研究院オリジナル 中国は世界の新エネルギー自動車の主戦場であり、業界の認識としては一般的に、米国と中国国内の新エネルギー自動車と比べて、トヨタやホンダといった日本の自動車メーカーはすでに一歩出遅れている。しかし、ある日本企業は注目を集めることなく黙々と巨大な産業クラスターを構築している。同社の目標は新エネルギー自動車の発展に影響を与える舞台裏の王者になることであり、その企業とは日本電産のことだ。

純電動自動車にトータルなOEMを提供してきた企業が脇役から主役に

日本電産は世界的なブラシレスモータのトップ企業だ。従来型自動車において、自動車のモーターは補助的な部品に過ぎなかったが、自動車のEV化や自動運転技術が発展するにつれて、駆動モーターの数は増える一方であり、モーターの性能要求もまずます複雑になっており、駆動モーターは今や電動自動車の「心臓」となっている。

日本電産が新エネルギー自動車産業の発展に影響を与える企業になり得るのはなぜか?

まず、純電動自動車が従来型自動車の産業構図を徹底的に覆しているからであり、増加傾向にあるテスラや蔚来といった「越境者」の台頭が新興の純電動自動車の勢力となっており、この類の越境企業における大半の製造業務は外注されている。それゆえ、自動車部品および組立企業には大きな将来性がある。純電動自動車の時代では、舞台裏にいた部品企業がもはや脇役ではなく、舞台の中心に立つ主役になっている。日本電産もそのような流れに乗っている。

日本電産は自動車の「心臓」部分だけでなく、さらに自動車の五臓六腑や骨格、筋肉に相当する部分に至るまで、核心的な競争力を持つ。日本電産は純電動自動車の部品を中心に、工場を周辺の「サプライヤータウン(Supplier Town)」に集中させる構想を打ち出している。2021年、日本電産は大連の新工場周辺に関連企業を集め始め、駆動モーター関連部品以外に、さらにブレーキやパワーステアリングなど関連する20種類の部品工場とともに電動自動車(EV)のトータルOEM産業連盟を立ち上げた。日本電産はさらに将来的にシャシーを加えることも視野に入れ、ボディと電池以外の大半の自動車部品の生産を実現する計画を立てており、金額にすると完成車コスト全体の三分の一に相当する。

日本電産の関潤社長は、純電動自動車市場が拡大を続けているという背景の下に、今後もトータルOEM業界の企業として勝ち得た顕著な競争的優位性を純電動自動車に対して提供するという考えを示した。日本電産は、国内外の自動車企業に幅広く部品を供給できるドイツのボッシュ(BOSCH)のような「メガサプライヤー(Mega Supplier)」と呼ばれるようになるために力を尽くしている。

中国企業化によって中国市場で水を得た魚となった日本電産

日本電産が王者になる可能性を持つもう一つの理由は、同社のビジネスロジックとビジネス戦略が日本企業のようではなく、むしろ中国企業のようだからだ。これにより同社は中国市場で水を得た魚となっている。

日本電産は二つの典型とも言える中国的な特色を有しているが、一つは市場の新陳代謝に速やかに対応していることであり、もう一つは一定規模のコスト面での優位性を核心的な競争力としていることだ。

日本電産の中国エリア総裁の甲斐照幸氏は取材を受けた時に、中国の携帯電話会社から受けた啓発に感謝を表し、これらの企業の優位性は開発周期がとても短いことであり、中国の携帯電話会社は毎年2、3回のイテレーションを行うことができると語った。

日本電産は2019年5月から、吉利汽車が開発したE-Axleに対し、車両への適合を含めて、わずか1年間で部品の量産を開始した。広汽新エネルギー自動車に対しても要した期間は1年未満だった。これはその時の日本、欧州、中国国内のサプライヤーのいずれも太刀打ちできないスピードだった。甲斐氏は、「この過程において、日本電産は日本企業としては稀に見る製品イテレーションの速度を実現した。まるで電気駆動分野のインターネット企業のようだ」と語った。甲斐氏によると、中国の顧客を獲得し、つなぎ止める上で速度は極めて重要な要素であり、これこそ日本電産が頭角を現すことができたカギの一つだという。

技術のイテレーション速度を加速するために、日本電産は蘇州に同社の最先端の電動自動車モーター開発センターを設立し、顧客のニーズに基づいて速やかにプロトタイプ製品を製造できるようにした。蘇州開発センターは業界で最も全面的な測定設備を有し、同設備によって様々な条件の下でシミュレーションして、高温やぬかるみの状況下における耐久性を測定することができる。通常、プロトタイプ製品の開発には6カ月から1年を要するが、日本電産は1ヵ月半のうちに完成させることができる。

競争戦略の方面で、日本電産が他の日本企業と異なるのは、同社が価格競争を回避しているだけでなく、低コストおよび低価格を競争の武器としていることだ。同社がこれまでずっと貫いてきた戦略は、まず低価格で市場シェアを獲得し、シェアを拡大させた後に、経済効果を確立させ、利益率をそれに伴って一定の水準に到達させるというものであり、まさに典型的な中国式ビジネスモデルだ。

如何に低コストおよび低価格を成し遂げるかにおいて、日本電産も典型的な中国式戦略を採用している。一つの方面として生産能力の拡張によってコストを下げている。日本電産は中国で大規模な投資を行い、浙江省嘉興市平湖では生産能力を年産100万台にする計画を立て、2021年8月に、同社の第一新エネルギー生産ラインが量産に入った。続いて2021年11月に、第二新エネルギー生産ラインが試験段階に入った。話によると、同新エネルギー生産ラインへの総投資額は1億元で、年間予定生産能力は10万組であり、計画では2022年6月に正式な生産に入る。北部の大連では、2020年3月に、同社は1000億円を投資して新たな日本工業団地を建設したが、この大連の新工場では年間360万台分の新エネルギー自動車のモーターを生産することができ、まさに世界最大規模の純電動自動車用モーター工場だ。日本電産が掲げる目標は、純電動自動車モーターの分野で、「2030年までに世界シェアの4割以上を獲得すること」だ。

もう一つの方面は、産業チェーンの再編であり、これも中国企業の強みだ。2022年1月、日本電産は2021年8月に買収した三菱重工工作機械の名称を日本電産マシンツールに変更し、浙江省平湖に工作機械の新工場を設立する予定であり、2023年春には生産に入る見込みだ。これらの工作機械は主に電動自動車(EV)等の製品専用の歯車を生産するために用いられ、投資規模は500億円だ。日本電産はさらに他の日本企業を率いて部品生産のための産業連携を行っており、2022年4月1日にはJFE商事の車載モーターコアプロジェクトを平湖で実施する契約を交わした。同プロジェクトへの総投資額は3400万ドルで、主に日本電産にモーターのコアが提供され、設計生産能力に到達した後、年間生産高は7億元以上に達する見込みだ。大連でも藤洋鋼材加工公司などの日本企業との生産連係が行われている。一連の産業チェーンの再編によって、現在の日本電産は電源デバイスを除いて、他の全ての部品を自社生産することができ、自社生産率は80%以上に達している。

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