『必読』ダイジェスト  中国と米国はデカップリングできるものではなく、中米のデカップリングは耐え難い損失をもたらすことになるというのは、われわれが現在のロシアの苦境の中からくみ取るべき教訓といえよう。

冷戦のコピーはすべきでないし、それは不可能でもある

国内外の一部の過激な人々は冷戦思考を頑なに堅持していて、中米関係を新たな冷戦へと導き、中国を当時のソ連邦の「複製」とし、いわゆる二大陣営の対立をつくり上げ、冷戦秩序を再構築しようとしている。しかし、これは全くの荒唐無稽な妄想である。こうした妄想は「ソ連の継承者」ロシアを害し、中国にも危害を与える。

ソ連が自らを中心に西側に対抗する陣営をつくり上げるのには、二つの不可欠な条件があった。まずは資源という条件だ。ソ連は工業時代に必要とされたほぼすべての自然資源を有しており、その資源賦存量は米国の上をいくほどだった。次に、英仏などの欧州の旧帝国は二度の世界大戦における互いの潰し合いにより衰弱し、ソ連は戦争によって利益を得ていた。まず、東欧地域が第二次世界大戦中にソ連の「戦利品」となり、後に植民地システムが崩壊したことで、さらにソ連はそのおこぼれに預かった。

中国はソ連のようには自然資源に恵まれていないのは明らかであり、重要な資源の自給自足でさえ満足させることもできないのに、資源の優勢を背景に独自で米国と対抗し得る巨大な陣営を維持するなどというのはもってのほかである。

中国はさらに、ソ連の「おこぼれにあずかる」ような歴史的チャンスはなく、帝国が覇を競う乱世では、中国の現在の良好な発展の勢いのある経済を損なうだけで、戦争による利益など何らもたらされることはない。

中国経済が、人類史上国際秩序の最も安定した時代に高度成長期に入ったのは、偶然などではなく、自然資源が相対的に乏しい大国の、グローバルな貿易システムに対する高度な依存がもたらす必然の結果といえる。

中国は世界から供給される自然資源から離れることはできず、安定した国際輸送システムによる輸送に依存し、安定した国際金融システムにより決済を行う必要がある、などといったことがある。これらの世界的な大システムは、多くのサブシステムを派生させており、どのシステムに問題が起こっても、われわれの経済運営には問題が生じる。

例えば最近発生した世界ニッケル先物市場の異常な暴騰は、すんでのところで中国最大のステンレス企業に大きな打撃を与えるところであり、さらには新エネルギー産業にも影響が波及し、国内市場の数えきれないほど多くの人を焦らせた。もしこれが石油や鉄鉱石のようなより基礎的で、より大口の商品の供給断絶であったとすれば、中国経済はどのような状態に陥るだろうか。

さらに、経済の安全の考慮から、中国の国際供給は可能な限り多元化の必要があり、多元化することでようやく窮地に追い込まれたり、高値取引を余儀なくされたりすることがなくなる。これは中国の一貫した政策でもあり、その例が石油の供給だ。中国の海外の石油供給において一番の輸入国ロシアでも、その割合は15~20%に過ぎない。

このため、錯綜する複雑な国際関係において、中国は幅広い良好な関係と柔軟性を保つ必要があり、ソ連の東側陣営のような閉鎖的なシステムで西側と対立することはできない。中国が深くつながることができるのはグローバル経済システムのみであり、いかなる単一の国、単一の陣営でもない。

このため、中国は現状のグローバルシステム以外に、米国に対抗するものをつくりあげることはできない。ソ連は資源の強みに依拠して、なんとかして経済協力組織をつくりあげ、かろうじて数十年は維持することができるだろう。しかし中国は、グローバル経済システムから離れれば、経済はたちまち縮小・退化し、工業化レベルでさえも急激に後退するだろう。

資源の欠乏という先天的な基礎は変えることができず、われわれの経済規模が大きくなればなるほど、資源供給に対する需要が大きくなり、ますますグローバル経済システムへの依存を深める。

避けることができない問題とは、米国はわれわれの重要な貿易パートナーであるだけでなく、グローバル経済システムの礎石となっているということだ。

グローバル経済システム離脱で中国が受ける傷はロシアよりも大きい

グローバル経済システムは一日にして成るものではなく、工業化時代以降、百年余りにわたる蓄積により形づくられたものだ。はっきり言えば、このシステムは西側諸国がつくりあげたもので、大英帝国を代表とする欧州国家が始め、第二次大戦後は米国の主導によって完成した。

