な原因だ。結局のところ、1つの車種で1つのブランドを支えるという状況は、中国の自動車市場ではもはやあまり見られず、SUVだけに依存するという状況などは非常に稀なケースであり、三菱はさらなる突破口を模索する必要がある。
最も重大な問題は、三菱自動車が本当に中国市場で盛り返すという決意を持っているかどうかだ。人々が注目しているのは、三菱が「Small but Beautiful」の3年計画において、最も競争力のあるアセアン地区により重きを置くことについて明言しているが、中国市場には言及しなかったことであり、中国市場は今後ルノー、日産、三菱による連合のうち、日産が主導するという噂さえもある。もしこれが本当なら、気がかりなのは広汽三菱の余命が秒読み段階に入る恐れがあることだ。