研究院オリジナル 広汽トヨタは14日、同社初の電気自動車(EV)モデル「広汽トヨタbZ4X」が17日に正式に発売されることを公にした。ところが、トヨタは17日に発表会の中止を突然発表し、具体的な時期は未定となっている。トヨタ側の説明では、このところサプライチェーン面で不確実性が生じており、ユーザーの利益を確保するために価格発表を延期し、消費者により優しい価格を設定しているという。ただ、厳しい環境のもとでは充電できないと噂されるように、bZ4Xに技術的欠陥があったため、発売が遅れたのではないかとの疑惑が浮上している。

トヨタの純電気自動車(BEV)モデルは出遅れただけでなく、製品自体も市場の支持があまり得られていない。同じ価格帯でもテスラや中国国産のBEVと比べると、bZ4Xには性能パラメータの指標、車両仕様ともに差がある。

それもそのはず。トヨタはハイブリッド車(HEV)に重点を置き、EVへの完全移行に公然と反対してきた。昨年末、トヨタは新EV戦略を発表し、EV開発に350億ドルを投資し、2030年には30車種のEVモデルを発売すると宣言したが、トヨタのBEVに対する立場は本質的に変わっていない。

トヨタ自動車の経営陣は15日に株主総会で、欧州の株主からの「EV化が進んでいない」との批判に反論し、なおも「EVに完全投入するのではなく、HEVや燃料電池技術路線を堅持する」と強調した。トヨタは昨年、GMやフォードなど自動車メーカー6社が2040年までにガソリン車を淘汰するという約束に加わることを拒否し、日本政府にも積極的になりすぎないよう働きかけた。

トヨタはHEVの既存の成果に執着して、BEVの発展を遅らせているというのが、世の人々の見方だ。確かに、HEVは今、トヨタに大きなリターンをもたらしている。トヨタは世界最多のHEVユーザーを擁し、新エネルギー車(NEV)の発展が最も速い中国市場で、2021年、広汽トヨタのHEVの販売台数は98%増加し、業界トップとなり、レビンPHV、シエナ、新型ハイランダー(4代目)は、それぞれハイブリッドセダン、ハイブリッドMPV、ハイブリッドSUVの全国販売ランキングでトップとなった。

だが同時に、トヨタが受けるプレッシャーと課題も日増しに多くなっている。6月8日、欧州議会はこれまで欧州委員会が起草していた立法提案を投票で可決し、2035年からEU全域でガソリン車の販売・登録の禁止を決め、プラグインハイブリッド車(PHEV)、合成燃料を含む経過的な案も軒並み否定された。デンマークの年金基金アカデミカーペンション(Akademiker Pension)やノルウェー最大の年金基金KLPなどをはじめとする欧州の年金基金は、トヨタの株主として、トヨタが内燃機関のEV化戦略を完全に放棄しないことを疑問視していた。彼らは「トヨタのライバルがEV化に全面転換しているのに、豊田章男社長はまだBEVが過度に騒がれていることが、将来の自動車業界におけるトヨタの競争力を弱体化させることにつながると強調している」と主張する。

そして、目前に迫る危機は中国市場から来るものだ。比亜迪(BYD)DMを代表する新型ハイブリッド技術はトヨタにとって大きな試練となった。DMは電気駆動をメインとし、エンジンをサブとするハイブリッドシステムで、本質的にはBEVだ。それに対し、トヨタのツインエンジンシステムはエンジンをメインとし、モーターをサブとするハイブリッドシステムで、本質的にガソリン車だ。トヨタのデュアルシステムとBYDのDMシステムに比べて世代的違いがあり、DMシステムは将来の発展の流れに合っている。

市場も次のような答えを出している。5月、BYDの新エネルギー車の販売台数は11万台を突破した。うちDMハイブリッドモデルは半分を超え、漢DMシリーズは前年同期比359%、宋DMハイブリッドシリーズは前年同期比779.4%増加し、宋PLUS DM-iは数カ月連続で全国SUV販売台数トップの座をキープした。

トヨタは保守的すぎるとの批判が高まり、トヨタが次のノキアになると予言する声も出ている。トヨタは本当に保守的なのか。より進んだ水素自動車については、トヨタが1992年に研究開発を開始し、1996年に初の燃料電池車FCHV-120を発売し、今も粘り強く研究開発を続けていることを忘れてはならない。

トヨタがBEVに抵抗するのは保守的なことではない。トヨタから見れば、HEVもBEVも過渡的なソリューションにすぎず、両者は炭素削減・環境保護の面で大差なく、水素自動車こそ究極のソリューションだからだ。

自動車製造分野では、日本と欧州の自動車企業は機械製造加工能力の伝統的な優位性を有しており、EVの重要な動力電池、半導体、インターネット情報技術の面で中米両国がリードしているので、トヨタはHEVを堅持しており、中米両国の自動車企業はEVを発展の重点として、すべて自国の優位性の選択に立脚している。

だが現在、事態の進展に新たな不確定要因が出てきた。豊田社長は、BEVの発展がカーボンニュートラルを実現する唯一の道ではないと一貫して主張してきた。エネルギー代替の角度から言えば、豊田社長の言うことは理にかなっている。純電気ハイブリッド車はそれぞれ特色があり、欧州ではトヨタのプリウス・ハイブリッドがすでに20年間販売されており、トヨタは欧州で販売されている自動車ブランドの中で一台当たりの二酸化炭素排出量が最も低いブランドになったので、EV化は唯一の選択肢ではない。だが、トヨタは気づいていない。自動車はインターネット化、インテリジェント化への発展しており、EV化は絶対に通らなければならない道であり、EVは炭素削減から始まり、最終的に炭素を削減するとは限らない。これは、テスラ、BYDとトヨタとの根本的論理の違いだ。

トヨタは2年連続で世界の自動車販売台数トップになったが、同年はノキアの携帯電話1社が世界市場の70%を超えるシェアを占めており、企業は絶頂期にあるほど重大な戦略的ミスを犯しやすい傾向があり、トヨタは真剣にノキアのケースに学ぶ必要があるのは確かだ。

だが、今後トヨタには中国から来る潜在的なチャンスがある。水素自動車はNEVの究極のソリューションと見られており、トヨタは世界の水素自動車のトップであり、長期にわたって中国市場で事業展開している。現時点では、水素自動車が中国市場台頭する可能性が最も高いとみられている。韓国の現代自動車(ヒュンダイ)の燃料電池車「NEXO」は4月、中国国内のNEVナンバープレートを正式に取得し、国内初の合法的な走行が可能な水素自動車となった。中国本土初の量産型水素燃料電池車「長安深藍C385」も4月に正式にリリースした。広汽トヨタも間もなくトヨタの次世代型水素自動車(MIRAI)の実証運行を開始する。

トヨタの業界での地位はノキアのようにかつての王者から無名に転落することはないかも知れないが、将来的には、HEVが徐々に淘汰され、BEVが追いつけず、水素自動車が成熟には程遠いという厄介な状況に陥ることが最大のリスクとなるかもしれない。

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