われわれがどんなに米国の覇権を嫌っても、ほぼすべてのグローバル経済システムの扉の「カギ」は、米国の手に握られているという現実に向き合う必要がある。いかなる扉が閉ざされても、その結果は中国にとって壊滅的な結果をもたらす。

ロシアが現在直面しているのが、まさしくこうした打撃である。ロシアの主要銀行がSWIFTから排除されるというこの動きだけでも、ロシア経済は全面的な打撃を受ける。ハイテク企業は次々とロシア業務を中止し、小売り・消費企業も主体的・受動的に営業を停止している。かつては賑わっていたモスクワのショッピングセンターの陳列棚は空っぽで、一夜にしてソ連末期の困窮状態に戻ったかのようだ。ロシアが30年間積み重ねてきた発展は、未曾有の挫折と試練に遭遇している。

続いてインターネットの扉も閉じられようとしている。泣くに泣けず笑うに笑えないことに、今回はロシアが先に「インターネットからの離脱」を表明した。3月1日、ロシアは「国内インターネットの使用を準備している」と発表した。しかし、本当に「インターネットから離脱」したら、ロシアがRuNet(ルーネット)と称する世界最大のローカルエリアネットワークを、大きな精力と財力を費やして長期的な準備を行ってきたといっても、グローバルインターネットの代替品とすることは根本的に不可能だ。それはソフトに問題があり、大量にオープンソースコードを使用しているロシアのソフトがサポートを失いマヒしてしまうからだ。ロシアの85%の「国産」ソフトはすべてある種の形でオープンソースコードを利用していて、例えば、Linux(リナックス)のプラットフォーム上のほぼすべてのローカルオペレーションシステムはオープンソースソフト上につくられたものであり、多くの大企業顧客や政府の法律機関を含む政府部門に提供されている。これはロシアの情報技術アプリケーションが大幅に後退することを意味していて、設計は手書き時代へ、支払いは現金時代へ、金融決算は手形時代へ後戻りする等、これによって引き起こされる混乱は計り知れない。

このような急速な技術後退は、史上前例がない。基本的な情報技術アプリケーションすらない状態で、米国に対抗し、西側に対抗するなどというのはもってのほかである。

結局のところ、インターネットは米国が発明し、20年余りも技術をリードしているもので、ロシアが短期間で「国産化」を実現し、再装備することは不可能だ。もしそれが将来的にできたとしても、ロシアの情報技術はこのために世界より少なくとも一世代は遅れ、他の技術者が世界インターネット上で競っているときに、ロシアの技術者はローカルエリアネットワークでその綻びを繕っていることになる。これではカメとウサギの競争だ。

ロシアが誇らしげに「インターネットからの離脱」を表明したとき、自身は準備万端と思いこんでいたのであろうが、現実には、インターネット技術とグローバルシステムは高度に結びつき、同じ歩調で歩んでいて、ロシアが準備万端に整えることなど永遠に不可能なのだ。

さらに重要なのは、グローバルインターネットの扉を開くカギもまた、米国の手中にあるということだ。

ロシアはグローバル経済システムから離脱した結果、グローバル競争に参加する資格を失った。主観においていかにロシアを支持する中国人がいようと、現実的にはこの事実は変えようがない。

グローバル経済システムから離脱しても、ロシアは或いは先天的に恵まれている豊富な資源賦存量に依拠し、情報技術時代以前の工業化レベルを維持し、低いレベルでの自給自足を実現するかもしれない。しかし、経済力や技術力が大きく後退すれば、ロシアは何によって米国や西側諸国と対抗するというのか。

では、これが中国であったら?中国がひとたびグローバル経済システムから離脱すれば、資源不足による制約があまりに多いため、恐らく低レベルでの自給自足ですら不可能であろうというのが、その答えだ。

事実として、ソ連邦が崩壊した後、陣営に分かれるシステムとシステムの対抗にはもはや二度と戻ることはなく、現在の世界には一つのグローバル経済システムしか存在せず、あらゆる資源要素、技術要素がこのシステムに含まれている。米国がこのシステムの意思決定者、番人であることは否定できない。米国とのデカップリングは、グローバルシステムとのデカップリングに他ならない。中国にはこのような代償を背負う力はなく、デカップリングによって米国と対抗する実力を増強するなどということは、さらにありえないことである。

原文はかなりの長さに及び、3月14日にウィーチャット(微信、WeChat)のパブリックアカウント『功夫財経』に発表されたものを『必読』に転載する際に収めたのは半分弱にすぎない。筆者の関不羽(ハンドルネーム)は中国では著名なWebライターで、社会的反響を呼んだ国際政治・経済関連の文章を数多く発表している。

(『日系企業リーダー必読』2022年3月20日記事からダイジェスト)

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