必読ダイジェスト 「ヒルハウス・キャピタル(高瓴資本、Hillhouse Capital)が牽引する形で、スターバックスの中国業務の公開買い付けが現在行われており、その取引見込み額は50~60億ドルに及び、この年の消費分野で最も大規模な合併買収となるだろう」というビッグニュースが、最近、中国の投資市場に飛び込んできた。実は、昨年11月には「スターバックスが現在中国業務の株式売却を考えている」という情報が伝わっている。


スターバックスが1999年に北京で初めてのチェーン店を開店して以来、中国はスターバックスにとって最も急速に発展し、最大の海外市場となっている。26年が経ち、スターバックスは中国大陸において1000余りの県クラスの市場に7000店舗を超えるチェーン店を設けているが、これは全世界のチェーン店総数の20%を占めている。


いま、スターバックスは中国で未曾有の試練に直面している。2024年度(2024年9月まで)、スターバックス中国の営業収入は前年比1.4%減、売上高は-8%、客単価も同じく-8%となっていて、この劣勢は2024年第4四半期に至っても挽回しておらず、スターバックス中国の営業収入は前年同期比7%減となっている。


「中国市場はもはやこれまでと同様ではないにもかかわらず、スターバックスが旧態依然としたやり方を変えていないことに問題の根源はある」と業界内では分析されている。


まず、コーヒーという飲み物の中国消費市場における位置づけに変化が生じている。かつてコーヒーは中国では舶来の高級飲料とされており、都市のホワイトカラーやエリート階級の典型的な社交場・休憩場所とされてきた。スタバのコーヒー一杯は、単なる飲み物にとどまらず、一種のライフスタイルや社会的地位を象徴していた。しかし、時が経つにつれ状況は変わり、今やコーヒーは中国市場でひろく受け入れられ、お茶と同様の大衆的な普通の飲み物となった。コーヒーがすでに中国人にとって日常の生活消費品となったことで、コストパフォーマンスが消費者にとって、コーヒーのブランドを選ぶ主要な要素となったのである。


中国本土のブランドは鋭敏にこうした市場変化によるビジネスチャンスをつかみ、ラッキン・コーヒー(瑞幸、Luckin coffee)やコッティ・コーヒー(庫迪、Cotti Coffee)などのブランド、そしてきわめて破壊的な役割をもたらした「9.9元価格戦争」が迅速にシェアをさらっていった。ラッキン・コーヒーは現在すでにチェーン店が2万店を超え、1四半期の営業収入がスターバックス中国の2倍以上で、2024年一年間の総収入は前年同期比38.4%増となっている。スターバックスをターゲットとしたチャジー(覇王茶姫、CHAGEE)は成立からわずか8年で、中国ではすでにスターバックスに肩を並べ、先ごろ米ナスダック上場を遂げ、その市場価値は400億元を超えている。


2025年6月、スターバックス中国は25年間で初めての大幅な値下げを余儀なくされ、コーヒー以外の商品を全面的に2~6元値下げしたものの、最低価格は依然として20元以上で、価格戦争においては何ら強みを持っていないと言える。明らかにスターバックスは内心、いまだ自らのハイエンドという位置づけを放棄していない。


次に、中国の消費者はすでに世代交代をしており、Z世代(通常1995~2010年生まれのインターネットの発展とともに成長した世代を指す)が消費の主力となっているが、彼らはまったく異なる特性をもつ。Z世代の消費観念は個性化・多元化し、コストパフォーマンスを重んじる。Z世代にとって、コーヒーは日常の機能性飲料に過ぎず、安く、かつ特色のあるコーヒー商品を選ぶ傾向がある。関連調査データによると、Z世代の消費者のうち、60%以上が10~20元の価格帯のコーヒー商品を買うと答えている。スターバックスの高価値会員のうち、若いユーザーが占める割合は40%に満たない。これと同時にZ世代が好むデリバリーサービスが、スターバックスが誇る「第三の空間」の価値を大幅に薄めている。ラッキンは15分配達ゾーンをつくりあげ、コーヒーをいつでもどこでもすぐ届けられるようにし、消費者の利便性という需要に応えたことが、すでに重要な販売ルートの一つとなっている。


明らかに熾烈な市場競争が、スターバックスに中国での無力感を味わわせている。こうしたときに株式売却の話が出れば、世間はスターバックスが撤退すると考えるだろうが、よりうがった見方をすれば、スターバックスが自らを救うもっとも有効な措置であり、現在の中国市場に積極的に変化を求める一種の選択であるともいえる。


保守的で時代遅れになった企業が伝統を捨て去るのはやさしいことではなく、最も効果的な方法は株式の再編成をし、新たな新鮮な血を引き入れることだ。株式売却は単なる資金注入ではなく、ブランド運営・市場開拓・製品イノベーションなどにかかわる新たな協力パートナーを引き入れることもできる。


スターバックスは中国市場においてすでに長年経営を続けているが、そのビジネスモデルはずっと主に直営モデルであった。しかし中国市場ではスピードが生存のための必須技能であり、自分の力だけで拡張を続け、競争に対応するのは次第に難しくなってきている。スターバックスは現地パートナーの力を借りる必要があり、こうしたパートナーはより深い地方市場の知識、より広い地方のリソースネットワーク、より正確な地方消費者に対する洞察力をもっている可能性があり、これこそが多くの著名グローバル企業、特に消費類企業、すなわちマクドナルドやケンタッキーなどが普遍的に成功したやり方である。


株式の多元化により、スターバックスはより多くのリソースを引き入れ業務展開をすることができる。たとえば現在のデジタル化時代において、効果的なデジタルマーケティングによりブランド知名度やユーザー忠誠度を高めることができる。新たな協力パートナーはデジタルマーケティングで強みをもつかもしれず、これがまさにスターバックスに不足しているものでもある。新たな協力パートナーは現地市場の販売ルート開拓方面でも豊富な経験やリソースを持つ可能性があり、それによりスターバックスは以前には進出が難しかった市場分野、たとえばコミュニティ市場やオフィス内の小型店舗などでも展開できるようになるための助けになるかもしれない。また、協力パートナーはさらにサプライチェーン管理で革新的理念や技術をもたらす可能性があり、スターバックスがよりサプライチェーンの優良化をすすめ、コストを引き下げ、商品の質や供給の安定性を高める助けともなるかもしれない。


株式の多元化は諸刃の剣でもあり、管理をより難しくし、利益の衝突などの問題を生む可能性もあるとはいえ、これこそがスターバックスにとっては最良の選択なのかもしれない。


(『日系企業リーダー必読』2025年7月5日の記事からダイジェスト)

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