【毎週日系企業ウォッチ】


研究院オリジナル 東芝エレクトロニクスは中国企業との間でサプライチェーンにおける深い連携を展開し、「下流では中国市場に接近」、「上流では中核資源を確保」を図っている。トヨタ、パナソニック、川崎重工業など複数の日系企業が武漢で水素エネルギー産業に参画し、ユニ・チャームは中国ペットフード市場への投資を大幅に拡大している。


東芝エレクトロニクスと中国企業の深い連携はケーススタディとしての意義を持つ


2025年9月24日から26日まで上海で開催された上海国際電力部品・再生可能エネルギー管理展示会(PCIM Asia)の展示会場では、日本の半導体大手である東芝エレクトロニクスと、中国のSiC(炭化ケイ素)新興企業「基本半導体」の共同ブースにおいて、業界の慣例を打ち破る光景が見られた。ブースの両側には、東芝の中核技術であるSiCチップ技術と、基本半導体のパッケージング能力、市場応用成果がそれぞれ展示され、中央には両社の協力から生まれたカスタマイズソリューションが配置されていた。このようなブランドの深い融合と成果の共同展示というスタイルは、従来の国際大手企業が「独立したブランドイメージ」を強調する出展スタイルとは大きく異なる。


この出来事は、東芝エレクトロニクスが中国市場を開拓する上での戦略的転換点であるだけでなく、近年の日系企業が中国市場戦略を調整する「典型例」と見なすことができるだろう。


両社の協力モデルは、東芝がその中核的強みであるSiCチップ技術の研究開発に焦点を当て、パッケージングや市場展開など中国顧客に近い分野を基本半導体に委ねるというものだ。このモデルの利点は明らかである。東芝にとっては、多額の資本を投じて現地のパッケージング生産ラインを建設する必要がなく、基本半導体の現地経験を生かして迅速に顧客に製品を提供できる。中国顧客はカスタマイズサービスや技術サポートの応答速度に非常に高い要求を持っており、基本半導体は「即時対応」を提供し、東芝が「海を隔てた遠隔地にある」というサービスの弱点を補うことができる。顧客にとっては、現地化された協力により使用のハードルが下がり、東芝のチップ技術による保証を得られるだけでなく、迅速なカスタマイズサポートも享受できる。


基本半導体との「下流での市場接近」協力に加えて、東芝は中国のSiC基板リーディングカンパニーである「天岳先進」とも「上流での核心資源確保」のために協力している。2025年PCIM Asia開催直前、東芝エレクトロニクスは天岳先進と基本合意を結んだ。その協力内容は単なる商業調達をはるかに超えるものであり、両社は、天岳先進が開発したSiC基板の供給を基盤として、SiCパワー半導体の特性向上と品質改善に関する技術協力をさらに展開することで合意している。


数年前を振り返ると、東芝エレクトロニクスはSiCチップの研究開発領域で深い蓄積があったものの、「単独行動」という運営モデルが原因で、車載やサーバー電源など中国で需要が旺盛な分野では進展が遅れていた。しかし、現在では、東芝が基本半導体と「緊密な提携」をし、さらに天岳先進との深い協業を通じて、日本企業の中国における発展戦略転換の新天地が描き出されている。


武漢が水素エネルギー産業を展開する日系企業の核心的な拠点に


9月下旬、「2025日本企業による武漢訪問」イベントがトヨタ、パナソニック、川崎重工業など30社以上の日系企業を集め、水素エネルギー産業を重点的な連携分野としていた。これで武漢は、日系企業が水素エネルギーを展開する核心的な拠点となる見込みだ。


最近、武漢市は「水素エネルギー産業発展3か年行動計画(2025~2027年)」を公表した。計画によれば、2027年までに武漢を全国で重要な水素エネルギー装備の中心地、水素エネルギーのハブ都市に育て上げるという。市内の水素エネルギー産業総生産額を200億元に引き上げ、そのうち水素エネルギー(燃料電池)自動車、応用装備及び部品の生産額を120億元としている。


政府の推進に加え、武漢が備えている水素エネルギー産業の基盤が鍵である。武漢には、宝武鋼鉄集団、中韓石化、液化空気などの企業があり、石油エネルギーによる水素製造と工業副産物の水素回収による水素供給システムを構築している。武漢ではガスコークス炉から水素製造プロジェクトや、三峡集団が推進している水素製造・充填一体型プロジェクトなどが稼働しており、武漢の水素供給能力はさらに向上している。武漢は水路網が発達しており、周辺県などの地域ではヨシなどを栽培してバイオマス水素を製造する取り組みも推進されている。2027年までに水素総生産能力は年間40万トンを突破し、グリーン水素の製造コストは国内他都市より約30%低くなると見込まれている。


