研究院オリジナル 5月20日、中国国家電網公司は2022年第十四期、113億元の送変電プロジェクトの調達落札企業を公表したが、注目を集めたのは日立が総額の3.7%を占めて、6位につけ、海外企業としては一位にランキングされたことだ。この分野においてこれまでずっと世界のトップブランドに君臨してきたシーメンスが占めたのは総額の0.6%に過ぎなかった。
このことは多くの人々にとって意外に思えるかもしれない。かつて日立は中国市場で外資家電企業の代表的なブランドとして広く知られていたが、その後中国の家電企業が台頭するにつれて、パナソニックや東芝などのブランドと共に、日立のテレビや冷蔵庫などの製品の影響力も低下し、今や多くの中国人にとって、現在の日立は中国での存在感が何十年前と比べて大きく色褪せた日本企業という印象だ。
しかし、日立に関する事実は多くの中国人にとって驚くべきものだ。2022年3月末時点で、日立グループは中国で136社のグループ企業を有し、約5万人の職員を有し、中国市場での売上額は1兆3316億円(約692億元)に達しており、日立グループの世界総売上額の約13%を占めている。
日立は敗退などしておらず、むしろさらに拡大しているが、同社はもはや以前の日立ではない。
しかし、今の日立は中国で一体どんな業界に属する企業なのかという質問に答えるのは容易ではない。中国市場において、日立は多くの分野で大きな影響力を及ぼし、その名をとどろかせているが、これらの分野の間には何の関連性もない。
電力分野では、2018年に日立は7000億円でスイスの老舗とも言える電気および工業自動化の大手ABBグループのパワーグリッド事業を買収したが、これは日立にとって1910年の創立以降、最大規模の買収だ。ABBと中国国家電網公司は長きにわたって協力関係にあり、日立もこの買収を足掛かりに国家電網の市場に参入した。
新エネルギー自動車の分野において、日立アステモは高効率な駆動モーターや高出力インバータなど電動動力システムを得意としている。5月27日に、日立の新エネルギー自動車の基幹部材製造基地プロジェクトが南京で着工し、総投資額は70億元に上り、これは新エネルギー自動車の基幹部材であるxEV(モーターおよびインバータ)などの製造工場を建設するプロジェクトであり、工場完成後、設計生産能力に到達するならば主要業務の収入が年間約100億元に達することも夢ではないという。
ハイエンド医療装置の分野では、2019年に江蘇省徐州市中固医院管理公司と日立は重粒子治療システムの調達協定を締結した。2021年、中国ミデアホールディングの和祐国際医院が日立から重粒子一体型癌治療システムを1台調達した。日立は中国大陸の市場で2つの粒子線癌治療システムの注文を受けているが、現在全国で運用されているのはわずか2台だけだ。
エレベーター分野においては、3月29日に中国不動産業協会や上海易居不動産研究院が発表した2022不動産開発企業総合実力評価の結果によると、日立エレベーターはエレベーターブランドとしての最優先率が18%で、中国不動産トップ500において最初に選ばれるエレベーターサプライヤーとしてトップに輝いている。
日立はやみくもに全方位攻勢に乗り出しているのか?日立の戦略配置と中国市場の発展過程を結び合わせて分析するならば、日立が中国市場に対して深い洞察を持っていることが分かり、内部で一致している根底のロジックが存在する。
この数十年間、中国のインフラ建設は経済発展を促進する主要な手段であり、その中でもパワーグリッドの建設は重点事業の一つだった。「第十二期五カ年計画」の期間中にパワーグリッドの建設に対して2兆元が投じられ、「第十三期五カ年計画」の期間中は2兆5700億元、「第十四期五カ年計画」の期間中にはその額が2兆9000億元以上に到達したが、同事業の重要な任務はパワーグリッドインフラのスマート化とスマートマイクログリッドの建設を加速することであり、2022年にパワーグリッドへの投資額が初めて5000億元を突破した。2018年に日立はABBを買収したが、同社が掲げた明確な目標は、新たなスマートパワーグリッドのアップグレード事業や新エネルギーの収容と処理、複数のエネルギー方式に対してソリューションを提供することであり、日立は「巨大なケーキ」を手にすることを望んでいる。
この十数年間で、中国市場は世界最大の自動車市場に発展し、特に規模が最大で、成長が最も早い新エネルギー自動車市場になり、電気化、自動運転化、シェア化、インターネット化が飛ぶようなスピードで発展している。2021年1月、日立アステモ株式会社が正式な営業を開始し、その3か月後に、日立アステモ自動車システム(中国)公司が全シリーズの商品を携えて2021年上海モーターショーに出展しており、現在日立アステモは中国に22カ所の生産および開発拠点を設けている。明らかに日立は中国の新エネルギー自動車の流れに乗り遅れたくないという意欲を示している。
中国は人口が世界最大の大国だが、同時に中国における高齢化の速度は非常に速い。それゆえ、医療ヘルスケア分野でも中国は世界最大の市場となっている。重粒子治療システムは医療分野のスーパー装置として、巨大な投資が行われており、現在世界でも合わせて106台しかない。欧米と日本市場は基本的に飽和状態にある。日本で使用中および準備中の装置は約30台であり、この比率で計算すると、人口が日本の10倍以上である中国には約300台の潜在力な市場ニーズがある。そのため、日立(中国)公司粒子線ソリューション部の曹雪婭総経理は、中国が日立にとって最も重要な海外市場の一つであり、また最大の発展の潜在性を備えた市場でもあることを強調している。
2000年に中国の都市化率は40%未満だったが、中国には14億人の人口による都市住宅の強いニーズがあるため、その時期を境に中国の不動産市場は20年にわたる急速な発展期を迎え、不動産は中国経済の発展を推進する上で柱の一つとなった。2000年から2020年までの間に、GDPに対する不動産の貢献度は同期比で73.8%も増加した。1995年に日立エレベーターは中国に進出したが、その全ての歩みにおいて中国不動産の20年にわたる黄金期の発展ボーナスを享受した。
以上から分かるように、日立は常に中国の社会経済発展の過程において基盤および柱となる業界に照準を合わせて戦略配置しており、これらの分野はいずれも最先端の新興産業ではないとはいえ、ずば抜けた市場規模や長期的な持続的発展などの特徴を有し、日立が中国市場で安定した発展を遂げ、より強大になる上で信頼できる保証をもたらしている。
中国の『孫子の兵法』には、「激水の疾くして、石を漂わすに至る者は、勢なり」という言葉があり、これは流れが急で早い奔流は、巨大な石も流し去ることができるという意味だが、巨大なエネルギーを内に蓄えることによって何者にも阻まれないようにするという客観的な形勢を指しており、つまり勢いに乗って物事に取り掛かるならば、少ない労力で大きな成果を上げることができる。日立の戦略配置は『孫子の兵法』の真髄を捉えたものだと言ってもよい。