『必読』ダイジェスト 短期的にみると、中米間の競争はとても危険だ。台湾海峡、東中国海(東シナ海)、南中国海(南シナ海)などでの軍事対立はいつでも戦争勃発の危険がある。しかし長期的にみれば、中米の競争の中心となるのは軍事ではない。

中米の競争の焦点が軍事上にないのなら、どこにあるのか。それは経済とソフトパワーにある。経済はより発展したものが勝ち、ソフトパワーは国際的により他国への影響力が強いものが勝つ。私はこの文章の中で、主に経済上の競争について語りたいと思う。

中国と米国の経済構造は異なり、発展モデルにも大きな違いがある。全体からいうと、米国はこの世紀における世界的なボスであり、多くの経済分野で世界の最先端をいく。米国経済の発展のおもな駆動力はイノベーション・移民・グローバル化だ。中でもイノベーションは科学技術の進歩と一人当たり生産性の向上をもたらし、移民はハイエンド人材の拡充と人口の持続的増加をもたらし、グローバル化は世界市場の一体化により生産性の低い産業の国外への移転を可能にし、同時にハイテクとハイエンドサービス市場の規模を拡大した。

中国の過去40年の発展もまた直接グローバル化の恩恵を受けているし、さらにいえば中国のグローバル化は米国の協力によって成し遂げられたものだ。米国が不要とする産業を中国に移転させ、中国の廉価な商品を再び米国に運ぶと同時に、中国を米国以外の最大のハイテク製品とサービス市場に変えた。この過程において、中米は互いに利益を受けている。しかし全体からいえば、中国が得た利益のほうが大きい。それはおもに国際協力によるもので、米国をはじめとする欧米から大量の先進技術を学ぶことができたことで、根本から中国人の一人当たりの労働生産性を大幅に向上させたのだ。

しかし中米間のこうした協力モデルはもはや行き詰まっている。中国人の学習能力があまりにも高いことから、多くの分野で米国のレベルに近づいている。一部の分野、例えば第5世代移動通信システム(5G)や新エネルギーなどにおいてはいくらか追い越したものもあるほどだ。さらに中国の野心的な科学技術発展計画は、このままいくと世界のボスである米国の科学技術上における圧倒的な指導的地位を、根本から脅かすことになると米国に感じさせている。そのため、米国は対立を煽り、中国に対する強硬な政治的基礎をつくりあげる、本当の争いの中心は、ハイテク、チップ、人工知能、量子コンピューター、バイオサイエンステクノロジー、航空宇宙、新素材、新エネルギーなどにある。米国が「科学技術戦争」を指導する総戦略思想とは「デカップリング(関係切り離し)」で、すべてあるいは部分的に関係を切り離し、世界に二つの科学技術陣営――一つは中国、もう一つは米国に指導された世界的システム―――をつくりあげるというものだ。「デカップリング」という戦略の描写は実際としては正確でなく、より正確な理解とは、中国を「北朝鮮のように世界から孤立させる」というものだ。

米国の戦略が功を奏した場合、中国の発展の未来は極めて厳しいものとなる。科学技術や経済においてふたたび冷戦時代に引き戻されるだろう。それは、一方はソ連と経済・科学技術がいずれも比較的遅れた東欧諸国、もう一方は米国が指導する欧米と欧米に依存するグローバルシステムというものだ。ソ連が冷戦に負けたのは起こるべくして起こった運命ともいえるものであった。なぜなら経済規模でもイノベーション力でも、ソ連陣営は実際、もはや西側陣営の敵ではなく、それに加えて軍事的な巨額投資を続けざるを得なかったことで、最終的に国力が尽きるのは必然であったと言えるからだ。

そのため、米中間も米ソ間も同じで、核大国の間の競争の焦点は経済にあり、経済競争の焦点は技術にあり、技術競争の焦点は市場規模とイノベーション力にある。

中国はどのようにすればイノベーション競争に勝てるか

まず、イノベーションの産出はイノベーション人材とイノベーション効率の掛け算である。この2点のうえで、実はいずれにおいても中国は優勢にない。「そんなことはないはずだ、中国の人口は14億人、米国は3億人余りに過ぎないので、中国人の人材育成力が米国の半分にすぎないとしても、中国は人材において優勢にあるはずだ」と言う人もいるかもしれない。しかしこの計算の最大の間違いは、世界には70億の人がいて、米国は開放的なシステムと移民政策により、米国本土の3億人余りの中から人材を発掘するのではなく、実際には世界(中国を含む)の一流の人材を招き寄せていることにある。米国に留学した大学生・院生の80%が帰国するが、それは米国の労働市場がこれらの人々をとどめておく必要がなく、そのような仕事は米国人でもできるからだ。しかし、米国で理工系を専攻した世界の博士たち(中国出身者を含む)は卒業後80%が米国に残って仕事をする。米国が必要としているこのハイエンド人材に対し米国がオファーする条件は、多くの人にとって拒むことができないものだ。

イノベーション効率の上でも、米国の優勢はより大きい。ゆるやかな社会環境、私有財産権、特に知的財産権の保護は科学者・エンジニアたちを守り、心静かに落ち着いて研究に専念させてくれる。次に、世界一流の大学システム、ベンチャーキャピタル・システム、ハイテク企業により、科学者が能力を発揮できる環境がつくり上げられている。近年、米国の白人至上主義的な人種差別が再燃しているが、知識移民たちの集まる東海岸・西海岸では、社会的主流はやはり移民や異民族文化に非常に寛容で、世界の科学技術エリートにとっての米国の吸引力を保っている。

