【毎週日系企業ウォッチ】


研究院オリジナル 高市早苗氏の政策主張は、在中国日系企業のリスクを上昇させる可能性があり、研究院は5つの対策を提案。/ヤクルトがピンチに陥り、(2024年12月の上海工場閉鎖から)1年も経たないうちにさらにもう一つ工場を閉鎖。/初の日本独資の証券会社が中国に上陸、みずほ証券は旗幟鮮明に現地化を推進。


高市内閣が増大させる在中国日系企業のリスクに、どう対応すべきか?


髙市早苗氏は産業政策において「経済安全保障」を重視し、根拠を示さず「鹿を蹴り上げている人がいる」ことを理由に、日本在住の外国人(主に東アジア系)に対する不信感や不満を公に表明しており、経済安全保障推進法の改正を通じて、日本の半導体・新エネルギー産業の強化を図ろうとしている。髙市早苗氏が日本の新首相に選出された後、その保守的な政治的立場は、在中国日系企業にとって多方面にわたる影響を与えることになるだろう。


第一に、地政学的リスクと市場の不確実性が高まっている。髙市氏は、歴史問題(例えば12年間に11回の靖国神社参拝)、軍備拡張、台湾問題に関する立場から、日本と近隣諸国との関係を人為的に引き離し、日系企業の中国市場での運営に打撃を与える可能性がある。実務的な対話を主張する茂木敏充氏を外相として迎えたことで、安全保障と経済のバランスを図ろうとする意向を示してはいるが、在中国日系企業のリスクが以前と比べて大幅に上昇していることは否定できない。


第二に、サプライチェーンのリスクが増大する。中日産業チェーンは「お互いの中に自分がいる」という相互依存の構造が形成されている。「髙市氏が構築しようとしている強靭な産業チェーンは、半導体などの分野で中国との関係を断ち切ることを目的としている」と一部の日本メディアは見ている。これは、一部の日系企業が中国市場でのシェアを失うだけでなく、サプライチェーンの分断リスクも生み出すだろう。例えば、日本が輸入する稀土類(レアアース)の92%は中国に依存し、磁粉、ネオジム鉄ボロン成品の85%は中国での加工に依存している。中国とのサプライチェーンの関係が断たれれば、日本の新エネルギー自動車、精密モーター産業は「米なしに、ご飯は炊けない(どんなに有能な人であっても、必要なものがなければ何もできない)」に直面することになる。


第三に、中日の科学技術分野での協力は課題に直面している。髙市内閣は米国との技術同盟を強化する計画で、日本を米国の対中技術戦争の枠組みにさらに緊密に組み込み、対中半導体装置、5G技術の輸出規制を拡大する可能性がある。日本の半導体材料企業は生産能力の30%以上を中国市場に依存しており、米国の対中技術封鎖に協力すれば、東京エレクトロンなどの企業は重要な収入源を失うことになる。さらに、同氏が推進する経済安全保障推進法案は、中国資本によるM&Aの審査、重要技術の輸出制限を求めており、日系企業は技術協力において「二者択一」の窮地に追い込まれる可能性がある。


これに対し、研究院は在中国日系企業に以下のことを提案する。


第一に、サプライチェーンの多様化を推進し、中国での生産能力を維持するとともに、非中核部門を東南アジアやインドなどに移転する。


第二に、中国の大学や企業との共同研究開発を通じて、中国のイノベーションエコシステムに深く統合する。例えば、トヨタは寧徳時代(CATL)と次世代電池技術の開発で協力しており、技術封鎖のリスクを回避するとともに、市場のニーズに近づいている。


第三に、中日の政策対話とメカニズム構築に積極的に参加する。中国日本商工会や日中経済協会などの組織を通じて、中日両政府に企業の要望を伝え、コミュニケーションメカニズムの確立を推進する。中国の商務部門、企業協会と積極的にコミュニケーションを図り、誤解や誤った被害を減らす。


