1980年代、日本の家電が大挙して米国市場へと入っていった頃には、日本の半導体は世界シェアの半分を占めていた。2021年3月、経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略の方向性」を発表した時、関係会議でこのようなグラフが提出された。




経済産業庁の示す数字によると、1988年、日本の半導体の世界シェアは50.3%であった。1992年の世界トップ10企業のうち6社が日本企業で、NECが2位、東芝が3位、日立が5位、富士通が7位、三菱が8位、松下が10位であった。

しかし20年後の2019年、日本のシェアはどうにか10%を維持し、同年の世界トップ10では、東芝の子会社であるキオクシアが9位でかろうじて日本の名誉を保っているだけとなっている。

経済産業省は、もし何の努力もしなかったら、「将来的に日本のシェアはほとんどゼロ?」(2030年の日本のシェアは水平線に近づく)と考えている。

幸いにも2021年10月14日、台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)が飛び出してきて、2021年の年度決算発表の際、日本に工場を建設するという方針を発表した。

日本のメディアは、とうとう「白馬の王子」が現れ、日本の半導体を危機から救い出してくれるといったような望外の喜びを示した。TSMCの行動はさらに偶然にも、岸田内閣が特に重視している「経済安保」のニーズにも一致していて、日本の半導体業界はとうとう意気揚々の日を迎えることになった。

しかし、日本本土における半導体生産量は増えるかもしれないが、日本の半導体産業はTSMCの到来により徹底的にこの業界から別れを告げ、その最終的な結果は人を悲しませるものとなるのではないかと、私は感じている。


半導体は家電や自動車とは大きく異なる

生産方式のうえで、半導体は家電や自動車と大きな違いがある。

半導体の生産は水平分業方式をとっており、ウェーハ、ダイシング、フィルムコーティング、製品テストなどが異なる国、異なる企業の協力のもとで行われ、これは日本企業がなじんでいる「系列」による生産方式とは大きく異なる。



筆者は日本で大量の家電・自動車関連の企業の調査をしてきた。松下電器あるいはトヨタ自動車のような最終組み立て企業のもとには、数知れぬ部品サプライヤーがいることを私は知っている。日本の部品サプライヤーは往々にして、ある最終組み立て企業にだけに従属し、最終組み立て企業のもとで製品の設計、テスト生産、正式生産、改良、新製品設計、企業経営の改善などの系列をつくり、すべてが系列内部で進められる。完成品組み立て企業の発展は、系列企業全体の発展を突き動かし、完成品組み立て企業の歩みについていける者だけが生き残れ、発展の余地がある。

完成品組み立て企業とその他の完成品組み立て企業は製品上ではほぼ似通っていて、(同じくテレビあるいは自動車を生産する)、共に日本国内および国外市場で、互いに激しい商品開発、企業経営上の競争を繰り広げる必要がある。こうした競争は死活問題にまでは至らないとしても、日本企業に系列を主としながら絶えず生産効率を上げ、よりすぐれた製品を開発し、国内外の市場を拡大する努力を強いている。

系列という生産方式は垂直管理が特徴といえ、日本企業が家電や自動車業界で、一時期世界を制した主な理由ともなった。

半導体が第一段階にあったとき、CPU(中央処理装置)においてもDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)においても、日本企業は極めて強大であった。2000年になってからも、日本は半導体方面でかなり衰退したものの、依然として30%ほどの世界シェアをもち、遅れているとは言えなかった。

しかし、世界は絶えず発展・変化している。2000年以降、モバイル通信が突然産業の中心となった。2010年頃には日本の半導体の世界シェアはまた半減し、15%ほどしかなくなった。日本のスマホなどの方面での遅れは、日本の半導体分野の研究開発や生産を妨げた。あるいは、日本が家電や自動車の系列生産方式でスマホの生産および研究開発、半導体生産をしようとした結果、半導体産業がしだいに他の国よりも遅れたと言っても良いのかもしれない。

OEM生産の出現で、アップルのスマホがOEM生産されただけでなく、同時に半導体部品のOEM生産も育むこととなった。水平分業方式を用い、各国・各企業が自らの最も優れた資源を半導体の設計・生産に注ぎ込むなかで、製品生産数はより巨大化し、製品自体がより精密となり、同時にユーザーの需要にもより近づくこととなった。

