研究院オリジナル 近年、製造業のアップグレードと人口ボーナスの消失に伴って、中国における工業用ロボットの需要は激増している。国家統計局のデータによると、2021年に中国で生産された工業用ロボットの台数は36万6000台で、前年比44.9%増だった。IFRの『世界ロボット2021 工業用ロボット報告』によると、中国は8年連続で世界最大の工業用ロボット消費国となった。
中国国内における工業用ロボット発展への取り組みが遅かったため、これまでずっと、ファナックやクーカ、ABB、安川電機の四大外資ブランドが中国の工業用ロボット市場を支配しており、市場シェアの70%以上を占めている。その中でもファナックは長年にわたってトップをキープしており、シェアは14%以上にのぼっている。
ファナックが中国でトップを占めている主因はコストパフォーマンスにある。技術性能の面で、同社は数値制御システム、設計、製造において世界最強の実力を有するメーカーの一つだ。他のメーカーと比べて、同社が生産する工業用ロボットは使用時の生産工程制御がより手軽で、同モデルのロボットと比べてスタンドの寸法が小さく、独自のアーム設計を有し、精度も非常に高く、各種企業のニーズを幅広く満たすことができる。
市場戦略上、ABB、クーカなど欧州メーカーの製品は値段が非常に高く、主にハイエンド顧客を対象にしており、例えばABBはファーウェイや長虹など中国の大手企業との提携を選んでいる。それとは対照的にファナックは、大きな顧客だけにこだわらず、大衆を視野に入れた市場戦略を採用しており、ニーズが大きいミドル・ローエンド市場を模索して参入している。中国市場において、ファナックの売上額の55%を占める工業ロボットは一般製造業で活用されているが、その業界の上位三位は家電、物流、そして電子・電気だ。それゆえ、同社は中国の各業界で幅広く顧客を獲得しており、同システムを使用するオペレーターのチームは非常に大きく、安定した市場の基礎を形成している。もう一つのロボットメーカーである安川電機もファナックと同様、高いコストパフォーマンスを売りにする戦略を選択しており、同社の溶接用ロボットは溶接パッケージも含むが、価格は13~14万元だ。
中国はすでに世界最大の工業用ロボット市場になっているが、作業員一万人当たりが有する工業用ロボットの数はわずか187台であり、ドイツや日本に遠く及ばない。それゆえ、将来的により大きな成長の可能性がある。
中国市場での優位な地位をさらに強固なものとするため、2021年3月、ファナックは約260億円(約15億6000万元)を投じて上海の工場を拡張したが、このプロジェクトは同社が中国で行った一件当たり最大の投資であり、拡張後の工場は2023年に操業を開始する見込みだ。同工場の敷地面積は34万平米で、以前の5倍だ。
今はファナックがトップを占めているとはいえ、今後は試練にも直面することだろう。同社の競争相手はどこも自社の強みを持っている。例えば、ABBは基幹となる運動制御の面で大きな優位性を有しており、ロボットアルゴリズムは四大主要外資ブランドの中で最も優れている。クーカは高可搬重量向けロボットのトップブランドだ。安川電機のACサーボとインバーターは市場シェアで世界のトップに君臨している。これらのメーカー以外に、セイコーエプソンやカワサキなどの高い実力を持つロボットメーカーも中国市場に参入している。
しかし、多くの他の分野と同様、今後ファナックが最も重視に値する競争相手は間違いなく中国国内のロボットメーカーだ。なぜなら、中国国内メーカーが外資ブランドを追いかける際に、最もよく用いる手段もコストパフォーマンスだからだ。例えば、MIR DATABANKのデータによると、2021年上半期、より優れたコストパフォーマンスを武器に、中国国内メーカーの匯川技術公司のサーボシステムは15.9%の市場シェアでランキングの1位に輝き、2位の安川電機を4%も上回った。
その一方で、中国のロボットメーカーの取り組みは日本よりもずっと遅れており、技術の差も大きいが、中国政府と中国メーカーは長きにわたる外資メーカーによる市場の独占に不満を抱いており、ロボット産業の発展に重きを置いて、それに全力で取り組み、著しい発展を遂げることを目標にしている。2021年12月、中国政府は「『第14期五カ年計画』ロボット産業発展計画」を公表し、国際競争力を有するトップ企業および強いイノベーション力を持ち、将来性のあるユニコーン企業の育成や、3~5つの国際的な影響力を持つ産業クラスターの構築を提起している。
中国国内のロボットメーカーの成長は著しく、例えば、埃斯顿(エストン)は「中国のファナック」と呼ばれており、2021年に工業用ロボットの販売台数が7位に躍進した。2022年3月、美的(ミデア)グループは1億5000万ユーロ(約10億5000万元)で四大外資ブランドの一つであるクーカを買収し、完全子会社化した。