第四に、中国の「ダブルカーボン」(炭素排出ピークアウトとカーボンニュートラル)の機会を積極的に捉え、中国企業と水素エネルギー、炭素回収などの分野で協力することで、政策の方向性に合致させるとともに、貿易摩擦のリスクを回避する。例えば、三菱重工は中国電建と海上風力発電プロジェクトの開発で協力している。


第五に、政策リスク評価を強化し、専任者を置いて中日の政治的動向、特に台湾問題、歴史認識などの敏感な問題の推移を注視し、事前に緊急時対応計画を策定する。


ヤクルト危機、1年足らずで2度目の工場閉鎖


10月20日、ヤクルト本社は、広州第1工場を11月30日に正式に閉鎖すると発表した。この工場は、ヤクルトが中国市場に設立した最初の工場である。実際、これはヤクルトにとって1年足らずで2度目の工場閉鎖であり、昨年12月10日には上海工場を閉鎖している。


ヤクルトは、工場閉鎖は「会社全体の戦略計画に基づくものであり、中国市場での競争力をさらに高めるためである」と説明しているが、アナリストは、「現在ヤクルトは中国市場で大きな課題に直面している」と指摘。ヤクルトの中国における1日平均販売量は、2019年のピークから減少が続き、2025年第1四半期は2021年第1四半期比で45%も減少している。


この減少は、業界全体の発展トレンドや消費者の習慣などの要因に関連している。中国の消費者における健康飲料への需要は、「基礎的な機能」から「精密化、個性化」へと移行している。ヤクルトの典型的な小さな赤いボトルは糖分が高く、上海の飲料格付け制度でD級(最も推奨されない)に分類されているうえ、若年層は低糖質や無糖製品をより好む傾向にある。


また、ヤクルトの関連会社である上海益力多乳品有限公司は「プロバイオティクスが新型コロナウイルスを予防・治療できる」と宣伝したことで、罰金45万元(約900万円)を科され、ブランドの信頼性が損なわれた。ヤクルトが全面に押し出している「100億個の活性乳酸菌(日本では乳酸菌シロタ株)」というセールスポイントも、業界で疑問視されている。


本研究院は、ヤクルトは製品革新に注力し、低糖質・機能性製品を開発すべきと提案する。伝統的な販路を改革し、オンライン戦略を強化、ECプラットフォームやソーシャルメディアのKOLと連携することも重要である。


中国初の日本独资証券会社が設立、現地化戦略を明確に推進


9月30日、中国証券監督管理委員会は正式に、みずほ証券(中国)有限公司の設立を承認した。これにより、日系金融機関による中国国内での独资証券業務運営の空白が埋められることとなった。同社は2023年に中国証券監督管理委員会に対し設立申請を提出しており、承認までに約2年を要した。


業界関係者によれば、「みずほ証券は当初から現地化経営を重視してきた」という。元大和証券(中国)CEOの耿欣氏を総経理に任命。耿欣氏は、日系証券会社の管理経験と現地投資銀行業務のバックグラウンドを兼ね備えている。


激しい競争が繰り広げられている中国の証券市場に対し、みずほ証券(中国)は、国内証券会社が強みを持つ小売ブローカー業務などの分野を明確に避けている。これまで、野村東方証券など他の日系金融機関がこうした業務に参入した際には、「現地適応の問題」が生じていた。みずほ証券は、その業務範囲を証券引受、自己勘定取引、証券資産管理(資産の証券化に限る)などの専門分野に限定しており、業界ではこれは「中国市場のギャップを正確に捉えた合理的な選択」と解釈されている。


今後が期待される一方で、みずほ証券(中国)は依然として多くの課題に直面している。業界の専門家は以下のような提言を行っている。「第一に、日本系製造業企業向けにサプライチェーンファイナンス商品を設計し、技術系企業に対してはクロスボーダー技術M&Aアドバイザリーサービスを提供し、本国のリソースを競争優位性に変換すること。第二に、中国市場の特徴を踏まえ、現地のフィンテック企業との連携を模索し、“現地適応の問題”を解決することである」

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『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。


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