一方、垂直生産方式のもとでは、生産された最も優れた製品は同一系列の企業にしか提供せず、こうしたモデルは古いものとなりはじめ、部品がスマホなどの数年あるいは数カ月でモデルチェンジするという顧客の需要に追いつかなくなった。日本のスマホがひどく遅れただけでなく、日本のコンピュータ企業もつぎつぎとその生産を放棄し、3G時代にはまだ世界の中である程度の地位を保っていたものの、4G時代になると、日本の企業はほとんど影をひそめた。また日本の半導体産業もモデルチェンジの速度が遅く、さらに凋落へと向かった。


「先に生まれたものが先に死ぬ」、日本の半導体分野の設備投資が遅れる


半導体生産方式の垂直から水平方向への変化は、その産業に決定的な作用をもたらした。さらに見る必要があるのは、半導体産業自体が長期的で大規模な投資を必要としているが、日本の投資は基本的に1970年代から80年代に投資・建設した工場であり、技術アップグレードはあっても、世界との差は歴然としたものであることだ。

半導体製品の中でも、制御・加工・演算処理方面の半導体は、通常ロジック半導体と呼ばれる。これは計算機、コンピュータ、スマホなどのデジタル機器の中核部品である。ロジック半導体はさらにデータ記憶にも使われるため、記憶半導体とも呼ばれる。

2010年からの10年間には、ロジック半導体の生産能力に巨大な変化が起きた。デジタル化が絶えず進むにつれ、スマホや5Gなどで線幅が5~16ナノのハイエンドロジック半導体が使われるようになり、自動車・産業機械・家電などで使われる20~40ナノのミドルエンドの半導体、40ナノ以上の半導体は一般向けの安価な商品にしか使われなくなり、ほとんど利潤がなくなったのだ。

経済産業省は2021年3月に関連会議を開いた後、会議資料をネット上に公開した。その資料をみると、日本の半導体工場は建設時期が早いばかりか(ルネサスの熊本川尻工場は1969年に建設され、最新の那珂工場でさえ1984年に建設されている)、製品の大部分が40~130ナノのもので(ルネサスの那珂工場では40ナノの製品が生産され、東芝の岩手工場ではいまだ130ナノの製品が生産されている)、40ナノをむりやりミドルエンドに近い製品だとしても、ミドルエンドの中では最もローエンドであり、40ナノ以上の製品にはほとんど利潤がない。

日本の国はこうした工場に絶えずてこ入れをしており、合併という方法により半導体産業を再建したいと思っているが、まだその願いは叶わずにいる。



日本と中国・台湾の2009~2019年の状況を比較してみると、2009年、日本と中国・台湾は基本的にどちらもローエンドのロジック半導体を生産していたが、2019年になると、日本の製品の生産量にはほとんど何の変化もなく、ミドルエンド製品の生産がわずかに増加しただけだったが、同じ時期、台湾ではローエンド製品が増加し、同時にミドルエンド製品の増加量はローエンド製品よりもはるかに多く、さらにはハイエンド製品が突如として成長し始め、総生産量でローエンド製品を超えるようになった。


资料来源:同上  出典:同上

安倍政権の8年間、菅政権の1年間で、日本はGDPで9年前に比べ20%減少したばかりか、住民所得も30%減少し、日本の先端技術、特に半導体方面で大きな後退がみられた。


IMFの統計をみると、安倍政権では国民一人当たりのGDPが8年間で30.5%減少している。

日本の20年前の半導体産業の繁栄が、「先に生まれたものが先に死ぬ」結果となり、2021年になると、日本はTSMCを再評価することしかできず、ひいてはTSMCの力で日本の半導体に活路を見い出させることを期待するまでになった。

TSMCの投資計画と2024年世界の半導体の生産能力過剰

TSMCが10月14日にオンラインで発表した2021年の四半期決算によると、この会社は2022年から熊本県菊陽町に1兆円(約100億ドル)を投資し、22~28ナノの半導体製品の生産工場の建造を始める。日本のメディアは、1兆円という総投資額のうち日本政府が5000億円を出資するとみている。工場は2024年に正式に稼働する。

