【毎週日本企業ウォッチ】
研究院オリジナル トヨタが2027年に全固体電池の量産・搭載を発表したが、その商業的見通しはどうか?ソニーとテンセントはゲーム業界で長期にわたって協力してきたのに、なぜ法廷トラブルに陥ったのか?パナソニックが中国AI産業に投資を増やすのは、どのような考えからだろうか?
トヨタの全固体電池の量産は間近だが、商業的見通しは依然として不透明
日本の自動車メーカーは、固体電池における先行優位性を通じて中国EVに対する逆転を期待してきた。8月、トヨタは全固体電池が日本政府の生産許可を取得し、2027年に量産・搭載されると発表、その際、衝撃的な性能データ(航続距離が1200km、充電10分で80%、15年も劣化なし)を明らかにし、業界に衝撃を与えた。
しかし、中国メディアの多くは、これは中国EVに対する脅威にとはならないと見ている。中国のCATL、BYDなどの電池大手も固体電池領域での研究開発を加速しており、CATLは2027年に全固体電池の小ロット生産を実現し、2030年には大規模化した応用が見込まれている。BYDは2024年に60Ahの全固体電池を生産開始し、2027年にバッチ生産・実証搭載、2030年に大量搭載を計画している。
さらに、固体電池の商業的見通しは技術面だけの問題ではない。日本企業の固体電池は硫化物電解質の技術路線を採用しており、効率は優れるものの、合成プロセスが複雑で水分や酸素に極めて敏感であるため、全工程で不活性ガス保護が必要となり、産業化の難度とコストを大幅に押し上げている。また一方で、日本企業は国内の閉鎖的なサプライチェーンに過度に依存しており、グローバル分業がコスト削減の核心手段となった現在、スケール効果を実現しにくい。中国企業は「材料―バッテリーセル―システム―リサイクル」の全工程統合により、固体電池のコストを0.6元/Whまで圧縮できるが、トヨタの硫化物電池のコストは1.5元/Whと高く、商業的競争力が低い。
中国メーカーは一般的に、酸化物/ポリマー複合電解質などより堅実な過渡的な経路を選択し、安全性と工学的実現性を両立させている。それと対照的に、日本企業の積極的な硫化物路線は性能の潜在力こそ大きいが、工学化、安全性、環境規制の多重の制約に直面している。加えて、中国の動力電池産業は大規模なEV市場、成熟したリチウム電池産業チェーン、政策支援を頼りに、材料調達から設備製造までの全生態的優位性を形成しているが、日本企業は内需規模の不足とサプライチェーンの分断化により限界がある。
本質を究めれば、日本の動力電池産業全体が直面する構造的課題は、標準化、規模化、コストコントロールを核心とする電化時代において、伝統的な垂直統合モデルがオープンでクロスボーダーの協業に取って代わられつつあることだ。産業チェーンの統合と技術路線のイテレーションの間に新たなバランスを見出せなければ、日本勢が中国に追い付くことは難しいかもしれない。
ソニーとテンセント、協力と対立のはざまで
8月19日に、テンセントはこの1年でPCとモバイルで大人気のゲーム「デルタフォース(三角洲行動)」をついにソニーのPlayStation 5プラットフォームに登場させた。「デルタフォース」は7月の1日平均利用者数(DAU)が2000万の大台を突破し、中国ゲーム市場でDAUトップ5、収益はトップ3入りしている。業界では、ソニーが今回の「デルタフォース」コンソール化の最大の受益者になると予想され、相当な収入分配が見込めるだけでなく、PlayStationのゲームエコシステムをさらに強化するとみられている。
「デルタフォース」以前にも、ソニーとテンセントは別のゲームでウィンウィンを実現している。2024年夏、テンセントのゲーム「VALORANT」がコンソールプラットフォームに登場した後、収益が大幅に増加。テンセントの24年7~9月期決算では、当期の「VALORANT」収益が前年同期比30%増となり、ソニーも大きな利益を得ている。
実はソニーとテンセントの協力は、以前は音楽分野が中心だった。テンセント・ミュージックエンタテインメントは早くも2014年、ソニー・ミュージックエンタテインメントの中国大陸におけるデジタル音楽オーディオコンテンツの戦略的協力及び著作権分配パートナーとなっている。その後、両社は数回契約を更新し、さらにはレコード会社とオンライン音楽プラットフォームによる世界初の音楽レーベル「Liquid State」を共同で設立した。
しかし、どれほど良好な友人間でも対立は起こる。今年7月、ソニーは突然、テンセントのゲーム「Wilderness Origin」がソニーの「Horizon」を模倣したとして提訴した。テンセントは長らく「模倣(パクリ)」のレッテルを貼られており、14本のロングセラーゲームのうち完全オリジナルは1本のみで、訴訟が絶えないが、現在までにテンセントのゲームが「パクリ」が理由で敗訴したことはない。ソニーが今回勝訴できるかは疑問だ。
しかし、ソニーが「Horizon」の権利をテンセントに許諾しなかったことに対し、テンセントが「Wilderness Origin」をリリースしてソニーを追い込んだもので、ソニーの提訴は今後の協力でより多くの利益を得るための駆け引きであり、両社は最終的には和解する可能性が高い、と業界関係者は見ている。
これには先例がある。韓国ゲーム開発会社NEXONは、テンセントの「QQ堂」が自社の「クレイジーアーケード」、「QQ三国」が「メイプルストーリー」、「QQ飛車」が「クレイジーレーシング・カートライダー」の「模倣」だと訴えたが、2008年には「ダンジョン&ファイター」の中国地区代理店権をテンセントに与えている。テンセントの比類なきプロモーション能力が代替不可能なものだったからだ。
当研究院は、中国企業の一部のやり方は欧米企業の行動規範に合わないものであるかもしれないが、外国企業が中国企業と協力する際には柔軟な思考が必要だと考える。各自の強みを生かして自分たちの分け前を稼ぐというのは、悪くない選択ではないか。
業績が安定成長、パナソニックが中国AI産業への投資を強化
パナソニックホールディングス(HD)グローバル副社長の本間哲朗氏はこのほど、パナソニックが中国のAI関連産業への投資を強化しており、今年9月には上海に新電子材料工場を建設し、AIサーバー向け電子材料を主に生産すると明かした。
近年、パナソニックの中国・北東アジア地区の業績は安定成長を続けている。2024年度の売上高は前年度比3%増、営業利益は10%増。2025年度第1四半期も収入、利益ともに増加した。これは、世界及び中国の生成AIサーバーへの投資ブームにより、パナソニックの関連電子材料、コンデンサー、実装機などの販売が好調だったためだ。
TrendForceのデータによると、AIサーバー市場の見通しは広く、2023年から2028年までの年間平均成長率(CAGR)は24%と予想される。これを受け、パナソニックは中国での投資を継続的に強化しており、不完全な統計ながら、中国でのAIサーバー関連の電子材料工場への投資はすでに15億元に達している。このうち、7億9000万元を投じた広州第4工場は2023年9月に稼働開始し、AIサーバー向け多層基板を生産。6億元を投じた蘇州高新區の新工場は2024年10月に着工、2026年6月に稼働開始予定で、集積回路の新素材を生産する。今回の上海新工場への投資額は1億2000万元で、2027年初頭の量産開始を見込む。さらに、パナソニックは広州電子材料工場の設備投資を追加する計画があるという。
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