研究院オリジナル 2025年9月時点で、バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社(Berkshire Hathaway Inc.)による日本の五大商社への投資額は約63億ドルから300億ドル余りへと、4倍にまで急増し、5社の内2社は持株比率が10%を超えました。バフェット氏は、「今後50年は売却を考えないだろう」と述べ、これらの日本企業の株を長期的に保有する意向です。
日本の五大商社の一つである丸紅は、2025年2月に『中期経営戦略2025~2027年度』(GC2027)を発表し、4月には新しい中国総代表として執行役員の下司功一氏を派遣しました。
「中期」とは、「短期」や「長期」に対して使用される言葉であり、3年程度の期間を指すものです。GC2027では、丸紅の明確な定量目標が設定されています。例えば、2027年までに連結純利益を6200億円以上、3年間の累計基礎営業キャッシュ・フローを2兆円以上にすること、ROE(自己資本利益率)を15%に維持することなどです。また、計画では2030年度までに時価総額を10兆円超にするとされていて、会社の長期的な発展に向けた方向性と目標が示されています。
丸紅などの日本の総合商社の中・長期計画とその利益目標に示された戦略的価値は、バフェット氏ら外国投資家が商社という日本独特の企業群に長期的な投資を集中させる理由の一つだと考えられます。
日本企業(中国)研究院は、GC2027、丸紅の中国戦略、そして中国企業と協力し第三国市場を開拓する方法などについて、下司功一総代表にインタビューを行いました。以下はその主な内容です。
中国市場は3年間の「加速成長」の重要な要素
取材者:丸紅が最近発表したGC2027中期経営戦略(2025~2027年度)に関連して、この戦略は「加速成長の3年」と位置付けられ、コア目標として2030年度までに時価総額を10兆円超にすることが挙げられています。中国市場を担当する総代表として、このグローバル戦略における中国市場の役割をどのように理解されていますか?
下司功一:戦略の進展から見ると、GC2021は「変革の3年」で利益基盤を確立し、GC2024は「戦略実践の3年」で財務基盤の再構築と投資配置を完了しました。そして、GC2027の「加速成長」において、中国市場は間違いなく重要な要素の一つです。中国はサプライチェーンの要所であり、グリーン化・デジタル化の需要が大きい。これは、GC2027の3つの成長ドライバー(既存事業の磨き込みと拡張、成長への資本配分・投資戦略、Global crossvalue platformの追求)との一致度が非常に高いと考えています。
加えて、中国向けのEquity Trade(当社権益からの出荷)で、オーストラリアの鉄鉱石、チリの銅、パルプ等の案件において中国のマーケティングを強化し、権益収益の最大化に貢献します。質の高いトレード運営により安定性と収益性の両立を図ります。
取材者:GC2027では「成長領域への投資」が明記されており、丸紅はこれらの投資方向をどのように実行していくのでしょうか?具体的に重点を置く分野や協力モデルはおありでしょうか?
下司功一:これは非常に重要な質問です。GC2027では「成長分野への投資」を明確に提唱し、市場成長性の高い事業領域において、付加価値の高い商品やサービスを拡充するとともに、地域や領域拡張等により収益性と拡張性を同時追求する戦略プラットフォーム型事業に注力しています。
重点分野として農業資材販売事業、北米モビリティ事業、電力卸売及び小売事業、食品マーケティング及び製造事業、次世代事業開発・次世代コーポレートディベロップメントなどがあります。
農業資材販売事業に関しては、2018年度の連結利益は242億円でしたが、2024年度には420億円に増加し、2027年度の目標は560億円で、成長幅は非常に大きいです。米国及びブラジルの農業は競争力が非常に高く、丸紅のこの2カ国での事業は着実に発展しています。ここで得た知見は、中国の広大な農業バリューチェーンにも応用可能だと考えており、サプライチェーン最適化やデータ活用による生産性向上などで協業の余地があります。
北米モビリティ事業においても、私たちは同様に優れた実績を上げています。2018年度には121億円の連結利益を獲得しましたが、2027年度には農業資材販売事業と同じく560億円まで引き上げることを目標としています。北米は販売金額ベースで世界最大の自動車市場であり、車両の設計・製造から回収処理まで、製品ライフサイクル全体を貫くモビリティエコシステム事業に対する需要が継続的に増加しています。中国のEV・電池分野はイノベーションのスピードが速く、当社のネットワークと組み合わせることで、調達・リサイクル・フリートマネジメント等でウィンウィンのモデルを構築できると見ています。
電力卸売及び小売事業については、連結利益は2018年度の16億円が2024年度には190億円に増加すると見込まれ、2027年度にはさらに300億円まで引き上げる計画であり、発展の余地は非常に大きいです。中国でも新エネ・環境クレジットの分野で、当社の知見を生かしたソリューション提供や市場メカニズムの活用支援に前向きに対応していきます。
次世代事業開発・次世代コーポレートディベロップメントに関しては、丸紅は既存事業の商品ラインナップにとどまることなく、2030年を見据えて急速発展の潜在力を持つ事業分野に投資し、関連事業の開発を推進しています。2024年度末には丸紅の投下資本は2000億円となり、今後5年間で約2倍の価値増を実現させようとしています。2027年末までには投下資本を5000億円にする予定で、2030年末までにプロジェクト評価額8000億円という目標を達成することを目指しています。
組織改革:成長加速に向けて組織力を強化
取材者:2025年4月から丸紅は「16の営業本部を10営業部門に再編する」組織改革を開始していますが、これが中国チームの組織構造や事業協力にどのような影響を与えると考えていますか?総代表として、改革をどう実行しようとお考えでしょうか?