筆者がTSMCの状況を調べるみると、この会社は台湾で3ナノの工場をもち、米国で7ナノの工場を建設する予定で、中国大陸ではすでに12ナノの工場をもっている。




日本政府がTSMCの日本工場の建設に巨額の資金援助を行うという資金の使い方は国際ビジネス習慣に合致しているのだろうか?政府の補助を受けることに慣れきってしまい、20年もの間、まともな技術革新も生産施設のグレードアップも行ってこなかった日本の半導体企業は、5000億の資金がTSMCに流入し、さらにTSMCの日本工場が全面的に日本企業に取って代り、日本の半導体産業をさらに凋落させるのを目の当たりにして、どのようにして窮地から反撃するのだろうか。

これらのことについては、ここではとりあえず分析を控えよう。しかし、二つの不確定性について指摘する必要がある。

一つは、TSMCは今回日本で22~28ナノの工場を建設した後、2024年からは後期計画をスタートし、さらに一歩進め、7~12ナノ製品の生産に取りかかる予定であるということだ。

現在、日本には最高で40ナノの工場しかなく、7ナノひいては3ナノの段階に入るには、22~28ナノの中間過程が必要とされる。しかしより重要なのは、22~28ナノは、TSMCの台湾島における工場、建設予定のアリゾナ工場、そして南京の工場はみな脅威ではなく、自動車・家電などの業界の需要をまかなうのにちょうどいいと言えることだ。

日本の本国ではまともにスマホはつくっておらず、関連部品の需要も薄い。しかしもし日本が7~12ナノの製品の生産に入ったら、TSMCが生産量を調整し、国際社会にこの規模の製品を受け入れる十分な市場余地があるとしても、とっくに減価償却の終わっている南京工場、日本の工場よりも早くスタートしている米国工場の製品の価格は必然的に日本の工場よりもはるかに安くなる。

日本工場は価格的な強みがあるのか?甘利氏などの日本の政治家が期待する日本の産業チェーンの構築が実現するのだろうか?これらはとても重要な問題だ。

もう一つ、TSMCは一部の半導体技術を日本に移転し、日本の半導体産業を再び勃興させるかどうかについても、筆者は分析したい。

日本は半導体の原材料や半導体生産ラインの部分的設備の重要な提供者であるが、これが故に日本の国内で完全な半導体供給チェーンを築きあげることができるわけではなく、日本企業は単に供給チェーンにおける重要な材料および設備の提供者に過ぎない。こうした状況を変化させるには、TSMCのように世界を市場とし、全面的に関連技術や生産の秘訣を掌握し、市場の需要を満足させるか、米国や中国のように人口が多く、産業需要が旺盛な国であれば、国内に供給チェーンを築くことで国内需要を満足させると同時に、世界市場にある程度影響を与える力をもつ必要がある。つまり、日本の政治家が好む言葉でいえば、ある種の経済安保の力を持つということだ。

日本は1億の人口をもち、スマホ・コンピュータ・5G産業はきわめて弱く、国内市場も限られているのに、経済安保は重要な半導体製品を中国に販売してはならないと日本企業に求めており、日本の政治家の行動目標は、日本の半導体を最大の不確実性に直面させてしまうのではないか。


結び

多くの時、人々は日本の半導体産業の凋落を、日米半導体交渉、米国の日本企業に対する圧力のせいにしたがる。

実際には、2000年に入ってからは、日米貿易戦争はこの二つの国における主調ではなく、日本が自ら半導体産業における投資を放棄し、関連技術および経営上の革新を行わず、日本が自らスマホ、コンピュータ、5G基地局などの産業上での進歩を放棄したのだ。

半導体などの産業の凋落から20年余りが経った後、TSMCの介入は日本に技術移転をもたらさないばかりか、日本の半導体を危機の中から救い出すこともできないだろう。2024年前後に到来するだろう半導体産業の過剰生産能力危機が、もしかしたら日本の半導体産業の最後の望みを押しつぶしてしまうのかもしれない。【文=観察者網コラムニスト 陳言】

観察者網 2021.10.27掲載

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