そのため、中国のこのイノベーション競争における責任は重く、道のりははるか遠い。どうすれば中国の競争力を高めることができるのか。当然、イノベーション人材の数やイノベーション効率の上から道をつけるしかない。中でも最も重要となるのは、知らぬ間に孤立し、中米間のイノベーション競争を14億人対56億人(米国+世界)の競争にしないようにすることだ。中米の二大経済体は世界の国内総生産(GDP)のほぼ4割を占め、その他の国が6割を占めている。中米の人口は合わせて18億、その他の国が52億だ。そのため、中米両国どちらにとっても世界の大多数を得た者が、より大きな優勢をもつこととなる。競争の圧倒的な戦略とは、ある種の「オープンソース」の心構えと政策をとることにあるといえる。

「オープンソース」という概念はハイテクからきており、科学技術の基盤技術を完全に公開して、世界で共用し、いかなる機関・企業あるいは国家にも独占されないというものを指す。そのため、オープンソース技術は根本的に安全なもので、いかなる使用者に対しても同じである。オープンソース政策と国産代替は完全に異なる考え方だ。確かに技術上で他国に急所を握られることは絶対に避けなければならない状況だが、単に国産品に替えることでこの問題を解決しようとすると、新たな問題を引き起こす。それは、世界の他の国も同じようにすることで、中国の生産技術によって「急所を握られる」という懸念が生じるのではないかということだ。もし他の国もまた国産代替という政策をとり、中国の科学技術を排除することになれば、中国は再び自らを封鎖する道へ戻るしかなくなるのではないか。そのため、国産代替を強調するよりも、オープンソース技術を強調したほうがいいのだ。

完全にオープンソース化された技術はあらゆる国にとって安全なもので、「急所を握られる」という問題は発生しない。このようにすることで、中国が技術を必要とすれば、中国企業が提供でき、欧州の企業も、日韓の企業も提供することができる。誰が誰の「急所を握る」というような問題は発生しない。実際、技術をオープンソース化さえすれば、米国の企業も同じようにサプライヤーとなれる。このようにして、オープンソース化により、中国の科学技術産業チェーンは世界最大のビジネス生態システムとしっかりと結びつき、自ずと不敗の地に立つことができるようになる。

技術開放の意欲からみると、実際には米国は相対的に孤立している。なぜなら米国はハイテクをリードしており、リーダーは往々にして競争を減らすことで、最大限技術がもたらす利潤を得ることができるため、技術の独占を願うものだからだ。アップルがその例で、最も早くスマートフォンに着手したが、完全に閉鎖的なシステムをとった。欧州、日韓、中国、米国の中小企業はすべてこれを追いかけていたので、技術上の独占を望んでおらず、さらにはオープンソースや安全なシステムを望んでいた。アップルの一人勝ちという状況のもとで追い上げたグーグルは、スマホのオペレーションシステムの70%以上の市場を奪ったが、それは自身の科学技術あるいは性能が抜きん出ているからではなく、オープンソース化戦略をとり、より多くの同盟者を獲得し、より大きなビジネス生態システムを打ち立てたことがカギとなっている。

貿易と投資のうえで、オープンソース政策は中国に、最大限に世界のあらゆる経済体と密接につながることを要求するものだ。中国のここ20年の経済上の大きな成果は世界貿易機関(WTO)加盟と直接的に大きな関係がある。WTOは国際ルールであり、中国が国際ルールを採用したのはオープンソース的なやり方だ。最近発足した地域的な包括的経済連携(RECEP)は、中国のアジア太平洋地域における極めて優れた成果でもある。欧州との包括的投資協定(CAI)が一日も早く批准されることは、間違いなく中国の将来の発展に極めて重要な意味を持つ。最も絶賛されるのは中国が環太平洋パートナーシップに関する総括的および先進的な協定(CPTPP)加盟申請を行ったことだ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はもともと米国が主導する新しい「友人グループ」で、中国をはじき出すためのものであった。しかし、そこから米国が脱退するという状況において、中国政府は大局のためにメンツを捨て、本来中国には非友好的であった貿易システムへの加盟申請をし、明晰な判断と強い意志力を見せることができた。

イノベーションの成功には、人材誘致、文化・言語政策、研究開発投資、産学一体化、教育アップグレード、革新的な文化の創造など、他の多くの重要な要素があるが、私はオープンソース化戦略をとることが、あらゆる条件の中で最も重要であると強調したい。もし逆の道をいき、閉鎖的戦略をとれば、他でいかに努力をしようと恐らく勝算はない。それはビジネス生態システムの規模の差があまりに大きいからだ。

もし中国が完全にオープンソース戦略をとれば、米国は実際、自分で自分を閉ざすことが難しくなるだろう。なぜなら中国が世界と結びつけば、米国が中国とデカップリングするのは、世界とデカップリングするということになり、そうすることは国益とは合致しないからだ。もし中米のいずれもがオープンソース戦略をとれば、「脱グローバル化」の大きな進展は難しく、中米の競争はリスクコントロール可能となるだろう。実際、もし中米の競争がゼロサムゲームを避けることができ、イノベーション競争に焦点が当てられるようになれば、一方のリードがもう一方のリスクになるとは限らず、逆にチャンスを提供することにもなり、こうした競争は世界にとって悪いこととは限らない。この角度からいうと、中米の競争の焦点は実のところ第三者にある。第三者の支持を得る戦略こそ、優れた戦略であると言える。

原文は1月12日に『フィナンシャルタイムズ』中国語版サイトに発表されたもので、筆者は長江商学院会計・金融学教授で投資研究センター主任の劉勁氏。

(『日系企業リーダー必読』2022年1月20日-2月5日記事からダイジェスト)

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