下司功一:今回の組織改編の核心は「加速成長に向けた組織能力の強化」です。経営環境の変化に柔軟に対応しながら持続的に成長し続ける企業への転換を実現すべく、体制を改編しました。大きな事業領域の中で各部門が注力領域・成長領域に対する資本・人財の配分を機動的に行うことを企図し、16の営業本部を10の営業部門に再編・統合しています。中国会社もこれとアライメントをとりながら、改編を進めます。
組織改革は「人財(人材)の育成」なしには実現できません。ミッション本位・実力本位を更に徹底し、人材データを活用して、人材リソースを成長性の高い分野や資本効率の高い分野に投入していきます。事業投資や経営人材の強化にあたっては、全社の知識・経験を共有・集約し、人材の育成を図っていきます。
中国市場の深耕と中国企業の「海外進出」支援

取材者:丸紅の中国市場における今後3年間の展望についてお伺いしたいと思います。中国のGDP成長率は依然として日本などの国々よりも高いですが、GC2027の「加速成長」段階において、中国市場はどのような機会を提供するのでしょうか?また、中国企業が海外進出を試みる際、丸紅はどのように対応していくのでしょうか?
下司功一:中国の経済規模はすでに日本の4倍以上となっています。中国の1%の成長は、日本の4%に相当し、1年間で増加するGDPは、中進国の1年分のGDPに匹敵します。この特性は企業にとって非常に重要で、軽視できません。
加えて、デジタル化、ヘルスケアなどのエッセンシャルビジネス、環境・新エネルギーなど、当社が重点を置く領域で需要は厚く、取引先とのパートナーシップを通じて価値を共創できる余地は大きいと見ています。
時に私たちの会社で米州、オーストラリア、あるいはヨーロッパでうまくいっている事業があっても、実際には中国のマーケットがなければ、成果を上げるのは非常に難しいものがあります。こうしたグローバル需給における中国の重要性を前提に、当社は現地でのマーケティングやサプライチェーンのマネジメントを磨き込み、トレードの質と安定性を高めていっています。
中国企業が海外進出を試みる際、丸紅は世界各地に広がる人脈やビジネスネットワークなどを活用し、業務提携という形で中国企業と共に歩むことができると考えています。これは投資とは異なりますが、意思決定が早く、商社としての役割を即座に発揮することができます。これにより、日本と中国の間に新しいビジネスモデルを構築し、現地規制や資本効率に適合した形でビジネスを発展させることが可能になるでしょう。
丸紅の中国における投資戦略についてですが、私たちは中国市場をグローバル戦略の柱の一つとして位置付けています。1972年に中国市場に進出して以来、丸紅は50年以上にわたって市場を深く開拓し、130社以上の三資企業を設立し、長年にわたり高い貿易総額を維持してきました。事業分野は農業、エネルギー、物流、医療など多岐にわたります。中国市場に対する信念は揺らいでいません。
今後も、丸紅は引き続き長期的視野により中国市場を深耕していきます。同時に中国企業と世界市場との協調的な発展を推進していくことは、総合商社が時代の提示する社会的課題に挑み、事業分野・企業内外・国境といったあらゆる壁を打ち破り、垂直方向の進化と水平方向の拡大を通じて社会や顧客に新たなソリューションを提供するという使命でもあり、さらには丸紅の社是「正・新・和」の理念がグローバルなビジネスの推進の中で継続的に実践されるものでもあるのです。
『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。
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