実際、既に武漢で水素エネルギー産業の展開を開始している日系企業もある。


トヨタは、蜀道集団と共同で武漢経済技術開発区に水素燃料電池生産基地を建設する予定で、第一期投資は5億元とされている。商用車燃料電池システムの製造に焦点を当て、2027年までに生産能力を年間5000台に達する見込みである。同時に、トヨタ通商は現地企業と連携して燃料電池検査センターを建設し、日本の水素安全基準体系を導入して、華中地域の水素エネルギー装備に認証サービスを提供する予定である。トヨタ中国の上田達郎総裁は、武漢の産業基盤と政策支援が、同市をトヨタのグローバル水素戦略における「核心的な支点にしている」と述べている。


パナソニックは、武漢経済技術開発区で「水素エネルギーコミュニティ」のモデル事業を展開し、水素コージェネレーション、燃料電池バックアップ電源などのシステムを統合することで、コミュニティの電力需要の30%、暖房需要の50%を満たすことができる。このプロジェクトは2026年までにモデルケースを完成させ、その後、武漢の他の新区へ複製・展開していく計画だ。


川崎重工業は、武漢の長江航路の利点に注目し、武漢船舶職業技術学院と共同で連合ラボ(実験室)を設立、200kW級内陸水素船舶エンジンの研究開発を計画し、2028年までの商業化応用を目指している。同時に、川崎重工業は武漢港の水素充填埠頭建設に参画し、「船舶製造~水素充填~運営サービス」という完全なチェーンを構築し、内陸河川の水素運輸における市場の空白を埋めようとしている。


トヨタ、パナソニック、イワタニ産業などの日系企業は、武漢市産業基金と連携し、規模20億元の「中日水素エネルギー協力基金」を設立。水素エネルギー核心材料、装備製造などの分野のスタートアップ企業への投資を重点としている。イワタニ産業はさらに、武漢に3箇所の高圧水素ステーションを建設し、2026年までに第三環状道路をカバーする水素充填ネットワークを形成し、水素燃料自動車の規模の普及を支援する計画だ。


ユニ・チャームが中国ペットフード市場への投資を大幅に拡大


ユニ・チャームの中国ペット市場への取り組みはかつてないほどの力の入れようだ。江蘇吉家寵物(ペット)用品有限公司と共同で13億元以上を投資して建設したペットフード工場がまもなく本格的に稼働する。これはユニ・チャームが中国で初めてペットフード生産基地の建設に参与するもので、ペット関連商品の中国での売上高が全世界売上高に占める割合を大幅に引き上げることを目標としている。


これまで、ユニ・チャームの中国事業はパーソナルケア用品(衛生用品)が中心であり、ペットケア事業は重点ではなく、ペットフードは現地企業に委託して小規模生産していた。専門家の分析によれば、ユニ・チャームがペット事業への投入を強化する背景には、3つの大きな理由があるという。


第一に、事業業績の分化により、ペット部門が新たな成長の柱となっていること。ユニ・チャームの2025年度上半期決算によると、核心的なパーソナルケア用品事業は振るわず、純売上高は前年同期比6.9%減、核心営業利益は前年同期比26.9%減となった。一方、ペットケア事業は同期間中に、純売上高が前年同期比6.3%増、純利益が前年同期比0.1%増となり、業績成長の鍵を支える存在となっている。


第二に、中国市場が成長期を迎えていること。ユニ・チャームは日本国内のペット市場で長年にわたって事業を展開してきたが、日本市場の成長余地は限られている。一方、中国のペットフード市場は加速的に拡大している。データによると、2022年の中国都市部における猫と犬の飼育総数は1億1655万頭に達し、2018年比で約30%増加した。


第三に、中国が世界市場をリードする力を持っていること。中国のペット飼育ユーザーの認識は進化し、コンセプトはアップグレードされ、細分化、個性化された消費需要と豊富な消費シーンが、世界市場における新商品のインキュベーションとイノベーションを継続的に推進している。多国籍ペットフード企業にとって、中国で研究開発した革新的な製品を自国や他の海外市場に逆輸出することは、すでに業務成長の新たな経路となっている。

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『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。


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