研究院オリジナル 小松製作所(コマツ)2021年度業績によると、2021年はアジア・北米・ラテンアメリカでの売り上げが急激に増加し、前年同期比でそれぞれ112.9%、32.9%、37.4%増加したが、中国は例外であった。コマツが最近発表した最新の業績報告によると、2022年4~6月(2022年度第1四半期)、アジア地区の販売額は前年同期比78%増であったが、中国市場は前年同期比で39.6%減となった。
コマツが中国市場で下り坂となったのは、中国のコロナ情勢や不動産周期などの要素の影響を受けた以外にも、中国のライバルが台頭したという理由が大きく、今後中国企業との競争は世界じゅうの市場において展開されるだろう。
中国の競争ライバルの強みは?
中国は最大の発展途上国であり、持続する工業化・都市化の過程がこれまでコマツに巨大な市場を提供してきた。コマツの中国シェアは最も高いときで15%に達し、2011年の在中企業の売上高は世界の売上高の四分の一を占め、コマツは手厚い報いを受けていた。
しかし、中国がWTOに加盟した後、米国・ドイツなどの国の建設機械企業がどんどん中国に進出し、同時に中国本土の建設機械企業も台頭しはじめ、コマツは日増しに激しい競争にさらされるようになった。コマツは優れた製品の質により依然としてある程度の競争の強みをもっていて、最も貴重なのはコマツのあらゆる製品を平等に扱う品質基準だ。コマツは日本で日本産業界の最高の質を示す「デミング賞」を受賞しており、中国の企業も同じようにこの基準を満たすことを要求している。製品の質の安定を保障するため、コマツの主な部品はすべて自社生産で、コマツが常州に工場の建設投資を行ったときには、同時に組み立て工場と鋳造工場も建設している。
しかし中国の建設機械企業が、最終的にはやはりコマツのかつての市場的地位を奪った。2010年以降、コマツの中国シェアは下がり始め、2019年には4%にまで減っている。中でも抜きんでた中国のライバルは三一重工だ。2021年、三一重工の油圧ショベルは市場占有率が30%を超え、2011年から三一重工の油圧ショベルは連続10年全国での売り上げトップとなり、2020年と2021年には二度、世界の売上高トップにもなっている。コンクリート機械、クレーンなども全国一となっている。
全体的な質からいうと、コマツは三一重工よりも優れているが、三一重工はどうやって市場競争の優勢を勝ち取ったのか?
建設機械の価格は安いものではなく、中国では建設機械の購入主体は個々の商工業者で、彼らは価格に対し、非常に敏感だ。三一重工の製品価格はコマツよりもかなり低く、質の差はあるものの、建設機械を購入する中国の個々の商工業者は時間的コストをより重視する。彼らが請け負う業務は油圧ショベルの作動時間により計算され、建設機械は実際には一種の消耗品であり、質がどんなに良い製品であっても、実際に使用するととても壊れやすく、故障しやいため、輸入設備は質に優れていても、一度故障すれば3~5日の修理時間が必要で、これが作業効率と利益獲得能力に大きな影響を与える。しかし、三一重工はスピードサービスシステムをつくりあげ、世界どこでも建設機械は2時間で現場に到達し、24時間で仕事を終えるサービスを約束している。2021年、三一重工には予測メンテナンスがL3クラスのスマート維持管理レベルに達した5万台の油圧ショベルがあり、これは事前に発見された故障をプッシュすることができ、メンテナンスの効率と即時性を大幅に引き上げ、三一重工はスピード・アフターサービスにより質の差を埋めている。
戦場は中国から世界へ移る
さらにコマツを悩ませているのは、三一重工との競争が中国市場から国際市場にまで広がっていることだ。
2021年の三一重工の海外収入の割合は23%であったが、コマツは海外収入の割合が86%にも達している。そのため、三一重工は国際市場こそ企業の今後の発展空間であると考えていて、三一重工はグローバル化を発展戦略の中心に据えている。2021年、三一重工の海外業務収入は爆発的に増加して、史上最高値を更新し、前年同期比76.16%増となった。東南アジア国家の建設機械市場では、三一重工は価格的な強みにより、コマツと激烈な競争を繰り広げていて、長期的にコマツが「大本営」とみなしていたインドネシアでは、現在両者のシェアはかなり接近している。
建設機械の国際市場における価格は中国国内市場よりもはるかに高く、世界最大規模の北米市場では、価格レベルは中国市場のほぼ2倍であり、三一重工にとっては、高いコスパ+優れたサービスシステムという市場戦略を実施するのに十分なコスト的余地がある。このほか、中国が推進する「一帯一路」戦略も、中国の建設機械企業に大量の注文をもたらしていて、たとえばインドネシアの首都ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道プロジェクトでは、500台余りの三一の建設機械が使われている。アフリカ市場において、2021年の三一重工の売上高の増加は118%にまで達している。
コマツが直面している中国企業の挑戦には、さらに建設機械技術の革新・世代交代によるものもあり、それは中国企業と同じスタート線上に立っているに等しく、長期的な技術蓄積による優勢はもはや存在していない。
電動化は今後の建設機械の技術革新の主な方向であるが、コマツはこの方面で日本の自動車メーカーよりも鋭敏で実際的であり、2016年にはすでにコマツはハイブリット動力技術を30トンクラスの油圧ショベルに応用している。2021年上半期からは、コマツは中国でもハイブリッド油圧ショベルの販売を始めている。
しかしこの方面における中国企業の発展は、より猛烈であるように思われる。2021年、三一重工は34種類の電動製品の開発を達成し、4種類の電動ミキサー車と4種類の純電動ダンプカーなど8種類の電動化建設車両、4種類の電動油圧ショベルなどを含めた20種類の電動製品を発売し、その製品は純電気、バッテリー交換、水素燃料という3大技術路線をカバーしていて、電動建設用車両の販売台数は1400台余りで、シェアは国内業界でトップとなっている。
2021年末までに、もう一つの中国建設機械大手の徐工集団もまた、累計で108種類の電動製品を発表しており、技術路線は同様に純電力、バッテリー交換、水素燃料電池という3種類の主要技術路線をカバーしている。
動力電池を核心とする動力システムは、電動建設機械の主要な生産コスト構成物の一つで、欧米や日韓などの国に比べ、中国には完全な動力電池産業チェーンシステムがあり、これは潜在的な競争の強みである。
1960年代、米国の建設機械大手のキャタピラーが日本市場に進出し、日本国内では3年以内にコマツは存在しなくなるだろうという予測が一般的だった。後にコマツは「A計画」実施により、日本本土の市場占有率を60%以上に戻して、さらに「B計画」により、海外拡張を実現し、米国市場に追撃をかけ、キャタピラーを毎年赤字に追いやった。現在、コマツは中国で三一重工に遭遇し、当時の自分に会ったように感じていることだろう。
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