研究院オリジナル 2022年1月、資生堂は中国において、傘下の「Za姬芮(Zaジーエー)」、「泊美(PURE&MILDピュアマイルド)」の二つのブランドを化粧品管理グループの「URUOI(ウルオイ)」に売却することを決定し、これは資生堂が中国市場の戦略モデルチェンジ行動を加速して推進することを意味する。
「Za」と「PURE&MILD」という二つのブランドは資生堂にとって特殊な意味をもつもので、1981年に正式に中国市場に参入してから、資生堂は中国市場を40年余りにわたり開拓してきて、この二つのブランドは資生堂が中国市場を切り開く先鋒となり、どちらも中国市場に20年以上も存在し続けた。中でも「Za」は中国の若い女性の化粧品の「啓蒙者」といわれ、「PURE&MILD」は資生堂初の中国市場のためにつくられた化粧品ブランドであり、資生堂の初めての下沈(注.製品あるいはブランドがさらに下のクラスのターゲットを開拓、一・二線都市から三・四線都市へ拡大、ハイエンドからローエンドへ発展するある種のやり方)専門店チャネルのブランドでもあった。
二十年余りの間、「PURE&MILD」は資生堂の中国における専門店チャネルの開拓において旗印的な役割を果たしており、2008年から2012年までの間の「PURE&MILD」の専門店チャネルの年間販売数成長率は平均20%以上で、2012年までに「PURE&MILD」は国内の8000店余りの化粧品専門店と契約している。
現在、資生堂が大ナタを振るい、この二つの功績あるブランドを切り捨てたのは、情勢によって余儀なくされたためだ。
「Za」と「PURE&MILD」はミドル・ローエンドの大衆的化粧品で、価格は相対的に安く、そのために十数年前には80年代、90年代生まれの若者の人気を集めたが、こうした世代の人々が歳をとり30歳以上になってくると、彼女らの購買力もしだいに上がり、消費がたえずアップグレードし、安価な化粧品では彼女たちの需要を満足させることができず、「もうZaは私に合わない」というムードが広がりつつあった。
若者がいれば安価な化粧品市場はあるものの、新世代の若者の安価なブランドの選択の幅はとても広く、特に2015年前後に中国の現地化粧品ブランドが覚醒しはじめると、安価なブランドがその主要ターゲットとなり、百雀羚、自然堂、相宜本草などの広告が至るところを覆いつくした。こうした現地ブランドは急速に台頭し、例えば百雀羚の2015年の年間売上高は105億元で、複合成長率は35%にまで達している。2017年に生まれた現地化粧品ブランドの花西子はわずか2年で年間売上高10億元に仲間入りし、2019年には2018年同期比25倍という急成長を遂げ、2020年の販売額は30億元を突破した。
こうした反応速度がより速く、より鋭敏な中国の現地新勢力に比べると、資生堂のような老舗ブランドの安価な化粧品は、ブランドイメージ改革にせよ、チャネル改革にせよ、非常に困難で、多くの物がすべて根強くゆるぎない。「PURE&MILD」は2020年4月に中国市場の店売チャネルから撤退し、オンライン市場専用となったが、その成績はごく平凡だ。
しかし、それに比べると、資生堂のハイエンド分野はまったく異なる状況にある。2021年度の第1~第3四半期、資生堂中国市場の販売数は前年同期比で大幅に鈍化し、大衆市場業務が思うようにいかないのに対し、ハイエンド化粧品やスキンケア業務の成長には目を見張るものがあった。資生堂傘下のハイエンドスキンケアブランドにはSHISEIDO、「クレ・ド・ポー・ポーテ」「イブサ」、そして2019年10月に買収した米のネットで人気のハイエンド化粧品ブランドの「ドランク エレファント」があり、2021年度の第1~第3四半期、これらのブランドはそれぞれ16%、20%、10%、5%という成長をみせている。
低価格帯市場では資生堂はすでに競争の強みをもたないが、ハイエンド市場では資生堂は長期的な蓄積と口コミ、技術資金能力により、依然として強者に属している。そのため、昨年以来、資生堂はすでに中低価格帯のブランド資産の剥離を始めていて、全面的にハイエンド市場へと戦略モデルチェンジを始めている。「Za」と「PURE&MILD」の売却以外にも、資生堂はここ一年の間に15の大衆化粧品業務を売却している。
しかし、中国のハイエンド市場競争もますます激化している。ユーロモニターのデータによると、中国の化粧品ハイエンド市場占有率トップ3の会社はロレアル、エスティローダー、LVMHで、市場占有率はそれぞれ18.4%、14.4%、8.8%であり、日韓ブランドのここ2年の中国市場における影響力は以前のようには大きくない。
2021年、資生堂は正式に中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」を発表し、2030年までに資生堂は世界をリードするスキンケア企業となると公言した。しかし現在第一位のロレアルに比べると、資生堂ブランドのポートフォリオは比較的少なく、財務投資能力もロレアルには敵わず、資生堂がこの壮大な目標を実現させるのはとても難しいだろう。そのため、資生堂の業務剥離行動は、力をハイエンド市場に集中させてライバルと争うことを狙うものといえる。
資生堂は中国市場の戦略モデルチェンジを今全力で行っていることが見て取れる。2020年1月、資生堂はハイエンド輸入品「リバイタル」の「下沈」専門店チャネルを強力に導入し、コロナ禍のもとでの極めて難しいビジネス環境のなかで、迅速に1000店余りを開店させた。2021年2月には、SHISEIDOブランドの七代目桜デザインの限定ボトルを発売し、人気スターのリウ・イーフェイ(劉亦菲)を起用して、初めてビリビリ動画上で新製品発表会を行った化粧品ブランドとなり、資生堂製品とセールスの若返りと生命力を見せた。
同時に資生堂はますます多くの新ブランドを中国で世界に先駆けて発売している。たとえば、2021年第4回輸入博覧会において、資生堂グループは世界に先駆けて真新しいインナービューティーブランド「INRYU(インリュー)」と先駆的ブランドの「ドランク エレファント」を発表した。
投資強化も欠かすことができない。2021年8月、資生堂は中国で中国大陸初の国際化粧品グループへの専門投資基金である資悦基金を設立した。2021年10月、資生堂は中国東方美谷研究開発センターを正式に開業させた。これは資生堂の中国における三番目に大きな研究開発センターで、資生堂は中国市場で最多の研究開発センターを持つ外資化粧品企業ともなった。
中国人の習慣的な言い方では、資生堂のこうした行動はすべて「次なる大勝負」に出ようとするもので、この成否については、ただ刮目して待つしかない。