『必読』ダイジェスト 2023年9月18日発行の『財新週刊』に掲載された陳昌華氏の記事はたいへん参考になるので以下抄訳する。
中国では2022年から民衆の貯蓄が増加する一方で消費が減退し、不動産の売れ行きも大幅に減少するという状況が生じており、海外投資家の懸念を招いている。中国もまた、1960年代から1980年代にかけて高度成長を経験した後、長期的な経済停滞に突入した日本のようになってしまうのだろうか?
この問題に理性的に回答するには、現在の中国のデータと30年前の日本のデータを比較する必要がある。全体的に見て、30年前に日本はすでに先進国の水準に達していたが、中国は現段階で先進国とはまだ大きな開きがある。それゆえ、イノベーションではなく改善することによって一定の成長を維持することができる。しかし、否定できない点として、過剰な負債や不動産リスクなど、日本をなかなか抜け出せない低迷状況に陥れた問題は、今の中国でも非常に深刻であり、さらに警戒すべき点として、中国の人口高齢化の速度は30年前の日本と比較すると、さらに楽観視できないということがある。最後に、中国の政治経済システムと国際環境は日本の30年前とは大きく異なっていることがある。
国際通貨基金のデータによると、2022年、購買力平価調整後の中国の一人当たりのGDPは、2017年の価格で計算すると約1万8000ドルで、先進国の平均水準の約三分の一だ。しかし、日本は1992年時点で同じ計算方式での一人当たりのGDPが3万4000ドルで、先進国の平均水準の約90%に達していた。従って、30年前の日本はすでに裕福な先進国だったということだが、このことは中国に今でも大きな挽回の余地があることを意味しており、当時の日本と比べると、これは中国にとって最も大きな優位性だ。
過去30年間、中国経済は投資と輸出がけん引する成長にかなり依存してきたが、民衆の消費は長期的に低い水準のままだった。毎年計算するGDPに占める投資支出の累計に対して、改めて一定の減価償却調整を行うとしたら、2022年の中国における一人当たりの固定資産純値は2万8000ドルで、1992年の先進国における3万8000ドルの水準とさほど大きな差はない。従って、今後数十年間に中国の固定資産投資の増加は先進国の過去数十年間と変わらない水準にまで後退する可能性がある。同様に、ディグローバリゼーションと産業チェーンの安全性強化という背景の下、中国の輸出が世界に占める比率が再び上昇することはかなり難しくなっている。民衆の消費は中国で最も潜在力がある成長分野には違いないが、もし消費によって本当に全体的な経済成長をけん引したいのならば、民衆の可処分所得がGDPに占める比率を引き上げること、民衆の貯蓄率を下げることという2つの方面において努力する必要がある。
国際決済銀行のデータによると、中国の総負債率(総負債/GDP)は2022年末時点で約297%と、1992年の日本の水準と変わらないが、同時期の米国(186%)、フランス(175%)、ドイツ(150%)の水準よりも高い。もし中国の負債を民衆、企業、政府に分類するとしたら、民衆の負債はまだ妥当な水準で、全体的な政府負債も処理が可能なレベルだ。現在、最も深刻なのは企業負債で、企業負債の大半は国有企業や都市建設や投資開発企業の負債となっており、従って間接的な政府負債の問題と言える。
当時の日本は、経済成長予想が後退し、長期的なデフレ圧力に直面していた時、企業と民衆は負債で首が回らなくなり、ローンを組む意欲が低迷し、政府は長期的な財政刺激政策を支持するために大きな借金を背負った。これらの状況はいずれも中国が今後しばらくの間非常に重く見るべきリスクだ。
90年代初め、日本の不動産と株式市場で2つの資産バブルが同時にはじけたことは、多くの後遺症をもたらした。中国のA株は長年にわたって値動きが調整されて安定していため、あまり深刻なバブルにはならず、また株式は中国の一般民衆の財産に占める割合が比較的低い。従って、中国の主な資産リスクは不動産市場に集中している。人口成長と都市化が後退しているという背景の下、長期的な経済成長に対する民衆の自信が顕著に上昇しない限り、不動産市場でいかに秩序立った調整を行うかという点が、今後も長きにわたって巨大な挑戦となることだろう。
さらに別の不利な要素は人口構造だ。1990年から2010年まで、日本の人口は約4%上昇していた。国際連合の予測によると、中国の総人口は2020年から2040年までの間に約3%減少するという。この状況は中国が今、直面している人口問題が30年前の日本よりも深刻な状態にあるということを意味する。同時に、2022年の中国における人口の年齢中位数は38.5歳で、1992年の日本の37.8歳よりも高く、しかもその数値は今後10年から20年以内に急速に上昇すると見られ、人口の高齢化圧力は日本よりも大きい。
この他、中国の政治経済システムと日本のそれとは本質的な違いがある。まず、中国は社会主義国家であり、国内の民間資本をどう扱うかという問題において、日本とは本質的に異なる。他の先進国の経験から見れば、民間企業が新たな経営モデルを創出し、科学技術イノベーションを推進する過程で最も重要な役割を果たす。民間企業に長期的な投資をする意思がない場合、それは中国経済の発展にとって大きな長期的障害となる。次に、先進国との関係だ。80年代末から90年初にかけて、日本と米国の間で熾烈な経済面における競争が繰り広げられたが、それでも日本は米国をはじめとする西側諸国にとって主要な盟友であり、世界の産業チェーンの外に追い出される心配などなかった。しかし、中国にしてみれば、それは今後しばらくの間、中国経済の成長を抑制することになりかねない最大のリスクの一つである。
(『日系企業リーダー必読』2023年9月20日-10月5日の記事からダイジェスト)